第30話 は?
『成、今度葉桐ちゃんとデートしてくれ。奈桐ちゃんが生き返ったって言った』
兵庫に住んでいる母さんの両親。つまり俺からすれば祖父母なわけだが、その二人に会いに行くことを正式に言い渡された日の昼下がり。
ベッドに寝転び、スマホを触っていると、こんなメッセージが送られてきた。
「は?」
いや、「は?」である。
「は?」しか出てこない。
意味がわからなかった。
メッセージの送り主は迫中。
気付けば俺は上体を起こし、返信の文字を画面に打ち込んでいた。
『どういうことだよ? 何で葉桐ちゃんと俺が? ていうか、どうやって?』
すぐに送信。
……したのだが、送った後に気付く。
どうやって、の回答は既に迫中が提示していた。
奈桐が生き返った、と言ったらしい。
ほんとにこいつは何を考えているのか。
あまりの無茶苦茶っぷりに俺は苛立ちを募らせていた。さすがに言っていい冗談と悪い冗談がある。
「……くそ」
メッセージを送ったのはいいものの、既読が付かない。
しびれを切らし、電話を掛けようとした矢先だ。
コンコン、と部屋の扉がノックされ、すぐに母さんの声が聴こえてきた。
「成。ちょっと今から車出すけど、あんたもついてきなさい」
「……え?」
「凪ちゃんの幼稚園が終わる頃だし、迎えに行ってあげるのと、兵庫への旅に向けた服とか色々買いに行くから。あんたのも買ったげるわよ」
「凪迎えに行くの?」
「そうそう。もうそろそろ出るからね。すぐ準備しといて」
そう言って母さんは俺の部屋の前から去っていく。
足音が遠くなっていった。
「っ……」
考え込むようにして俺は再度ベッドに仰向けになる。
仰向けのままスマホを操作し、迫中へ電話を掛けた。
お決まりの呼び出し音が鳴る。スピーカー設定にしているから耳にくっつけなくてもいい。
「………………」
ルルル、と部屋に何度目かの呼び出し音が鳴ったところで奴は応答した。
『おう。どしたよ成? いきなりだな』
「お前な、いきなりだな、じゃねえよ。どういうことだ、あのメッセージは?」
『あのメッセージ? あぁ、葉桐ちゃんとデートしてくれってやつ?』
「それ以外に何がある。ヤバすぎだろお前。何であんなこと言ったんだ? 奈桐が生き返ったとか何とか」
『あぁ、あぁ。いや、別にあれは言葉の綾というかだな』
「何が言葉の綾だよ。お前、言っていいことと悪いことの区別が付かないのか? 冗談でもあんなのダメだろ。何考えてんだよ」
『……成、あのな……』
「だいたい、死人が生き返るなんて普通に考えてあり得ないだろ? 何だ? 凪を使ってお姉ちゃんが生き返りましたとか言ってくれってか? ふざけんな。どんだけ似てても奈桐と凪は別人なんだ。会った瞬間にバレて、また葉桐ちゃんは傷付くんだぞ? それくらい考えられないのかよ?」
『だから待てって成』
「待てるかよ! ふざけんな! これで葉桐ちゃんは――」
『待てって言ってんだろが!』
電話口から怒号が飛んでくる。
俺も充分過ぎるくらいに語調を強めていたが、それに勝るレベルだ。
つい気圧されてこっちが黙ってしまう。
迫中は雑に咳払いして続けてきた。
『別に俺だって何の考えも無しに奈桐ちゃんが生き返ったなんて言うはずねえよ。そんくらいわかってくれ、親友』
「……そんなこと言われたって……」
『俺と瑠璃な、お前に言われた通りあれから奈桐ちゃんちに行ったんだ。久しぶり
って』
「っ……」
『お母さんにも会ったぜ? 最初は帰ってくれって言われたけど、どうにかこうにか交渉して家に入れてもらって』
「交渉……? どうやって話したんだよ?」
『お前の名前を出した。成も葉桐ちゃんに会いたがってる。会って、今度こそまた外へ出られるよう元気付けてあげたいって言ってる。そうお母さんに伝えた』
「……いるはずがない奈桐の名前も出して、か?」
『……』
黙り込む迫中。
奴はまた咳払いして、俺の機嫌を伺うように、しかし決しておどおどせず、堂々と問うてきた。
『なあ、成?』
「何だよ?」
『俺はさ、奈桐ちゃんが本当に生き返ったんだと思ってる』
「……は?」
『確かにお前の義妹、凪ちゃんは奈桐ちゃんと何の関係もない別人だ。偶然だ。けどな、俺は、俺だけは、それがただの偶然だとは思えない』
「……だから何を……」
『居酒屋で初めて見た時もそう思ったよ。たぶん奈桐ちゃんは、お前や葉桐ちゃんにもう一度会いたいって強く願ってたんだ』
「っ……」
『自分が亡くなった後も、悩みに悩んで、どうやったって忘れられなくて、引きずり続けてるお前たちを少しでも元気付けたくて、彼女は生まれ変わりみたいにして生き返った。そうじゃないかって思うんだ』
「……そんなわけ……」
『無いことも無いだろ? 奈桐ちゃんの性格ならさ。あの子、いつもお前のこと心配そうに近くで見てたんだし』
言われて、心臓がドクッと跳ねる。
思い出された。
隣で心配そうに見守ってくれて、俺が目を合わせるとにこっと笑ってくれる奈桐の顔が。
『心配性なんだよ。心配性なんだ。だから俺は、お前が何と言おうと、奈桐ちゃんが生まれ変わったって思うことにした。凪ちゃんはきっと奈桐ちゃんの生まれ変わりだよ』
「………………」
『お前がキレたって構わねえ。俺は葉桐ちゃんにも言ってやったんだ。奈桐ちゃんは小さくなって生まれ変わった。成の義妹として今生きてるよ、って』
「……っ……」
『別に生まれ変わりは、意識がその人のものじゃなくても成立する。大事なのは第三者がどう思うかだ。あの人があの人の生まれ変わりだ、なんてな』
「……迫中……」
『だから、俺は間違ったことは言ってない。だろ? 成さんやい』
確かに、か。
言われてみればそうだ。
仮に亡くなったその人の意識が無くても、この人がこの人の生まれ変わりだ、という論は通用する。
要はそいつがどう思うかなんだ。
凪の意識が奈桐そのものだって俺は知ってるからムキになってた。
何も知らない迫中の言い分は決して間違っちゃいない。
冷静に考えればそうだ。
「……はぁ……」
『何だよ、そのため息は。まだ俺に苛立つってか?』
「苛立つな。すげーことしてくれた」
『やり過ぎ認定を受けるつもりはないぜ? お前はあくまでも葉桐ちゃんを外に連れ出す手伝いをしてくれって言ってきたんだ。俺はその通り動いただけ。むしろ褒めてくれ。見事その超高難易度任務をこなしたんだからさ』
「はいはい。今度アイス奢るわ。高いやつ」
『おいおい! 何々!? 実は評価してくれてる感じか!? お前、ほんと素直じゃねーのな!』
ははは、と迫中は電話口で楽しそうに笑った。
俺も自然と笑みを作ってしまう。
『こっからは全部お前だからな、成』
「ああ、わかってるよ」
『お前が上手いことやれ。俺と瑠璃のできることと言えばこんくらいのもんだ』
「ありがと。最初聞いた時は何してくれてんだって思ったけど」
『はっはっ。とんだ勘違いだな。有能プレイだったってオチだ』
「認めるの悔しいよ」
『けど認めなきゃなw』
迫中はまた笑った。
俺も笑う。
その後、俺たちは少しだけたわいもない会話をし、俺が外に出ないといけなくなったタイミングで電話を切った。
大事なのは本当にここからだ。
兵庫に行った後くらいになるだろう。
俺は、久しぶりに会った葉桐ちゃんとどう接し、どう凪と会わせるか。
真剣に悩んだ。
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