第39話 田舎王子と村長と音野

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豊虎 勇(とよとら いさみ)井の中村の村長で俺の法律上の保護者で豊虎 音野の旦那でもある。


はずだった・・・・


「ばあさんが、雅を見て暴走しないか心配で来てみたが・・・こりゃ重症だな・・・」


爺ちゃんの言葉に横で【プチッ】と音がしたかと思ったら、再び周りの人達がガクガクと震えだした。

・・・・鳳さんはいつの間にか入口まで避難してる


「ほうー爺さん、私になんの相談も無く坊ちゃんを都会に行かせたり、芸能界に入れたり・・・」


「はぁぁ、それは何度も説明したじゃろうが・・・雅には婚約者が居てだな「あたしは、そんなの認めて無いって言ってるでしょうが!!」


音野ばあちゃんの怒声にスタジオが揺れた・・・


「お前なぁ・・・その事は何十年も前から何回も話し合ったじゃろうが・・・」

お爺ちゃんの話をそっぽを向いて聞く耳を持たない


「ばあさん、お前も4門の名跡の端に名を連ねる者としてだな「そんなの関係ない!私にとって一番は坊ちゃんの幸せなの!4門も6家も関係ない!」

音野ばあちゃんは俺の手を握ると


「ね、坊ちゃん私と井の中に帰ろ、ほら坊ちゃんの好きなオムライスも一杯つくってあげるから」


俺は音野ばあちゃんの手をそっと押さえて


「ばあちゃん俺、今まで村の人に大事に育ててもらって、こうして都会に出てきて急に許嫁が出来たり芸能界で仕事したりで戸惑う事ばかりだったよ」

「うんうん、坊ちゃんは何も悩まなくていいのよ、私達がちゃんと将来のお嫁さんも生活も面倒みてあげるから」


「ばあちゃん違うんだよ、俺今 戸惑ったり、悩んだりできてる事が嬉しいんだ」


「坊ちゃん・・・・」


「そして何より、許嫁達とキチンと向き合いたい、これは爺ちゃんに言われたからじゃない、よく分からないけど俺の心がそう語りかけてるんだ」

音野はあちゃんは力なく手を下げると、俺を抱きしめて


「でも、坊ちゃんの家族は私達だから、辛かったり寂しかったりしたらいつでも帰ってきていいのよ」

「爺さんがなんか言ったら、爺さんを追い出すからね!」


お爺ちゃんは肩を竦めて「おいおい・・」とつぶやいたが、それ以上は何も言わなかった。

俺は爺ちゃんの方をみると、軽くウインクして合図した。


爺ちゃんも判ったのか、微笑んで軽く頷いてくれた。


後ろの人影に向かって、爺ちゃんが軽く手を振ると、奥の方から何人かの黒服の男性が椅子を持って現れて俺の隣に置いたのを確認すると爺ちゃんが「よっこいしょ」と腰かけた。


「で、爺ちゃん豊虎自動車の会長って俺初めて知ったんだけど・・・」

そう言うとイヤイヤと手を振り


「あぁー大した事ないわい、どのみち全部お前の物じゃ」







【えええええええええええええええええええええええええええ!】




スタジオが騒然となったが、音野ぱあちゃんの御付きと爺ちゃんの護衛が場を鎮めて、このことは一切他言無用という事になった。

十数年一緒に暮らしてきて、初めて二人の素性が分かった事に驚きだったが。


「俺、二人にこうして出会えて嬉しいよ、俺も凄く心配してたんだよ^^」

そう微笑むと、爺さんは笑顔でウンウンと頷き、音野ばあちゃんは涙を流して俺に抱き着いた。




「あ、あ、あのぅ・そ、そろそろですね・撮影を・始められたら・・嬉しいといいますか・・」

目の前で、プロデューサーが膝を床に付けて低い位置から音野ばあちゃんへ話かけた。


チラッと音野ばあちゃんはプロデューサーの方を見ると


「ひぃぃ」


「ばあちゃん、ほら皆が迷惑するから撮影始めよう」

音野ばあちゃんは少し残念そうにしていたが、撮影がようやく開始した


白鳥さんが俺に対する質問をして、俺がそれに対し解答する形で進行するのだが


「坊ちゃん、街に来ていつも何食べてるの?」「お腹を出して寝てない?」「夜更かししてない?」「お野菜を送ろうか?」「いつでもお部屋を掃除しにいくよ?」


等の質問ばかりで、スタジオの奥の方の鳳さんは額に手を充てて首を振っていた、爺さんはケタケタ笑っていた

周りのスタッフも呆気にとられており、誰一人番組み内で指示する事も無く、1時間の収録分は確保出来たと撮影終了となった。


収録したものの、放送して良い物か・・と嫌な汗をかいていたプロデューサーに鳳テレビの会長から直接電話がありどうやらそのまま軽く編集して放送するようにと直々に指示があったようだ。


控室で着替えを済ませ、鳳さんと待ち合わせのロビーに向かうと大勢の人だかりが出来ており何やら背広姿のいかにも社会的地位の有りそうな人たちが名刺を手に行列を作っていた。


なんの行列だろう??と横目で見ながら歩いていくとその先頭には不機嫌そうな、爺ちゃんとばあちゃんがロビーのソファーに座っていた。

音野ばあちゃんが俺の方にきづくと、ぱーと明るい笑顔で俺に駆けよリ


「坊ちゃん、明日とか来週の金曜はお休みでしょ?一度帰っておいでよーーーおばあちゃん寂しいよー」

俺の両手を握って上下に揺らしながらお願いされてしまった、が


「あー、ごめんばあちゃん、俺学校の体育祭の実行責任者に任命されててね、その顔合わせに明日行かないとダメでさ週末も今度の映画のパンフレットの撮影とかで・・」

そういうと、しゅんと落ち込んだ音野ばあちゃんに


「でも、ほら夏休みは長いから必ず帰るよ!うん!約束する!」

そういうと、満面の笑顔で頷いて喜んでくれた。


それから俺は爺ちゃんと祖母ちゃんに車(今まで見たどのリムジンより豪華だった)で寮まで送ってもらった

ふと車から見た寮の隣の部屋が明かりが付いており、夜おそくまで内装工事をしている様だった。




後日談だが、この日の収録は翌週に放送されて、ただでさえメディアに姿を見せない伝説級の女優でもある白鳥 乙子の初めて見せる孫溺愛の姿に世間は騒然となり、番組史上最高視聴率を叩き出すと共に年間のベストアワードにも選ばれたとの事だった、

俺にとっても「あの男の子はだれだ!、白鳥さんのお孫さんだと!」という事でいろんなメディアに取り上げられて問い合わせが殺到し対応に追われた鳳プロの事務員が過労で倒れたとか・・申訳ありません


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