第48話 田舎王子と六橋 空


●六橋 空サイド



うちの家は京都に本家を構える、古典舞踊『六橋流舞踊』の家に生まれた。

六橋は、舞踊だけでなく様々な日本の古典芸術の元締めでもある、絵画、陶芸、彫刻、引いては歴史研究に加え、最近は生物研究まで幅広く展開する

その影響で、学業にも力を入れており、東の三宗家に対し西の六橋家と呼ばれている。

六橋は各地に博物館、歴史資料館、水族館、動物園など多岐に渡る経営をしておりその影響は、世界にまで及ぶ


そんな六橋家に生まれた、うちは当然の様に舞踊と勉学を英才教育として叩き込まれていいた。


常人なら投げ出しそうな舞踊の練習も、うちの本来の才能もあり既に師である母に迫る勢いだった。

うちは、小学校に上がる時に家の経営する「西王学園」へ入学し、そこでも常に成績上位で有り続けた、中学に上がる頃にはその容姿と抜群の頭脳とカリスマで「氷の女王」等と呼ばれだした。

「氷」というのは、私に言い寄る男共を、うちは氷のような冷たい目で袖にしてきた事に由来してる。

ある日、私に振られた腹いせに私に護衛が付いてない校外学習で一人になったタイミングで襲い掛かって来た男達に対し

「六橋流舞踊」にて返り討ちにしたことから、「女王」の仇名が追加され「氷の女王」となったようだ。


「六橋流舞踊」には幾つかの型が存在し、当然衆目に魅せる為の舞踊に加え本家には裏の型が存在しそれが「六橋流武踊」と一部では呼ばれる武技としての裏の姿だった。


文字通り文武両道に加え、容姿端麗、比類ないカリスマ性を持つ、うちは自然と学校でもリーダーとして担ぎ上げられた。

そんな順風満帆な学園生活を送るなか、父から告げられたのは


「空、お前には運命の許嫁様がいらっしゃる」


父から聞いた時に思ったのは、(まぁ当然でしょうね)という感情だった。

冷静に考えれば、六橋家には、うちしか子供がおらず外部から婿を迎える必要があるのは当然でありその事は幼少の頃より判っていたことなので今更としか感じなかった。

しかし、その後の父の言葉がうちの心に刺さる


「お前の許嫁様である、一堂 雅様は文武、人間的な魅力、人格、すべてにおいて肩を並べる事の無いお方」

うちは、自身の能力に絶対の自信があり誰にも負けないと思っていたが、父はその許嫁こそが最上であると言う

別に父に認められようが認められなかろうが一向にかまわないのだが、この認識はうちにとって感化出来ない物だった


「そして、雅様にはお前の他にも運命により選ばれた、5人の許嫁様が存在する」

「お前は、他の5人に競り勝ち、雅様を射止めないとあかんのや」


うちが?競う?今までうちとまともに競えるような者がいただろうか?これは屈辱だった

「父様失礼ですが、うちも他の5人の方も、その出会った事も無い雅様に対し好意を抱けるのでしょうか?失礼ながら、かなり理不尽な状況で納得出来ない者も居るのでは無いでしょうか?」

父は、黙って首を振る

「空、そのような心配は不要だ、お前は、、イヤ許嫁達は必ず雅様に好意を抱く」

父の自信に満ちた断言に言い返す言葉も見つからない

「お前は、来るべき雅様との初顔見せの際にいい印象を持っていただけるよう、精進するのだ」


この私が、殿方に振り向いてもらう為に、努力を?有りえない・・


高校1年の終わりに事態が動く、どうやら許嫁様が西王学園か東皇高校のどちらかに転入してくるらしい、しかも本人の居ない所で両校が許嫁様の奪い合いをしてるという。

転入試験と言えば、東皇高校もうちの高校もT大卒のレベルでないとまず受からないと言うのに両校とも試験合格とは、忖度がひどすぎると思っていたが、どっちの転入試験結果も満点だったようだ

確かに頭の方は噂通りと言える。

しかし、総力を尽くした争奪戦も東に軍配が上がった、父のあんな悔しそうな表情は初めて見たかもしれない

そんな時、現、六橋流の宗主でもある母が久しぶりに本家に帰って来た

「ほう、空さんずいぶんと綺麗になったなぁ、これなら他の5家にも引けをとらへんのちゃう?_」

母の言い分に少し思うところがあるが、いくらうちでも宗主に逆らう事は出来ないのでその場は黙って頷いた。

父から聞いた話からすると許嫁同士の6家には協定がいくつか存在し雅さんへの身体的な接触は6家の許嫁が全員、雅さまと接触してる事が条件となっているが六橋が掴んでる情報によると二階が既に身体的な接触をしたという事で協定違反を訴えるとの事だ

筋書としては、最初の接触のタイミングを合同体育祭の実行責任者の会合とし、雅さんを強制的に会合に参加するように取り計らう。

次に、七星家を煽って七星 静流にも参加をしてもらう事だ、うちは先に母から残りの5家の中の一つが七星家で同級生の七星 静流も雅さんの許嫁である事を聞かされていた。


母や父の思惑がどこにあろうが、私は見たこともない許嫁に対し好きも嫌いも無いが、私より優秀だと言われてる人物に多少興味あるのと、東の4家に出し抜かれてる現状は、うちのプライドが許さない

東の4家の様子を見て、状況が悪そうなら此方も協定違反に対する特権を行使するつもりだ

「待っててやぁ、雅さん・・・もうすぐ会いにいくでぇ」



翌日、いよいよ明日に会合を控えた、西王学園の面々は当日に現地集合ということで別行動をしていた。

先に前乗りしたうちは、宿泊先のホテル近くの公園を朝の散歩していた、公園の遊歩道を歩いてると子供が追いかけっこしており、うちの横を通り抜けたその時

ビューーと強い風が吹き、うちは慌ててスカートが捲れない様に手で押さえたが、お祖母ちゃんから貰った大事なショールが風で飛ばされた。


「あかん!ちょいまってぇーー」


必死に追いかけるが、スカートにヒール履きで上手く走れない、ショールは風に長され結構な高さまで舞い上がっていた。

その時、誰かが近くの木に掛け登ると枝の反動を利用しショールの所までジャンプして空中で回転しながら着地した。


人間離れした、その動きに目を丸くして見ていると、ショールを取ってくれた背の高い青年がうちにショールを届けてくれた

「なんとか届いて良かったです、風が強いのでお気をつけください」

と、何事も無かったかのようにして立ち去っていく


「ちょっと、お待ちになって!」


ショールを首に巻き付けながら、先ほどの青年のところにお礼を言いに駆け寄った。


「大事なショールだったので、ほんまに助かりましたぁ、おおきに」


青年にお礼をいうと丁寧にお辞儀した


「いえ、たまたま通り掛かっただけで、本当にタイミングが良かっただけです」


顔を上げて、青年の顔を見ると優しく微笑むその笑顔に釘付けになった。



(空、そのような心配は不要だ、お前は、、イヤ許嫁達は必ず雅様に好意を抱く)

父の言葉が頭をよぎる、胸の鼓動が早くなり締め付けられるような感覚に、ハッとして思い切って訪ねてみる事にした


「あのぉ、つかぬ事をたずねますけどぉ、お兄さんはもしかして一堂 雅はんですか?」

(ま、まさか・・・そんな事・・)


「えぇ、そうです、一堂 雅と申します」

彼は、少し驚いた様子で答えた。

初めて経験する今の自分の感情と胸の苦しさが、辛い物ではなくむしろ、幸せを感じてる事に混乱してしまっていた

「なるほど、これは確かにお父様の仰る通りだわぁこの私が一目で好意を持ってしまうとは・・」




「あ、あのー大丈夫ですか?お加減がすぐれないようであれば誰か呼びましょうか?」

顔を上げると直ぐ目の前に雅さんの顔があり、顔が蒸気が出るほど熱くなり頭がぼーっとしてしまった


「ひゃ、ひゃい、だ、だ、い丈夫ですぅ・・ち、ちかい・・」


自分で何を言っているのか分からなくなって変なしゃべり方になってしまった

「そ、そうですか、、では、僕はこれで失礼いたします、貴方も気を付けて行ってください」

(あかん、雅さんが行ってしまう!何か言わんと!何か!・・)

「あ、あのぅ!うち六橋 空いいますぅ空とお呼び下さいぃ、今度またお会いした時にでも、お礼させて下さいぃ」

咄嗟に自己紹介のついでに、名前を呼んで欲しいとまで言ってしまった、そして気が付けば宿泊先のホテルに向かって走りだしていた。



「ふぅ」


ホテルのソファーで一息ついて、先ほどの雅さんとの初めての会合を思い出すとやはり胸がギュッと締め付けられて切ない気持ちが溢れてくる

「はぁこれは、あかんやつや・・・」

テーブルに置いてあるスマホで電話をする


「お母さん、うち決めたわぁ雅さんを絶対ものにするでぇ、そんで協定違反への特権なんやかけどなぁ・・・・」


母に協力を取り付けられた、祖母に貰ったショールを撫でながら心に誓う



【雅さん・・絶対うちの物にするでぇー京女は情に厚いでなぁーお礼は期待しててぇやぁーー】




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