第15話 アーツの習得

シエロは自分の持つアーツの説明文に目を通して、頭を抱えていた。

ステータスプレートに表示されてる説明文はまぁ酷いこと。



酸攻撃:

酸の力で溶かしちゃおう!


鉄の楽園:

ビルが並ぶって都会だよね〜♪



「………なんですかこれ?」


「俺に聞くなよ、分かる訳ないだろ」


説明文について聞いてみるが、答えられないヨヨ。

答えられなくて当然。なんでしょうこの説明文は?

ウレールのステータスプレートはテキトーだなとは思っていたが、これは……。


シエロは空中に浮かぶステータスプレートに拳を打ち込む。

実体のないプレートに攻撃したところで割れる訳も無く、シエロの拳はステータスプレートを通り抜けるだけだった。

こんなことしても何の意味も無いことは分かっていても、腹の虫が収まらないので、シエロはひたすら拳を突き出す。


「どうするよ?勇者の加護とかにポイント振ってみるか?」


「んんん………」


この2つのアーツにポイントを振るか。

もしくはヨヨが提案する様に、勇者の加護やハートの加護にポイントを振るか。

シエロは悩みに悩んだ末、結論を出した。


「勇者の加護に振るのはアリかもしれないですけど……今はアーツをLv1にして戦えるか試してみようと思います」


シエロはとりあえず今は技が欲しいということでアーツのLvを1にすることとした。


酸にするか、鉄にするか。

鉄の方が勇者としてカッコいい気もするが説明文がかなり気になる。

ビルが並ぶって都会だよね〜ってことは鉄の楽園は鉄系の攻撃ができる物では無く、鉄系のビルを生み出すだけの能力かもしれない。

だとすると魔王を倒しに行くという使命を持つ勇者にはかけ離れた能力かもしれない。

とすれば酸攻撃なのだが……勇者が酸で戦うってのはどうなのか?


「あの……酸で攻撃する人間っているんですかね?」


シエロはヨヨに恐る恐る聞いてみる。

しかしヨヨから返ってきた答えは「そんな奴は見たこと無い」であった。

酸を使うのは爬虫類系統の魔物であったり、ゾンビ系統の魔物ぐらいだろうとヨヨは言う。


「やっぱ酸ってダサいよな?」


鉄の楽園を選びたい気持ちもあるが、攻撃と銘打ってる酸攻撃は確実に戦い専用の技。

酸攻撃にポイントを入れるか…うーん。


「スキルポイント6もあるんだから両方Lv1にするのはどうなのだ?」


ヨヨは悩むならどちらも上げてみるという選択を示すが、それは勿体無いような気がしているのだ。


ゲーム好きからしてみればスキルを広く浅くというのはご法度。

いずれ強くなる敵を相手にする時に、Lvの低い技など使わなくなるというのはお約束なのだ。


どちらもLv1にするという選択肢は今の俺には全くなかった。

1つのアーツに全振りするか、どちらかをLv1にしといて残りのポイントは貯めておくかの二択だったのだ。


「………よし、これにしよう。」


俺はポイントを入れてみる。

選択したアーツのLvが上がり、そしてアーツの説明文が変化していく。





「……………」


「なぁ、元気出せよ。まだLV5だろ?。またLv上げたらいいじゃないか」


アリの巣のような細い洞窟をシエロはまたほふく前進で移動していた。

シエロが不貞腐ふてくされているとヨヨは大丈夫、元気出せよと後ろから声をかけてくる。


元気を出せって言ったか、こいつ?。

俺のアーツの説明文見た後によくそれが言えるな?。

見ただろ、俺のしょうもないアーツ。

幸運0ってのはなんかあると思ってたけど……これはひでーや。


シエロは自分の獲得したアーツの使い道の無さに嫌気が差していた。


シエロは自分のステータスプレートを表示し、ヨヨに再び自分のアーツを見てみろと言う。

ヨヨはさっき見たから覚えていると言ってステータスプレートを見るのを拒むが、それでも見てみろとシエロは低いトーンで言うものだから、仕方なくプレートの見える位置まで飛んで行き、アーツの説明を読み上げる。




酸攻撃Lv1:

酸が出せるようになったよ!

『アシッド:消費MP1』


自己治癒Lv2:

お体には気をつけて下さい。

『肩を元に戻す:消費MP1』

『胃を元に戻す:消費MP1』




ヨヨは笑いを堪えながら、そのプレートに書いてあるアーツを全て読み上げた。


シエロが習得したアーツは3つ。

最初は酸攻撃だけを会得する予定だったのだが、Lvが上がるのと一緒にアーツの説明文が変化するのを見たシエロは攻撃が可能になったなら回復!という考えがよぎってしまいハートの加護をLv2まで上げたのだ。


ハートの加護Lv1。

自己回復ってアーツが出たから、大当たりだ!と思ってポイント全振りしたが…。

肩とか胃とか部分的過ぎる回復アーツ。

他のアーツに変えられないのかな。

これおじさん達が持ってたら大喜びそうなアーツだけど……俺勇者なんだよな〜。


「よかったじゃん。自己回復出て……ぷは」


「笑い事じゃないよ。俺勇者なんですよ!」


「俺もハートの加護欲しかったな〜」


「な〜じゃないですよ、な〜じゃ」


完全に俺のハートの加護を馬鹿にしてくるヨヨ。

最初自己回復のアーツを会得した時は「スゲー、俺が欲しい奴だ、それ!」とはしゃいでたのに。

いざポイント振って技が出てきたと思えば肩と胃。

酒飲みの肩こりおじさんしか求めてないようなアーツしか出てこなかった。

それを見たヨヨはウケるわと大はしゃぎ。

笑われるのは嫌だが、笑われてもしょうがないレベルのガチャ運の無さ。

これがゲームなら初期化して、チュートリアルからやりたくなる。

シエロ・ギュンター、………どうするよ?


俺は自分の運の無さを呪いながら、狭い洞窟を先に進む。

さっきまでいた広い空間ではもうスライムが出てこないだろうと言うことで、俺はヨヨに言われた次の穴場に向かってるのだ。

さっきとは違うルートだが、ここも体2個分ぐらいの狭さ。

俺みたいにLvを上げに来た奴とかち合ったらどうするんだ?


「他の人と正面から会っちゃうと譲れ、譲らないで喧嘩になりそうですよね」


「そんなことにはならないよ。この村の人間はお前がここに来てるの知ってるから」


「冒険者に出くわすとか」


「無い無い、今戦争中なんだろ?。みんなそっちで稼ぐために戦場で働いてるだろ。それにこんな果ての村にわざわざ来るのなんて俺とお前ぐらい、後は税を取りにくる国の兵隊か。冒険者が来たのって、フミヤが来たのが最後だから3、40年も前とかの話になるぞ」


「ラック村ってそんなに人来ないんですか!?」


アスティーナで俺が聞いた話とは大きく違うことをいうヨヨ。

Lvを上げるならここだよねと言ったあいつらの情報源は一体なんだったんだ。

全然人来ないらしいじゃん!!

Lv上げで最初に訪れる村とか思ってたのに。

ウレールの住人はみんなどうやってLvを上げているのだろう。

やっぱりコロネが言うような大人と一緒に国近辺の魔物探索に出るのが普通なのかな?

…………って、あれ?


「今、フミヤって言いました?」


「ん?。言ったぞ。最後にラック村に来た冒険者はフミヤって奴だぞ」


「………」


………はい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る