第21話 怒れる被疑者

「では、判決を言い渡す」


 どれほどの時間が経ったのか。とにかく、ザッカリーにとって退屈な時間は終わりを告げた。


「まず、魔道士ザッカリーに対する処分であるが、これは後に保安兵より伝えることとする。よく従え。いいな?」


 被告が魔道士の場合、その判決を裁判の場で直接言うケースは少ない。後で秘密裡に司法取引が成されるのがほとんどである。判決を知るのは当人と、現地の保安兵および首長のみ。ディムルーラルで言えば、村に常駐している保安兵と村長が対象であった。


「次に、魔道の教授を受けたアモスの刑であるが」


 ラノフはそのまま、アモスの方の判決に移っていく。

 どうせ家族ともども追放だ。ザッカリーはたかをくくっていた。


 ところが、


「アモスはディムルーラルを追放とし、二度とこの地に踏み入れる事を禁じる。以上」


 司法官が述べた判決は、アモスのみを追放するというものだった。


 ザッカリーは目を見張った。子供ひとりにすべての罪を負わせるつもりなのか? 親の監督責任は問われないのか? 村人たちは、本当にそれでいいのか? 刹那の間に疑問が嵐のように浮かんだ。


 たまらず、彼はせわしなく村人たちの表情へ視線を走らせる。が、不服そうな顔をしている者は誰一人いない。むしろ、満悦そうに笑みをたたえている奴さえいる。


「ま、待ってくれ!」


 たまらずに、ザッカリーは叫んだ。ラノフはいかにも億劫げに被告の魔道士を眺める。


「こいつの親はおとがめ無しなのか? おかしいだろう! 第一、ことの発端はこいつの父親が虐待をしていたことが始まりなんだぞ!」


「本件とは関係ない」


「そんなわけあるか! こいつは実の家族と一緒の家にいるのが苦痛で、わざわざ俺のところまで来てたんだ! この村のどこにも居場所がないから、魔道士の家までそれを求めに来たんじゃないか! それに対する情状酌量っていうのは考えないのか!」


 言いながら、何故アモスを庇うのが自分しかいないのか、それへ対する憤りを感じ始めていた。こいつは、こんな孤独のなかで生きてきたのか……隣で黙って立っているこの子供が、ひたすら憐れに思えてきた。


 ラノフは、そんなザッカリーの問いには一切答えず、保安兵にあごで何かを指示した。


「ぐぇ!」


 途端に魔道士の首が再び締まる。ザッカリーは腰を折り首輪に指をかけるが、当然それは外れるどころか、わずかに緩めることさえかなわなかった。


 しかし今度は、彼は発言を諦めなかった。絞り出すような細い声で、懸命にラノフへ食い下がる。


 ……否。それは、そこにいるすべての人に向けての言葉だった。


「いい加減に……しろ! 子供ひとり……まともに守らないで、何が法律だ、何が集落だ、何が村だ! ……ぐ! ……い、いいか。魔道を学んだ者としてはっきり言ってやる……ぐぐ……双子の兄に魔が宿る……なんていうのは、真っ赤な嘘だ! そんな……そんなものを信じて……こんな子供を、ないがしろにしやがって……く……お、お前ら……が、が……ガ……がぇっ!」


 しかしながら、彼の口から出た言葉はそこまでだった。見る間に力を強めていく首輪の前に、ザッカリーの喉はむなしく沈黙する。

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