第43話 海老の舞

甚九郎は「遺伝子の彩り」プロジェクトに新たな触発を受けて、自然界の多様性に目を向け、日本の伝統的な象徴の一つである海老をテーマに選んだ。海老は古来から縁起の良い生き物とされ、長寿と繁栄を象徴する。このテーマを探求するため、彼は海老の動きと形状にインスピレーションを得た簪を制作することに決めた。


赤い簪の制作にあたり、甚九郎は海老の独特な形と流れるような曲線を捉えることに挑戦した。彼は赤い漆を用いて簪の本体を作り、その表面に細かい金箔を施し、海老の鮮やかな色合いと質感を表現した。また、海老の体を模した部分は細かい彫刻で細部まで丁寧に作り込まれ、動きのある姿が見事に再現されていた。


この簪の制作過程は、アトリエでの一大イベントとなった。甚九郎は地元の学校から子供たちを招き、彼らに日本の伝統文化と工芸について教えながら、実際の制作活動を見せることにした。子供たちは、簪が形作られる様子に目を輝かせながら、自分たちで小さな海老の模型を粘土で作るワークショップに参加した。


完成した赤い簪は、地元の伝統工芸展で初めて公開された。その簪は、見る人々を引きつける鮮やかな赤と金の輝き、そして生き生きとした海老の姿が評判を呼び、展示会のハイライトとなった。訪れた多くの人々がその精巧な工芸に感動し、甚九郎の技術の高さを改めて認識した。


展示会の成功後、甚九郎はその簪を地元の美術館に寄贈することを決めた。美術館はこの簪を永久展示の一部として受け入れ、甚九郎の工芸が地元コミュニティだけでなく、訪れる観光客にも日本の伝統文化の美を伝える手助けとなった。


夜、甚九郎は静かなアトリエで一日を振り返り、海老の装飾を施した赤い簪が新たな創造の源となったことに心から満足感を感じていた。壇鉄から受け継いだ技術と精神が、形と色の美しい融合を通じて、次世代にも価値ある影響を与え続けることを確信していた。

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