第8話 夕焼けファルセット 1

 静寂を破るように、ゆっくりとエレキギターのアルペジオの音が響き渡っていく。その音を合図にドラムがシンバルを叩いてカウントを取る。そして、立花銀治はゆっくりと歌声を紡ぐ。それが始まり。少しずつ、ゆっくりとギターの音と歌声が混ざり合い、ゆっくりと臨界点へて進んでいく。そして、今!

 シンバルの音を合図に、赤坂一樹がヘフェクターのスイッチを入れる。オーバードライブ。そして、爆発。そうして音楽が世界に響き渡った。


 「ありがとうございました」

 そんな感じにライブは終了。隙間だらけの会場にまばらな拍手が響き渡った。銀治は軽く額に浮いた汗を自分の服の袖で拭った。場所はギターロックの聖地とか言われる場所のライブハウス。またの名を、吐いて捨てるほどいるインディーズの掃きだめ。売れないバンドの下隅の場。

 銀治はゆっくりと、後ろを振り返る。そこにいるのは売れないバンドのバンドメンバー。ドラムとベースとギターの三人。銀治は何も言わず、視線を目の前の会場に向ける。そこには、総勢10人もいない観客。

 遠い。あの人のいる世界には、遥か遠い。そんな売れないバンドマンの場末。それがここだ。そして、あの人のそばにいるためにはここから這い上がらなければいけない。その道のりの難しさは、現在の自分の努力の結果が思い知れせている。でも、困難だからって、あきらめるのとは別問題で。だから、銀治は目を閉じ、軽く自分自身に誓い、言葉を紡ぐ。

 「ありがとうございました。次も、ここでライブをする予定なのでよろしくお願いします」

 その宣言に、観客からまばらな拍手が起こる。ちっぽけだ。自分たちがやっているのは、ちっぽけな一歩。でも、それから始めよう。そう思って、銀治は笑った。

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