第1話:知らない異世界★

 ぐっすり寝て、気持ち良く目覚めた俺。

 仰向けに寝ていてパチッと目を開けたら、まず視界に入るもの。


 ……あれ?


 なんか違う?


 これは例のあの台詞を言うところか?

 元ネタは随分昔のアニメだけど、まあいいだろう。


「「…知らない天井だ」」


 声がハモった?!


 飛び起きて振り向いてみれば、隣のベッドに誰かいる。

 サファイアブルーの髪と瞳、白い肌、外国人ぽい顔立ちの可愛い子供。

 男の子かな?

 洋画の子役をやったら人気が出そうな美少年だ。

 でも、なんだか懐かしいような感じがするぞ。

 なんだろう? 以前に会ったことがあるような気がする。

 じ~っと見つめていたら、声をかけられた。


「まんじゅうの餡は?」

「こしあんがイチバン!」


 いきなり何を聞くんだと思いつつも、俺は即答する。


 ……ん?


 なんだか俺が誰だか確認するために訊いた感じがする。

 それに、こんなの確認内容にする奴は1人しかいないぞ。

 よし、俺も聞いてみよう。


「起きてすぐメシ食える?」

「無理! 俺、胃ぃ弱いんだよね~」


 今度は青い髪の子供が即答だ。

 この答え、あいつしかいないような……


「漢字の漢と書いて何と読む?」

「おとこ!」


 おいおい、それ聞くのかよ。

 即答したけどさ。

 こんなこと聞く奴、他にいないだろ。

 俺はそこにいるのが誰なのか分かった気がした。


「「もしかして、モチ/イオ?!」」


 声がハモった。


 パッと浮かんだ相手の呼び名は【イオ】。

 俺の親友で、イベント司会の相方だ。

 その一方で、あれ? こいつそんな名前だったっけ? ってほんのり思う。

 名前もだけど、容姿はもっと違和感があるぞ。


「「なんで子供の姿になってんの?!」」


 またハモった。


 イオに言われて、俺も子供の姿になっていることに気付いた。

 でも、2人とも本来は二十歳だってことは覚えているのに、どんな容姿だったか分からなくなっている。


「「っていうか、ここどこ?!」」


 またまたハモる。


 イオも、今いる場所がどこか分からないようだ。

 見回した部屋の中は、家具も内装もアンティークな感じ。

 個人の家の部屋というよりは、学生寮などの一室っぽい。

 プルミエタウンの居住区プライベートエリアに、こんな部屋は無い。


 2人揃ってベッドから降りる。

 寝る前は1つのベッドに並んで寝ていた筈なのに、2つのベッドに分かれて寝ていたようだ。

 部屋の壁に付いてる鏡を見て、自分の姿を確認すると、染めた覚えは無いのに黒髪ではなくなっている。


 俺はルビーみたいな赤い髪と赤い瞳。

 イオはサフィアみたいな青い髪と青い瞳。

 どちらもイベント司会の時に被るカツラのカラーリングだ。

 自分の髪を引っ張ってみると、ヅラではなく地毛だ。

 それも、染めたような不自然さが感じられない、天然色に見える。

 目の色もカラコンとは違う、自然な色に見えた。


 ……というか、イオだけじゃなく、俺も外人の子役みたいな顔になってるぞ。


 まさか、異世界転生でもしたか?

 とりあえず、これからやることは……


「「部屋の外、見に行く?」」


 ハモッたところで、やることは決まった。

 窓から外を見ても、雪景色の深い森が見えるだけ。

 俺たちは、部屋の外を見に行く事にした。


 部屋の外は扉がズラリと並ぶ廊下だった。

 壁も床もレトロなデザインで、ヨーロッパの古城風味だ。

 照明は異世界ぽく、透明な筒の中に置かれた石が輝いて辺りを照らしている。

 廊下の左右は扉ばかりで窓が無い。

 突き当りまで進んだら、ようやく窓があった。

 その窓から、別の建物が見える。


「「あっちも見に行こう」」


 ハモったからOKだな、という事で次の建物も見に行く事に。

 通路の突き当りには階段があり、降りて行くと外への出入り口はすぐ分った。


「どこ行くの?」

「「!!!」」


 イオが外への扉を開けようとしたところで、いきなり声をかけられた。

 変な声出て飛び上がりそうなくらい驚きつつ振り返ったら、小柄な女の子がいる。

 ピンク色の髪、肩くらいの長さのボブヘアの可愛い女の子だ。

 俺たちと同じく外人の子役系の顔だけど、なんかどっかで会ったような気がするぞ。

 何よりも、そのちょっと高めのアニメ声を、俺たちはよく知っている。


「「カジュちゃん?!」」


 俺とイオがハモりつつ聞いたら、女の子は苦笑して「うん」と答えた。

 カジュちゃんは、プルミエタウンのイベントチーム準社員だ。

 声優養成スクールの卒業生で、声の演技と歌が上手い。

 もっと早く入社していれば、アタルくんホイスを任されていたかもしれない。

 といっても、あの棒読みが今ではアタルくんの個性になっているから、CV福島主任でいいのかもしれない。


「「ここは何処?!」」

「異世界ナーゴだよ」


 俺たちのハモリ質問に、カジュちゃんが答えたのは異世界の名前。

 【ナーゴ】という異世界名、イオは初めて聞いたぞって顔してるけど。

 何故か俺は、心の奥深いところでチリッとした痛みを感じた。


 俺は異世界へ行った経験が無いのに……。

 懐かしくて、切ない感覚。

 ずっと帰りたかった場所へ、やっと帰れた感じ。

 でも何故そう感じるのかは、分からない。

 分からないことが、凄くもどかしい。

 俺のそんな心の内は、表には出さなかったので、イオとカジュちゃんは気付かなかった。



※作品イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093073783626959

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る