SIDE ジョイナ

 私は今、この街のはずれにある墓地に花を供えにきていた。

 守護者の翼はもう私しか残っていない。

「ガイス。ようやくダンジョンの名前がわかったわ」

 この報告にみんなもきっと喜んでくれるだろう。

 昨晩、妙な胸騒ぎがして、魔術師ギルドの最上階のベランダから遠くに見えるダンジョンを確認すると、ダンジョンの入口が光ってることに気づいた。

 急いで部下に領主への報告と、ダンジョンの方へと確認に走らせた。

 1時間程で光りはおさまり、部下の報告を待っていた。

 報告に戻ってきた部下は驚くべき発言をした。

 ダンジョン入口の模様が読めるようになったと。

 私はフラフラした足取りでバルコニーにあった椅子に座り込んで、頭を抱えて当時のことを思い出した。

 ここのダンジョンに初めて訪れてからどれくらいが経っただろうか?

 最初は軽い気持ちで攻略できると思っていた。

 しかし、年数とともにダンジョンの規模も大きくなり、ガイスたちも年齢的に厳しくなっていき、いつしか守護者の翼は、攻略よりもダンジョンの謎を解き明かすのが夢になっていた。

 思えばこのダンジョンは、最初から神聖な空気で満ちていた。

 人と魔物が殺し合う場所にもかかわらずにだ。

 それに悪意の持った人間や盗賊は必ずと言っていいほど戻って来なかった。

 それどころかケガをしている時は、魔物が襲ってこない時もあるほどだ。

  だが1番の謎は、誰も読むことが出来ないダンジョン入口にある模様だろう。

 古いダンジョンには希に古代の文字が残っていることがある。

 それも文献や言い伝え等である程度は調べることができる。

 ここの模様もセリア王国の宮廷魔術師や研究者、ローラ聖教国の神官たちも見に訪れたが解読することはできなかった。

 ガイスたちとも必死になって文献や古書で調べたが、ついに夢は叶わなかった。

 私はエルフの血が混じっているので、見た目はあの頃のままだし、精霊との相性がいいのもそれが理由だ。

 そのおかげで精霊たちの異変も気付けたし、クリスにも知り合うことができた。

 クリスという存在がいることからも、あのダンジョンには何者かの意思が働いていることがわかったが、さらに謎を深めることになった。

 しかし、エルフの血が混じってると言っても、ほんの少しだけのため、見た目はそのままでも体力的にはきつくなっていった。

 その時、ふと随分前にクリスからもらったエリクサーが目に入った。

 棚の一部の誰もが見える場所に置いてあるが、誰もエリクサーと信じていないようだった。

 あるいは他の人にはただのポーションに見えるような何かがあるかもしれない。

 クリスから渡されるところを見たガイスでさえ、うろんげな表情をしていたほどだ。

 その時は、目についただけでなんとも思わなかったが、次の日には虹色に輝くエリクサーを手に持って眺めてる自分がいた。

 エリクサーとは伝説の霊薬呼ばれ、人前や市場に出回ることは絶対ない。

 まず材料や作り方も知られていないのだ。

 かなり大昔に古代のダンジョンの深層から出土した物が王宮の宝物庫に1本だけ保管されていると聞いたこともある。

 それも本当かわからない話だ。

 いや、陛下に聞けばわかるかもしれないが、その話をしてしまうとエリクサーの存在がバレてしまうおそれがある。

 エリクサーの効果は、病気や怪我、欠損、ありとあらゆる不調を治し、健康な者が飲めば肉体が若返り、不老になるとまで言われている。

 不死ではなく不老だ。

 さすがに頭や臓器がなくなれば再生しないということだろう。

 誰も確認できていないため、あくまでも噂だが。

 私は手に持っているエリクサーを見ながらゴクリとツバを飲んだ。

 しばらく悩んでいたが、意を決して飲んでみることにした。

 味は水を少し甘くしたような感じで、トロッとした不思議な舌触りだった。

 すると体が淡い光りに包まれた。

 しばらくして光りがおさまり、自分の体を触ってみても違和感はどこにもない。

 そこで、魔術師ギルドにある鑑定球という水晶でステータスを確認すると、称号にハーフエルフというのが追記されていた。

 耳を触っても変化していないため、身体はそのままのようだ。

 しかし、とても重要なことに気付いた。

 とても重要なことだ。大事なことだから2回言う。

 もしかして私の胸はエルフの血のせいで薄いのではないかと!

 今度クリスに会った時は、胸が大きくなる薬が作れないか聞いてみようと誓った。

 気を取り直して、体力的にも寿命的にも問題をクリアした私は、ガイスたちとの夢を引き続き追いかけることにした。

 エリクサーを飲んでから10年程経っただろうか。

 ついにその時が訪れた。

 今まで不明だったダンジョン入口の模様が読めるようになった。

 そして誕生祭と称し、祭りが開催された。

 私は一つ謎が解けたことを嬉しく思いながらも、第一王子の演説を聞いていた。

 演説を聞き終えると、急にダンジョン入口付近が光り始めた。

 それも尋常じゃない輝き方だ。

 しばらく様子を見ていると、見覚えあるスライムと7人の女性が現れた。

 明らかに人間よりもはるかに上位の存在だ。

 クリスも以前会った時の雰囲気とは随分と変わっている。

 クリスを抱えている女性を見ると、耳がとがっていた。

 私は初めてエルフを見て呆然となった。

 ここ100年ぐらいエルフは人前に現れたことはないと思われており、エルフの存在も危ぶまれていた。

 私は両親のことを覚えていない。

 私の年齢を考えると、もしかしたら100年ぐらい前に両親は人里で住んでいたのかもしれない。

 そう考えていると、クリスがありえない程の魔力を発し、ここにいる全員が膝まずかされた。

 顔を上げて、中心の人物を見ると、精霊だということに気付いた。

 しかし、身体があるということは、上位精霊よりもさらに上の存在だということがわかる。

 私は困惑しながらも、クリスに話しかけるタイミングを待った。

 そして、いざクリスに話しかけてみると、クリスも私のことを覚えていたようだ。

 クリスは私の容姿が変わってないことを不思議に思っていたが、特に気にした様子はなかった。

 それに、どうやら以前会ったクリスは分身らしく、私の目の前にいるクリスはあきらかにレベルが違う。

 精霊の女性に注意された私は、次にエルフの女性を見た。

 それもある一点を注視だ。

 その一点をジーっと見るが、クリスを抱えているため大きさはわからなかった。

 私よりもある気がする。

 気を取り直して、クリスの次に会う約束をした私は上機嫌で魔術師ギルドに戻ってきた。

 第一王子との会食の約束を忘れて・・・。

 案の定、次の日にお偉い様方にお叱りを受けてしまった・・・。


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