魔導士テラノヴァの異世界エロ配信
白江西米
第1話 配信機材とふ〇なりポーション
不在でとめ置かれていた郵便物が、魔導士テラノヴァのもとにとどいた。
四角い革のかばんを開くと、内部には毛織物に包まれた、青白いアクアマリン発動体と、魔法語で書かれた取扱説明書が入っていた。
発送日は2日前と書かれてある。
「なにこれ……?」
羊皮紙を開いて読んでみる。
『
つかいかたはカンタン! あなたの
さらに
何を書いているのか理解できず、首をかしげる。鏡文字で書かれているのかと、手鏡にうつしてみたが、とくに変わらない。
羊皮紙の後半には、魔導士らしき青年が配信球を浮かべて、驚きながら満面の笑顔をしている。どこかうさんくさい、ほがらかさを感じる。背景には稲妻のエフェクトが精密にえがかれていた。
ずいぶんお金のかかった広告だ。
「はぁ……」
師匠が注文した製品らしいが、何の目的でこのような魔道具を買ったのだろう。率直な感想を言えば、映像とやらが何になるのか理解できなかった。おそらく水晶玉を使った未来視の一種で、現代の光景を記録する技術だろうが……。
ただ配信という文字が気になった。
「起動スペルは──あっ」
テラノヴァは思わず呪文を唱えてしまった。アクアマリン発動体が、羊毛のなかから浮かびあがり、テラノヴァの正面にやってきた。
直径3センチほどの半透明の球体が、無音で浮かんでいる。
「これが待機状態。えーっと、あとは共通語で命令する……配信開始」
あたまのなかに、自分を正面から見た画像がうつし出された。
思わず声をあげそうになった。
鏡を見ているように、うごきにあわせて、脳内映像の自分もうごいている。投射と侵略をかねそなえた高度な魔法技術だ。
首をかしげ、手をふり、飛びかかるライオンのポーズで両手をあげてみると、映像もそれに追従する。ラグはない。
「ふふふ」
(ふふふ)
声も聞こえた。自分の声はこんなにも高かったのかと違和感をおぼえ、恥ずかしくなった。
『ご利用ありがとうございます』
謎の声が聞こえた。
一気に警戒モードになり、迷妄の杖を手にとった。
「コラリア!」
床にいたクラーケンの幼生が、殻からでて触手をひろげた。
魔力がリンクする。
パチパチと静電気がスパークした。
魔力探知で敵対存在の位置をさぐり、襲撃にそなえる。襲われる理由は数えきれないほどあった。今度はどこにならず者がやってきたのかと頭が痛くなる。
『ご安心ください。私は配信球をサポートする
「……そうですか」
にわかには信じがたいが、情報を得るためにおとなしく聞く。
『各機能の詳細な説明は必要ですか?』
「お願いします」
『ではお手元の羊皮紙に書かれた、チュートリアル開始スペルをお唱えください』
テラノヴァはなんだかよくわからなかったが、言われるままに詠唱した。
『うけたわまりました。配信モードではあなたの映像を、視聴者にむけて配信します』
「視聴者って、だれが見るのですか?」
『その答えを詳細におつたえするためには、ながい時間が必要です。今まで同じ質問をしたかたがいらっしゃいましたが、途中で断念されました。満足度のたかい回答の一例としては「開発者も正確にわかってていないので、説明できません」です。近年の説では、おそらく大小どちらかの月に住んでいる人間が、見ているのだと仮定されています』
「月って……」
空にはふたつの月がある。おおきな月とちいさな月が、となりあって並んでいる。
月は神の世界だとか、別の人類が住んでいるだとか、崩壊した廃墟があるだけだとか、信ぴょう性の不明なさまざまな意見があるが、神話や伝説の世界の登場人物しか、月に行ったものはいなかった。
納得できなかったが、考えてもわからないので納得する。
「映像を見せて、何の意味があるのですか?」
『忘備録として使われるかたもいらっしゃれば、宗教の
「人気って……月の人に人気が出れば、何かいいことがあるのですか?」
月の欠片でも空からふらせてくるのだろうか。隕石魔法は高度な魔力制御が必要なので、建物をふき飛ばすときには、月の人の手を借りると楽かもしれない。
『お金がもらえます』
「……」
『お金がもらえます』
テラノヴァはジト目で配信球を見た。途端に信用できなくなった。月の人が共通の貨幣を使っているはずがない。
『お金がもらえます』
「3回も言わなくていいです。月の石で作られたお金が、空から降ってくるのですか?」
『現金を配送するか、ギルドカードに振りこまれます。人気のあるかたは、一か月で金貨800枚をお受け取りになっています』
裕福な商人なみの給料だが、カネは無からわいてくるのだろうか。それとも経済の一部に、すでに組み込まれているカネが送られてくるのか。
「わかりました。ありがとうございました」
『それでは楽しい配信生活をお送りください。最後にひとつだけアドバイスです。あなたの得意な分野と視聴者の好みをあわせると、人気が出やすいでしょう』
「得意──引きこもりが好きですけど、それでもいいですか?」
『その場合は最低でも、下着が見えそうな服装で配信してください』
「嫌です」
停止ワードを唱えて、配信球を止めた。
つまりは客を楽しませる舞台俳優になれと言っている。
テラノヴァは師匠の蔵書をたくさん読んだが、そのなかで当てはめるとすれば、オペラや演劇の登場人物が近いだろう。はなしが退屈だったり、舞台にうごきがなければ、客は飽きてしまう。月の人もそうだろう。
「難しいね、コラリア」
テラノヴァはコラリアを捕まえて膝に乗せ、S字に湾曲した触手を指先ではじいた。
テラノヴァはポーション工房で働いている。注文の品を調合しているとき、すこし時間があいたので、配信球をうごかした。
自動撮影モードにして、自分を中心にゆっくりと回転させて撮る。
『何かしゃべって』
からだを一瞬硬直させた。誰かの声が聞こえる。あたりを見回すが、職人たちは各々の作業に集中している。客もいない。
『驚いててかわいい』
『初配信かな? 見てるよ』
(もしかして、月の人ですか?)
『ファンネームが月の人?』
『声きかせてよ』
思考が声じゃなければ何なのだろうと考えるが、実際に声をだしてみる。
「仕事中だからだめです」
小声でつぶやいた。
『いい声じゃん。もっとしゃべって』
『あと画面を回すと酔うからやめて』
どのようにして受信しているのかわからないが、脳内にうつった映像が、月の人に見えているらしい。テラノヴァはひらめいた。
小声で命令をつぶやくと、配信球は激しく上下にゆれた。
『うわ』
『酔うわ』
『やめろ!』
「ふふふ」
月の人の反応に、思わず笑ってしまった。おもったとおり、配信球を無茶にうごかすと、その通りに映像がつたわる。
しばらく声をおし殺して笑ってしまった。
『二度とするな』
「はい。ポーションをつくる作業を見ておもしろいですか?」
配信球を正面上から、手元にフォーカスする。ただ素材が砕けてゆくだけの映像がうつっていた。
コリコリ……コリコリ……
乾燥した舌が細かくなってゆく。無言でいると、その音だけがひびく。
『眠くなってくる』
(私も退屈です)
『面白い話して』
『テラノヴァちゃんていうのカナ? ひとりで仕事できてえらいね。僕は休憩中だけど今日は暑くて大変だヨ。きみの働くすがたをみて元気をもらっちゃおうカナ!?』
読みあげがうるさかったので、そのまま
『登録者が1名になりました』
「何の登録です?」
『あなたの配信を定期的に見たいと思った人です』
「本を読んだほうが、もっと有意義に過ごせると思います」
『以上です』
夜中に家に戻ったテラノヴァは、趣味のポーション造りをしていた。
そのとき媚薬をつくる工程をすこしかえれば、女体に男性器をはやす薬ができると気づいた。魔導書を調べると、たしかに載っていた。
陰核を変形させて亀頭と陰茎をつくり、その根元の内部に疑似精巣を形成する。その効果をふうじこめたポーションだ。
「そうなんだ……」
両性具有は完成された人間である。
錬金術師のある学派は、人間は神によって生み出され、世代を重ねるごとに神から遠くなり、性が分かれて、寿命が短くなったという。
もともとの人間は、両性具有で何千年も生きられた。
いまの人間は劣化しつづけているため、昔のすがたに戻るために、錬金術で完ぺきな人間を模索していると主張している。
テラノヴァはそのような主義に興味はなかったが、どのような効果があるのか気になったため、禁止されているふたなりポーションを作りはじめた。
彼女は倫理観にとぼしかった。
つぎの日、工房にいる職人仲間に、潤滑材の作成を依頼した。一人で作るには工程がおおく、どうしても時間がかかってしまう。あるていどの品質があればいい部分は、お金をはらって効率化した。
高価なユグドラシルエキスの抽出は自分でおこなう。じっとりと分解されるエキスを待っているあいだ、ほかの素材を注文しにゆく。官営の薬草研究所と冒険者ギルドを回り、採取依頼を出す。
混在を肯定するハーフリングの生き血、男女の形が不安定なワーハイエナの乾燥した脳、環境により性別を変化させる、中性ウミウシの両性生殖器、交雑した深海百合の花びらだった。
それらの素材が手に入るまで、一か月の時間と、金貨180枚が消えた。
ようやくそろった素材を調合し、潤滑材と合成する。
はじめてから3か月後、ようやく成分が安定した。保存台のうえでふたなりポーションが虹色にきらめいていた。
「わぁ」
テラノヴァは無邪気に感嘆の声をあげた。手に取ってみると、ねっとりとした液体がガラス瓶のなかで光っている。
周囲1メートルほどが照らされる。光源になりそうなくらいかがやいていた。
ダンジョンを探検するときに、ランプのかわりに持つすがたを想像をするが、すぐにあたまから追い出した。
(これ、どうしよう)
作ったものの使い道がなかった。素材の代金だけで金貨180枚を使っているので、それに見合った効果が期待されるが、実験するあいてがいない。現状ではランプのかわりになる以外の使い道がない。
「そうだ……!」
知りあいの甲殻防具店には、10歳前後(別種族とのミックスなので人間年齢は20歳)の外見をした娘がいる。褐色肌に白い髪で、エキゾチックな印象を持った女の子で、名前はリード。
あの子なら仲がいいので、成分の実験につきあってくれるかもしれない。
ためせると考えるとわくわくした。
工房長の部屋にゆき、ちかぢか仕事をやすむと告げる。忙しくなかったので首尾よく休みをもらえた。テラノヴァは、さっそくリードを誘いに、橋のしたにある店をおとずれた。
店の正面にかざっている怪物の看板は、あいかわらず不気味でサイケな雰囲気をかもしだしている。
店に入ると廊下でうろうろしているリードを見つけた。
「こんにちは」
声をかけるとリードは走ってきた。ジャンプし、腰に抱きついた。
「いらっしゃい!」
「こんにちはリードさん。おでかけにさそいに来ました。お父さんはどこですか?」
「うれしい! どこに行くの?」
「まずは許可をもらってからです」
「おくで兜を丸くしてるよ! こっちこっち!」
「ありがとうございます」
腰に抱きつかれながら、縦長の部屋をあるく。
シレンは水タバコを吸いながら、台に置かれた頭部甲に、やすりをかけていた。
「おう、あんたか」
「こんにちはシレンさん。たくさん棘が生えていますね」
「ああ」
赤茶けた疫病百足の殻には、あまりにも多くのトゲが生えているので、シレンはそれを適度に間引いて、たいらにならす作業をしていた。いずれは兜の頭頂部をおおう役目につかわれる。
「品質はいいんだがな、手間のかかってしょうがない。で、なんの用だ?」
「今から街のそとにいって、ペンギンの卵を取りに行くのですが、リードさんもつれていっていいですか?」
「いきたい! お父さん行ってもいいよね!」
「ああ。今は手がいる仕事もない。いってこい」
「うわぁーい!」
「あまり遠くには行くなよ」
「リードさんの安全は私が保証します」
「さすがのあんたも、近場では無茶をしないだろうよ」
テラノヴァは苦笑した。
シレンからの評価では、無軌道で安全軽視の無謀者だと思われている。おおむね間違っていなかった。
外行きの服に着替えたリードをつれて、郊外に出た。
せっかくなので配信球を不可視モードでつける。邪魔にならないように背後から追従させる。
「今からペンギンの卵を狩りに行きます」
「うん……たのしみだね」
「この子はリードさんです」
「……急にどうしたの?」
リードが
「月の人に見せる配信をはじめました」
「月の人ってだれ? 新しい魔法?」
「月に映像をおくる魔道具です」
「ふーん。わかんない」
「私もです。気にしないでください」
「うん」
街を出発してしばらくは農地がつづく。魔物のいない安全地帯は、往来がそれなりにある。
街道を進んでゆくと、やがて耕作地がとぎれ、みじかい草の生えた平野になった。
まばらに木々が生え、大きな鳥が空を旋回している。
「ここからは危険地帯です。街道からそれると、魔物除けの結界は作用しません。でも騎士たちが定期的なパトロールをしているので、それなりに安全です」
「知ってる。ねえ、はやくいこ!」
月の人に向けていったつもりだったが、リードに聞かれてしまった。
月の人からの会話もない。
背後からの撮影モードに変更する。
平野を進んでゆくと、平野のとおくに、楕円形のシルエットが見えた。
緑色の皮膚をした平地ペンギン、通称ワイルドペンギンが立っている。
「いるいる。はやくたおそう!」
リードが手をにぎって急かす。
「ペンギンは倒しません。すこし待ってください。念のために道標石を埋めておきます」
「何それ?」
「出発地点をしめしてくれる魔法の道具です。この魔導方位磁針が、道標石のある位置を指します」
「持っていてもいい?」
「どうぞ」
「わぁい。帰りはわたしが案内するから!」
「頼りにしています」
『デート配信?』
(そんな感じです)
ようやく一人、月の人が見にきた。小声でつぶやいて返事をしておく。
荒野での探索がはじまった。
まずは高い草が生えている場所をさがす。
ねらっているのは親が守っていない放置卵である。
ワイルドペンギンは面倒をみきれない卵を、高い草地に穴をほって隠す習性がある。放置卵はふつうの卵よりも栄養価がたかく、味もよい。
何度かそういう場所を見つけたが、すでに穴は空っぽだった。
割れた破片だけが残っている穴もあった。
孵化したか天敵に食べられたのだろう。
「全然みつからないね」
「はい。ここも割れた殻だけです。ペンギンの卵は人気ですし、ライバルもおおいです」
「割れた殻もおっきいね。卵はもっとおおきいのかな?」
「はい」
体調2メートルほどのペンギンから生まれる卵は、体積で言えばニワトリの卵の100倍はある。
リードがぎりぎり持ちあげられるおおきさだった。
「苦労したほうが、見つけたときに嬉しさが増します。どんどんゆきましょう」
「うん。行こ」
探しはじめて1時間がたった。
平野を歩きまわっていると、ときどき平地ペンギンが近くまでよってきて、じっと見つめてくる。
「……うごかないでください」
「うん」
リードを後ろにさがらせ、無言で見つめかえす。
『目がこええ』
『お腹がおっきくてかわいい』
(あの
すこし足を踏みだすと、ペンギンはあたまをかがめてテラノヴァを見た。
そのままじっととまっていると、やがて興味を失って、どこかに歩いて行った。
『ちょっかいを出さなければ安全か』
『なんでちょっと動いて警戒させたんだよ』
(月の人にわかりやすくしました)
あらかじめ教えておいたリードは、注意を守ってうごかなかった。にっこりと笑ってテラノヴァをみあげる。
「言われた通りにうごかなかったよ。ちかくでみるとこわかったぁ」
「がまんできてえらいです。敵対的な行動をとらなければ、ペンギンは襲ってきません」
「ねえ、あんなにおっきいのに、ペンギン肉は食べられないの? お肉がいっぱい取れそうなのに」
「脂が多くて、食べるとお腹を壊しますから、ほとんど狩られません。もしも肉がおいしかったら、今頃は絶滅していたかもしれません」
「ふーん。卵はおいしいのにね」
リードは残念そうだった。
テラノヴァの住むイドリーブ市では、資源管理の観点から「親が守っている卵をとってはいけない」と法で決まっている。もしそれがなければ、卵が乱獲されて絶滅していたのかもしれない。自然のままでいるのと、どちらがいいのか考えたが、食料資源にされるペンギンはどちらも嫌だろうと思う。
いずれにせよ人間の都合である。
雑談しながら、ななめにつき出た石柱にむかった。周囲には細長い草が大量に生えている。
天然の尖塔のような石柱の影に、荒らされていない穴があった。
帽子のような草のおおいを取る。おおきな卵がそこにはあった。赤と黒の縞模様をした卵が見つかった。
「あった!」
「このおおきさなら、たくさん卵料理を食べられます。シレンさんがきっと喜びます」
「うわぁい!」
リードが両手で卵をもちあげた。テラノヴァはかばんを開き、なかに入れてもらう。かばんの容量よりもおおきな卵がなかに消えていった。
魔法のかばんは重量と質量を9割減少させるため、荷物を軽々と持ちはこびできる。
「ひとつとれば十分です。あとはピクニックにしましょう」
「うん! やったぁ! うれしい!」
リードはとびはねて喜んでいる。ワイルドペンギンの卵はかなり美味しい。それをもう楽しみにしている。
かばんから不可視のテントを取り出した。
空中に投げると骨組みが開き、円錐形のテントが自動でひらいた。
内部の天井はたかく、布には魔物をさける香料と、退魔の糸が編みこまれている。一種の安全地帯をつくる魔道具だった。
お茶を用意する。ふたりで毛織物のじゅうたんに座って、話ながらお茶を飲んだ。このときのために、早朝に用意してもらった果実のパイを出すと、リードは喜んだ。
一息つくと、リードはリラックスして足をのばしていた。今なら真の目的を、頼めそうな気がする。
「リードさん、私のお願いを聞いてくれませんか?」
「いいよ。なぁに?」
「じつは新しいポーションを作ったのですが、効果があるのか確かめたいです。協力してくれませんか?」
「うん。どんなポーションなの?」
テラノヴァは深呼吸した。いよいよだ。
「そのまえにひとつ。これは大事なお話なのですが、ポーションの効果は売り出すまで秘密にしなければいけません。ですので、このことは誰にも言わないでください。シレンさんにも秘密にしてください。いいですか?」
「んー、どうして言っちゃいけないの?」
「私の信用にかかわるからです。実験は成功すると思いますが、もし失敗したとき、失敗作だと広まってしまったら、汚名の返上が大変です。だから絶対に言わないでください。私たちだけの秘密です」
「いいよ。秘密だね」
「わかってくれてうれしいです。これは念のために──」
契約の巻物を出してリードにサインしてもらった。先ほどまでの話を肯定する同意書である。これで何をしても詳しい内容を話せなくなった。
「これがふたなりポーションです」
「きれい。光ってる」
「これを飲みます」
ふたをあけ、ふたなりポーションを一気にあおった。
「うえ」
古い紙のような味だった。口腔がおいしくなさでいっぱいになる。
しばらくすると股間に熱があつまりはじめた。下着のしたで、陰核が変化を起こしている。小指のさきほどのふくらみが形成され、膨張し、天に向かって伸びあがりはじめた。
身体が熱い。むずむずして服を着ているのがもどかしい。
「えっ、どうして服をぬぐの?」
「このポーションは身体の一部を男性化させる薬です。効果があるのか確かめます」
「……そんなポーションがあるなんて知らなかった」
「リードさんも裸になってください」
「え? いやだよ」
「効果を確かめるためにどうしても必要です。お願いします。こんなことはリードさんにしか頼めません」
「んー、うーん、んー、んー、んー……」
かなり悩んでいる。テラノヴァが何度もお願いし、説得し、頼みこんだ。テラノヴァが気づかないあいだに、視聴者が増えていた。発言が流れている。
『おれからも頼む!』
『お外は熱いから脱ぎ脱ぎしましょうね』
『なんだよエロ配信かよもっとはやく教えてくれよな』
『性犯罪者にしかみえねえ……』
『ロリを説得しているときが一番エロいまである。もっと情に訴えかけろ』
月の人の発言を参考にした。
「リードさんはかわいいから、どうしても裸になってほしいです。お願いします。見せてくれるだけでいいんです」
「んー、んー……」
「どうしても見たいです。お金をはらってもいいです。金貨です。金貨があればおいしいものが食べられます」
『必死過ぎて笑う』
『それ立ちんぼを説得するときの会話だろ』
「……でも、そとではだかは恥ずかしいよ」
「安心してください。このテントは安全地帯なので、魔物は入ってこれません。入り口を閉じれば人間も気づきません。なにも心配はいらないです」
説得をつづけていると、リードはそのうちすこしくらいならいいかと思いはじめたのか、しぶしぶ服に手をかけた。ほほを赤らめ、わずかにテラノヴァをにらみ、眉をあげている。
「んー、んんー……だったら、一回だけだよ?」
「もちろんです」
『うおおおおおお!』
『やったぜ!』
リードはゆっくりと脱ぎはじめた。ナイフをつけたベルトをはずし、ベストのボタンをひとつひとつはずしてゆく。雰囲気があった。
(ゆっくりぬぐと、いやらしいです)
『わかる』
『いいぞ。盛りあがってきた』
脱衣をじっとながめていると、陰部がむずむずとした。今まで感じた経験のない興奮──燃えるような欲望の感情がわいてきた。
「……そんなに見ないで」
怒られた。
羞恥でそまった不安そうな表情が、また良い。
にかわで固めたプロテクターのついた上着がごとり落ちる。薄い黄土色のインナーがまくりあげられる。なだらかな稜線をもった胸があらわになり、スカートが落ちると白い下着姿になった。
『たまんねえな』
『意外と大人っぽい体つきしてる』
脚から白い下着がぬき取られたとき、テラノヴァは無意識に喉をゴクリとならした。
「んー、ぬいだよ。これでいい?」
「はい。とてもかわいいです。おかげで実験がうまく進みます。きれいなからだです」
「そうなの? なんか……なんか……」
褐色のからだはシミひとつない。
ぷにっとした二の腕のふくらみが、とくに煽情的である。脚のつけ根にある
「ほんとうにかわいいです」
「そうかな……」
リードが照れている。
はやくも脳に男性化の兆候が見られた。
テラノヴァ本人は引きこもりのため、低年齢なみの情緒をしていた。それが同年代の子供同士が引かれるように、ぐうぜん精神年齢が一致して、リードをかわいいと思う男子の精神構造になった。
外見上は6歳ほど離れた年上なのに、釣りあいのとれた異性の裸をみている気分になる。
「……」
裸体から目をそらせない。見つているだけで触りたくなる。合意をとっていないので触れられないが、それ以上に、おなじ空間にいるだけで幸福に思えた。
それは作成された男性器に反映されている。
下着姿のテラノヴァの股間から、布が持ちあがっていった。
「わ、おっきくなっていく」
「はい。実験は順調です」
「またおっきくなった。うごいてるし、なにこれ? 変なの」
「……」
むくむくとたちあがる陰茎は、はじめは人差し指ていどの大きさだった。それがいまや数倍に膨れあがっていた。吊るし売りされている腸詰めのなかでも、太い商品に分類されるだろう。
「ちゃんとした形をしていますか?」
「んー、んー……」
男性器のサンプルを知らないため、男の肉親がいるリードのほうが詳しいはずだった。
「あなたのお父さんとくらべて、変な部分はありますか?」
「お父さんよりちいさい」
「大人はもっと大きいのですか?」
「お風呂屋さんで見たときは、もっとおっきかったよ?」
単純な比較だろうが、それがインモラルな意味に聞こえる。わずかに嫉妬心が芽生え、それ以上に興奮した。
「あっ、わたし知ってるよ。もっとおっきくする方法!」
「えっ、教えてください。どうするのですか?」
「こうやって、こう」
「あっ……」
「えいっ、えいっ。お父さんが女の人を家に呼んだとき、こうしてもらってたの」
「ふぅぅ……!? く、くすぐったいです……うぁぁ……」
数時間後……。
リードはなかなか起きなかった。しばらく待ったがずっと寝ているので、無理やり起こすとふわふわとしていた。
日が暮れる前にテントをかたづけて帰路についた。
体力を使い果たしていた。ながい余韻でからだの制御があやしくなっている。ろれつが回らず、まっすぐに歩けない。ポーションを飲ませても、まだふわふわとしている。
「んー……だっこ……」
「背負います」
ゆっくりと歩いて帰った。
背中から感じる体温がうれしい。わずかにもれでるリードの吐息を感じると、共感がふたたびわいた。
リードとの情交を見せてしまったのだと再認識する。大半が混乱で封印されているため、冷静に考えられる。
(見せてしまったけど、どうせ一生あわない人たちだし……月から地上にやってこないだろうし……)
そう考えると恥ずかしがる必要がないと気づいた。
平原が農地にかわり、市壁が見えてくる。仕事をおえた者たちが、荷物を背負って街のなかに戻ってゆく。荷馬車に箱乗りしてにぎやかに話ながら、帰ってゆく人たちもいた。
門に戻ってきた。身分証を見せて通る。
門を守っている衛兵の幾人かは、おどろいた顔をした。
ふたりの全身から濃厚な事後のにおいが漂っている。あきらかに性行為をした淫臭を発している。
にやにや笑って見送るもの、ぎょっとして気の毒そうに見るもの、首をふって悲しげに肩をすくめたものもいた。
おおむね2人が強姦の被害にあったと思われていた。
テントのなかに長時間居たふたりは、鼻がマヒして気づいていない。
親切な衛兵のひとりが、脱臭スクロールを使って匂いを取ってくれた。
気を強く持つんだぞ、と言い、同情した表情で見送った。
テラノヴァはなんのことやらわからなかったが、あたまをさげた。
甲殻防具店にリードを送る。すやすやと眠っている娘を見て、シレンはあたまをかきつつ礼をいった。
「疲れ切るまで遊ぶなんて、まだまだガキだな」
「とても喜んでくれました。シレンさん、これが卵です」
「おう。食いでのあるおおきさだな」
「リードさんが見つけてくれました」
「ありがとよ。このおおきさなら素材になるな。あんた植木鉢はいるか? この卵で作ってやるよ」
「ありがとうございます」
観葉植物は部屋のオブジェになるので純粋にうれしい。
ミニ椰子を育てようか、それとも潤滑材がとれる棒ゼンマイ、あるいは痛み止めになる紫ケシ──候補はたくさんある。
どれも捨てがたく、見た目をとるか、実用性をとるかで悩んだ。
「リードさんが起きたとき、また一緒に行きたいと伝えてください」
「ああ。遊んでくれてありがとうよ」
父親にそういわれると、すこしの罪悪感がわきあがり、テラノヴァは目をふせた。
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