第9話:おあいこ

「私だけ見られるなんて、不公平じゃない。だから、私もエレンの着替えを覗くわ」


「なぜそうなる⁉︎」


「これでおあいこでしょ?」


「ま、まあ……それはそうだが」


 言いたいことはわからないこともないが、俺の着替えなんて見ても何も得しないと思うのだが?


 いや、減るものでもないので俺としては別に構わないのだが。


「ほ、本当にここで着替えるからな⁉︎ いいんだな?」


「え、ええ! 望むところよ!」


 ここまで言われて今更引き下がるわけにもいかない。


 俺は、ガバッと服を脱いで上裸になる。


 俺は七人の英雄たちにシゴかれていたため、自分で言うのもなんだが引き締まった身体をしているつもりだ。


 服の上からだとわかりにくいが、脱いでしまえば一目瞭然。


 さて、シーシャの反応は——


「〜〜〜〜〜!」


 恥ずかしそうに両手で目隠ししつつ、指の隙間からしっかり覗いてきている。


 あまり男の身体を見たことがないのだろうか。顔を真っ赤にしているのが隠していてもわかる。


 やれやれ。恥ずかしいのなら見なければいいのに。


 俺は胸中で嘆息し、今度はズボンを脱いだ。


 これで、パンツ一枚——通称パンイチになった。


「は、早く服を着なさいよ⁉︎  わざわざ下着だけになる必要ある⁉︎」


「シーシャと同じことをしているだけだぞ?」


「〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎ も、もうっ!」


 シーシャはさっきの出来事を思い出して恥ずかしくなったのか、悶えてしまった。


 やれやれ。これ以上からかうのも可哀想だし、さっさと着替えを終えるとしよう。


 俺は、さっき支給されたばかりのワイシャツに袖を通し、ネクタイを締めた後にズボンを履く。そして、ジャケットを羽織ったのだった。


 セントリア貴族学院の制服は、白を貴重としてところどころに赤のアクセントが入ったなかなかモダンでお洒落なデザインをしている。


 これは男女共通のデザインで、女子の場合はネクタイの代わりにリボンをつけるようだが、どちらにせよ学院生であることが一目でわかる。


 基本的に三年間外に出ない学院生の区別ができる必要があるのかはさておき。


「や、やっと終わったのね……」


「ああ。待たせたな」


 シーシャは俺をジロリと一瞥した後、俺に向かって指を差した。


「じゃあ、これでさっきのはもうお互い忘れるってことで。私は覗かれたことを覚えてないし、エレンは覗いたことを覚えてない。いいわね?」


「あ、ああ……分かった」


「なら良し。じゃあ、これからルームメイトということで。よろしく」


 ……なるほど。


 もしかすると、シーシャが俺の着替えを見ると言い出したのは、俺に気を使わせないための彼女なりの気遣いだったのかもしれないな。


 決して俺が悪いことをしたわけではないが、『お互い様』としてくれたおかげで、俺は変に意識することがなくなった。


 ルームメイトになる人物がどんな人か少し不安だったが、幸いシーシャは良い子そうだ。


「こちらこそ、よろしく」

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