第6話 エルフ

 俺がダンジョンに転生してから、50年が経っただろうか。

 ディーネたちが来てから問題が起きることもなく、賑やかになったせいか、時間が過ぎるのが早い気がした。

 特に冒険者の入れ代わりは激しく、見知った顔がいなくなっていくのは、やはり寂しいと思う。言うほどいないのだが・・・。

 しかしダンジョンを訪れる冒険者は減らない。

 むしろ増えてるようだ。

 そのおかげで今ではSランクにまでなった。

 今のステータスはこうだ。


 迷宮魔神めいきゅうまじん(???) Sランクダンジョン

 

 称号 転生者、ダンジョンマスター、魔の森の支配者、精霊の守護者、魔神

 

 スキル 創造魔法(パッシブ/アクティブ)

 

 固有スキル 創造魔法、言語理解、迷宮掌握、生活魔法


 ついに名前が魔神に変わった。

 魔神になったからか、それともSランクに上がったからか、この時からレベル、HP、MPも表示されなくなってしまった。

 スキルが創造魔法になったのは、全部統合されたからだと思われる。

 パッシブとアクティブがあるのは、常時発動しているか、自分で発動するかだ。

 未だにどんな魔法が使えるのか、自分でもわかっていない。

 一度、威圧をパッシブにしたところ、周りに誰も近寄れないこともあったため必要ないものはほとんどアクティブとしてある。

 例えばパッシブは魔力操作系、状態異常無効系、隠蔽系などでアクティブは鑑定や遠見、身体強化などだ。

 攻撃魔法や回復魔法は固有スキルの創造魔法から直接発動している。

 こっちの方が早いからだ。

 物を作る時もこっちになる。

 この世界に無詠唱があるかはわからないが、普通の属性魔法だとやはり詠唱を唱えなければいけないらしい。

 とういうことで、属性魔法の発動は無詠唱の創造魔法一択だ!

 何がいけないのか、人化はまだできてない。ディーネたちにどうやってるのか聞いてみたが、感覚的に出来るって感じで言うので、俺には出来ないということだろうか?

 Sランクになったのにステータスは大分シンプルになってしまった。

 ダンジョン内では全くと言っていいほど使わないから、宝の持ち腐れってヤツだ。

 たまに精霊たちの要望で使うぐらいで、特にディーネたち精霊王はお菓子を頻繁にねだってくる。

 自分たちでも作ってるはずなんだが、俺が創造魔法で作ると、魔力がたくさん含まれてて美味しいらしい。

 ディーネたちは、46階層、47階層、48階層で過ごしている。

 ダンジョンがSランクになったことから、今までの30階層に加え、Sランク用の31階層から40階層を追加し、35階層が採取ができる階層、40階層がサイクロプスが出るボス部屋だ。

 41階層からはドラゴンが大量に出てくる。

 41階層はワイバーン、アースドラゴン。

 42階層はアクアドラゴン。

 43階層はファイアードラゴン。

 44階層はロックドラゴン。

 45階層はテンペストドラゴンで、そこが最下層となる。

 しかし、今まで誰も足を踏み入れたことのないため、ドラゴンは配下や眷属たちと共に悠々自適に暮らしている。

 ドラゴンにはまだ名前は付けていない。

 名前を付ければおそらく進化するだろうが、冒険者がこないようでは意味がないだろう。

 それに名付けして愛着がわいてしまえば、倒されることを考えると心苦しい。

 そして46階層からだが、以前精霊たちを保護した時、ディーネが何でもすると約束したので、それを仕事として与えることにした。

 そういうことで、46階層中央には地上より大きい精霊湖があり、ほとりにはディーネが住む西洋風の大きな家がある。

 湖の周りには薬草や植物が生えており、ここで取れたの薬草はポーションに精製される。

 精霊湖を十字4分割で考えて、右手前側は広大な草原地帯で、ここには牧場があり、馬、牛、豚、鶏、羊、山羊がいる。これは俺が創造魔法で作り出したため、この世界ではここにしかいないと思われる。

 左手前側は大規模な農場で畑にはさまざまな野菜が植えられており、小麦や米まである。

 各場所に精霊湖から水路が引かれ、魔力を豊富に含んでいることから、安心、安全、高品質をモットーに水の精霊たちが育てている。

 右手奥側には果樹園があり、季節問わず色んな果物が取れる。

 これも俺が苗を創造魔法で作り出した。

 こっちは風の精霊たちが育てている。

 左手奥側は森が広がっており、森にはキラービーという蜂と、アルゴンスパイダーという蜘蛛がいる。

 こいつらはアルがどこからか連れてきた。

 キラービーは前世のミツバチを10倍ほど大きくした感じで、名前の割に大人しく、木と木の間にハニカム構造の巣を作り、果樹園や植物の花、精霊湖の水を採取してハチミツを作ってくれている。

 アルゴンスパイダーは体長50センチほどの蜘蛛で黒と紫の体色をしており、木の根元に紫色の糸を吐き出して巣を作っている。

 この糸は魔力を通すと色んな色に変えることができるため武具や服飾品に大活躍だ。

 もちろん透明にもすることができる。

 このキラービーとアルゴンスパイダーは弱く臆病なため、他の魔物から狙われやすく、ダンジョンで保護する代わりに働いてもらっているというわけだ。

 そして果樹園と森のさらに奥には開けた場所があり、そこにアルが住んでる大きなログハウスがある。

 47階層は右に山、左に山だ。

 ここの中央にも精霊湖より小さい湖があり、湖の真ん中には大きな建物が建っていて、橋を渡ることで行き来できる。

 この建物は温泉施設だ。

 右側の頂上が尖った山は鉱山で、色んな鉱物に宝石が取れる。

 鉄に銀、ミスリルにアダマンタイトの希少鉱物まで取れる洞窟が入り組んでおり、どこかにルタの家があるらしい・・・。

 知らないうちにドワーフでも住み着いてそうだ。

 左側の頂上が平らな山は活火山で、平らに見えるのは噴火口になっているからだ。

 と言っても、ここはサラが管理しているため噴火はしない。

 この熱を利用して、ルタの鉱物の加工や温泉の熱源になっている。

 噴火口から離れた山頂の広場には、サラが住む家?というより砦がある。

 ここから一望できる景色は絶景だが、とにかく暑い・・・らしい。

 俺や精霊たちは暑さや寒さは感じないからな。

 もちろん普通の生物や植物には厳しいため、草1本、虫1匹いない。

 次の48階層だが、ここにはアイテム倉庫、宿泊施設、食堂、会議場、鍛治場、錬金場がある。

 アイテム倉庫には、宝箱に入れるためのアイテムが保管されていて、鍛治場で作られる武具や武器類、精霊湖の薬草で作られるポーションがメインだ。

 もちろん他にも鉱物や宝石を加工した物、アクセサリーの装飾品類、服飾品類もある。

 ここの施設は各精霊たちが持ち回りで使用しており、その時々で作られる物も変わってくる。

 特に食事は精霊たちに大人気だ。

 今までは食事は取らなくても問題なかったそうだが、進化して味覚を得たことにより、自分たちで作るようになった。

 別に食べなくても魔力があれば生きていけるらしいが。

 俺はまだ味覚がないので食事は必要としていない。

 人化すれば味覚が得られるだろうか?早く米が食べたい。

 その中でも人気なのは、キラービーのハチミツを使ったパンケーキだそうだ。

 ディーネとアルは取り合うように食べていたことがある。

 以前、太るぞとボソッとつぶやいたら凄い形相で睨まれた。

 何はともあれ、精霊たちはここの暮らしを気に入ったようで、毎日楽しく過ごしてるようだ。

 一番変わったことは、どこからか噂を聞きつけたのか、光の上位精霊クリアと闇の上位精霊ニュクスリムがやってきたことだ。

 2人にもリアとリムと名付け、精霊王となっているが、この2人は本当に自由で、1日中ふよふよと漂っていることもある。

 しかも目のやり場に困るような服装をしているので大変焦る。

 何度となく気配を消して後ろから抱きついてくるのだが、その度にそれを見ているクリスからの殺気は冷や汗モノだ。

 リアは身長150センチ程の白髪、白眼でリムは身長150センチ程の黒髪、黒眼だ。

 2人共、妖艶なお姉さんって感じだが、普段は目を隠してる状態だ。それでも見えてるらしいが。

 髪型も全く同じのため、まるで双子のようだ。

 こんな2人でもちゃんと仕事はしている。

 今までのダンジョンは、俺の魔力で明るいか暗いかだったが、この2人には地上と同じように昼は疑似太陽を、夜は疑似の月を出してもらっている。

 そのおかげで俺も精霊たちも生活リズムを崩さずにやっていけてるし、植物たちの成長も早い。

 そして、49階層だけは創造魔法で魔力を込めに込めて固めた空間を作った。

 この空間は俺以外、誰も入ってくることができないようにした。

 ある実験をしようと思ったからだ。

 最下層はいつも通り、50階層が俺の快適空間となっている。

 そんな穏やかな生活を送っていたある日のこと。

 近くにいたクリスがしゃべりかけてきた。

 ちなみに、何故かいつも近くにクリスがいる。

 気付いたら時には近くにいる。

 それはもう怖いぐらいに。

 一度「好きなことしていいんだぞ」と言ったら

『私はマスターの右腕だからいつも近くにいる。それに悪い虫が付かないようにしてる!泥棒猫たちもいることだし!』

 とよくわからないことを言っていた。

 そのクリスが言った。

『マスター。1階の1号が、エルフが盗賊に追いかけられてるって言ってきた』

「えっ?1号?どこのどれが1号なんだ?ん?なにっ!?エルフってあのエルフか!?」

『あの?他に何がいるの?』

 俺は、異世界定番のエルフがいると聞いて少し興奮してしまったようだ。

 それにしても1号ってことは、他にもクリスの手下がいるってことか?まさかスライム全部ってことはないだろうな?少し身震いしながらも気を取り戻した。

「い、いや。なんでもない。それでどこに向かってる?」

『認識阻害がかかってるから途切れ途切れになる。近付けば看破できるけど。1階を走り回ってる』

 俺は迷宮掌握でエルフの姿を確認した。

「ふむ。あれが定番のエルフか。噂通りの容姿だな。しかし、どう判断していいか迷うな。普通に考えれば盗賊がエルフを捕まえようとしてるんだと思うが、あのフードを被ってるせいでここからじゃわからないな。どうしてエルフだとわかった?」

『定番のエルフ?噂?マスター。エルフの噂ってなに?エルフは精霊と相性がいい。なんとなくわかる』

「い、いや!なんでもないぞ!そうなのか!さて、どうしたものか」

『マスター。盗賊が魔法使う。ちょっとヤバいかも』

「なにっ!?あれは盗賊じゃないな!傭兵だと!?」

『あっ。当たっちゃった』

「チッ!近くに休憩部屋があるな。そこに転移させるか」

 鑑定を使い傭兵とわかり、エルフだけを転移させると、傭兵たちは突然消えたエルフに慌てていた。

「外に見張りが2人いるな。どこかから雇われたってことか。ということはあのエルフも訳ありっぽいな」

『マスター。どうする?』

「ちょっと行ってくる」

『マスター。私も行く』

「お前はここに・・・いや、クリスは傭兵を取り込んで情報を引き出してくれ。それと殺すな。泳がせて背後を探る」

『わかった。でも8人もいらないから、2人残せばいい』

「いや。正規の傭兵なら後がめんどうだからな。全員生かせ」

『そんなの気にしなくていいのに。マスターなら全部振り払える。誰に手を出したかわからせないと』

「いやいや。俺には手を出されてないからな。そんなことより行くぞ!」

『マスター。待って』

「なんだ?」

『んっ』

 クリスは触手のような手を伸ばしてきた。

「なっ、なんだ?」

『手』

「繋げってことか?」

『一緒に跳ぶ』

「お前は自分で転移できるだろう?」

『いいから』

「しょうがないな」

『ふふっ。早く』

「うっ!?」

 繋いだ瞬間ひんやりしていてびっくりしたが、クリスの手?はちょっと気持ちよかった。


 俺は1階層にある休憩部屋に転移した。

 そこにはうつぶせに倒れているエルフがいた。

 背後から魔法があたったため、背中と右半分の火傷がひどく、フードもボロボロになり、エルフ特有の長く尖った耳も見えていた。

「これはひどいな。捕まえるのが目的ならここまでしないはずだが。しかし俺でも鑑定出来ないってことは、よほどの魔道具を持っているか、それとも相当な実力者か?とりあえず回復させるか」

 そこで俺は座り込み、エルフを仰向けにして横抱きした。

 顔は泥まみれでわからないが、気絶してるものの、かろうじて生きているようだ。

「右腕はダメかもしれんな。ポーションで治そうと思ったが無理そうだな。しょうがない。俺の魔力を与えれば全部回復するだろう。ついでに浄化魔法もかけておくか」

 綺麗になったエルフは、目の色こそわからないが銀髪の美しい少女だった。

「やっぱりエルフってのは容姿が整ってるんだな」

 そう思いながら48階層の宿舎に連れて行くことにした。

『クリス。先に帰ってるからな』

『わかった。マスター。私もすぐ戻る』

 宿舎の前に転移すると真人は

「おーい!誰かいるか?」

 と叫んだ。すると目の前に

「はいっ!あなた様のディーネでございますっ!」

「うわっ!」

 シュバッとディーネが現れた。

「ディーネ。それは違いますわ。私が主様のですわ」

 とアルまで張り合ってきた。

 この2人は食堂でお茶をしていたようだ。

 真人が転移してきたことに気付いてたらしい。

「お前らは相変わらずだな。そんなことより、この子の介抱と服を頼む」

「ん~?」

「主様。この子のことをわかってここに連れてきたんですの?」

 ディーネは疑問の声を出しながらエルフを見つめ、アルは目を細めながら問いかけてきた。

「えっ?エルフとしか知らないが、やっぱり訳ありか?」

「そうですわね。かなりの訳ありですわね。この子のことは私も詳しい事情はわかりませんが、少しだけなら後で話ますわ。それより他に誰か付いてませんでしたの?」

「他に?傭兵に追いかけられてダンジョンに入ってきたみたいだが、そっちはクリスが捕まえてくると思うぞ?」

「傭兵?この子は襲われていたんですの?」

「ああ。火の上級魔法を受けて重症を負ってな。休憩部屋に転移させて治療した。さすがにその場に放っておくわけにもいかないしな」

「・・・・・」

「あ~。それでこの子から真人様の魔力が感じられるのか~」

 2人してこちらにジト目を向けてきた。

 その時ちょうどクリスが戻ってきた。

 真人と手を繋げたことが余程嬉しかったのか上機嫌だ。

『マスター。ただいま』

「ごくろうだった。それで?大丈夫だったか?」

『うん。全員生かして取り込んだ』

「よくやった。それで何かわかったか?」

『全然。帝国のなんとかって貴族が雇って追いかけてきただけだった』

「そうか。おそらくエルフを見た貴族が捕まえようとして反撃されて生死問わずのWANTEDウォンテッドにしたか?」

『ウォン・・・?何?』

「いや。なんでもない。忘れてくれ」

 その時後ろにいたディーネとアルはコソコソと話し合っていた。

「ねぇ?ディーネ。クリスがえらく上機嫌じゃありませんこと?」

「うーん?そうかも。いつもより弾んでる?」

「もしかして、主様と何かあったんじゃありませんこと?」

「え~?まさか~」

「でもこの子に主様の魔力が流れてることも気付かないくらい上機嫌ですわよ?」

「確かに!プッ!おもしろそうだから黙ってようよ!」

「全く。ディーネときたら。まぁ確かにおもしろそうですわね」

 そこで2人の内緒話は終わった。

「それで主様。この子は?」

「とりあえず宿舎に寝かせておいてくれ。起きるまでに知ってることを話してくれるか?アル」

「わかりましたわ。1時間後に会議室に集まりましょう。ディーネは他の精霊王も呼んどいてくれるかしら?」

「わかった」

『マスター。私はどうすればいい?』

「クリスも参加してくれ。その前に傭兵の記憶を消せるか?エルフのことに関してだけでいい」

『できる』

「ならそうしてくれ。そのあとはダンジョンの外に放していい。王国側じゃなくて帝国側に頼む」

『わかった。捨ててくる』

 ディーネとクリスは消えていった。

「アル。この子は鑑定が出来ないんだが、それも事情に関係してくるのか?」

「そうですわね。鑑定できないのは魔道具でしょうけど、素性の方も関係してきますわね。その辺もあとでお話ししますわ」

「そうか。わかった。しかし厄介事を拾ったもんだ。ただダンジョンが拒まなかったってことは、ここに導かれたってことだろうな。少しはめんどうみてやるか

 」

「ふふっ。相変わらず主様は優しいですわね。ではこの子を寝かせてまいりますわ」

「ああ。頼んだ」


 1時間後、俺、クリス、ディーネ、アル、ルタ、サラ、リア、リムは会議室にいた。使うのは初めてだ。

「よし。みんな集まったな。アル。あの子は?」

「まだ意識が戻りませんわ。今は私のところの中位精霊に任せておりますわ」

「そうか。わかった」

 事情を知らないルタ、サラは首をかしげていた。

 リアとリムはなんとなく事情を察しているのか、表情からは伺えない。

 そこで俺は先程起きた出来事をみんなに話した。

 次にアルの話を聞くことにした。

「アル。知っている事情を教えてくれ」

「はい。まずあの銀髪ですが、先祖返り特有です。先祖返りが出るのは王族だけになります。エルフは私のように緑髪の翡翠眼ですので」

「なに!?ではあの子はエルフの王女ということか?」

「そうなりますわね。何故、当人がここにいるのかはわかりませんが。ただ過去に先祖返りが存在したのは確か500年以上前なので、今の王族でも知らないのかもしれません。それに先祖返りはハイエルフと呼ばれ、精霊樹の巫女としての役割があるはずですわ。だからここにいるのはおかしいことなのです。私もエアリアルの名前を受け継いだ時に得た知識ですので確証はありませんが」

「そのハイエルフで精霊樹の巫女だから鑑定出来ないってことか?」

「いえ。直接的には魔道具ですわね。正確には、アーティファクトと呼ばれるもので、あの子がしている首飾りは精霊樹の巫女となった時に出現したはずですわ」

「そのアーティファクトとゆうのは?」

「アーティファクトとは、魔道具が長い間、膨大な魔力にさらされて変化した物ですわ。ですが、こちらは自然界では確認されておりませんわ。大抵は主様のような存在が製作した、いわゆる神器というものになりますわ。主様も作ることが出来るはずですわよ」

「そうか。それでエルフの国には精霊樹があって、そこに俺みたいな存在がいるってことか」

「主様のような存在はこの世界におりませんわ。精霊樹には私たちと同等の存在でシルフィードという者がいるはずですわ。それにあの首飾りは精霊神様が作られた神器だと言われてますわ」

「なるほど。エルフの国はやはり幻想の森にあるのか?」

『マスター』

 話をしていると、クリスが手?でつついてきた。

「どうした?クリス」

『眠い』

「眠いなら部屋に戻っていいぞ?」

『大丈夫。そこでいい』

「そこ?」

「「「「「「!」」」」」」

 クリスは座ってる俺の膝の上に飛び移ってきた。

「おっ、おい」

『マスター。おやすみ』

 他の精霊王たちが呆然としている中、リアとリムは気配を消して真人の背後に近寄っていた。

「真人ちゃ~ん。私も私も」

「真人。我もじゃ」

 2人が背中に乗っかってきた。

「くっ!なんて羨ましい!主様!話を続けますわよ!」

「あ、ああ」

 俺はひんやりした者を膝に乗せ、暑苦しい2人を背負いながら話を続けることにした。

 しかし、ディーネとルタとサラは背中のリアとリムを凝視しているが、何かよからぬことを企んでいるのではなかろうか?

「それでエルフの国でしたわね」

「ああ。幻想の森のどこかにあるって聞いたことがあるが」

「ええ。幻想の森の中にありますわ。あそこはシルフィードの結界が張ってあって、普通の人間は同じ場所をぐるぐる回るだけですわ。幻想の森と言われる由縁ですわね。私たちや主様には問題ありませんわ」

「なるほどな。それであの子は何故外に出てきたと思う?」

「推測になりますが、一つは精霊樹に何か異常が起きて助けを求めにきたか、もう一つは王族が誰も先祖返りを知らなくて容姿のせいで迫害を受けたかですわね」

「追放モノか!」

「えっ?」

「い、いやっ。なんでもない。それより他のみんなは何かないか?」

「ハイッ!」

 ディーネが元気よく手を上げた。

「な、なんだ?ディーネ」

 俺は先程のリアとリムの件のことを思い出し、少し嫌な予感がした。

「私も膝の上に乗せて欲しいですっ!」

「あっ。じゃあボクは抱っこがいいな!」

「俺は頭を撫でて欲しい・・・です!」

「・・・・・よし。わかった。こっちにこい」

 俺は3人を手招きし、座ってる俺の視線にあわせるようにかがませた。

 相変わらずディーネの胸はでかい。

 いかんいかん。雑念を振り払いながら3人を見ると、頭を撫でてもらえると思っているのか、期待している表情だ。

 そこで俺は

「バチン!」「バチン!」「バチン!」

 と強烈なデコピンをしてやった。

「「「つぅ~~~~」」」

 3人は声にならない声をあげながらうずくまった。

「よし。アル。会議は終わりだ。あの子が起きたら呼んでくれ」

「わかりましたわ。主様」

 そこで真人は背中の2人を背負いながら立ち上がった。

 そう、立ち上がってしまったのだ。

 膝にひんやりした者がいるのを忘れて。

「「あっ!」」

 アルも気付き、2人同時に声をあげた。

 結構な勢いを付けて立ち上がったため、クリスが床に落ち・・・・・なかった。

「「えっ?」」

 なんとクリスは膝にくっついていた。

「ど、どうなってますの?主様?」

「わ、わからん。ど、どうやらくっついてるようだ。しかし落ちなくてよかったな」

 そう思いながらクリスを取ろうとすると

「「あっ」」

 今度は落ちてしまった。ベチャッと音をたてて。

「「・・・・・」」

『ん・・・。マスター。おはよ。もう終わった?』

「あ、ああ。だ、大丈夫か?クリス」

『ん?何が?』

「い、いや。大丈夫ならいいんだ。行くかアル!」

「え、ええ。そうですわね。主様」

『???』


 事が起きたのが昼頃、今は日が沈み、食堂では食事の準備が進められている時間帯だ。

 真人は食べないが、報告がてら精霊王や他の精霊たちと夜は毎日席を共にするようにしている。

 ここの食堂は、常に持ち回りで給仕がおり、いつきても料理を頼めるようにしてあるのだ。

 ただし食べ過ぎないように注意はしているが。

 今、近くにいるのはクリスとディーネだ。

 やはりクリスが近くにいる。

 先回りして席を確保しているほどだ。

 クリスはリンゴ、ミカン、ブドウ、モモ、ナシを食べ・・・取り込んでいる。

 どうやら果物が好きなようだ。

 リーンもあるが真人が作り出したリンゴの方がいいらしい。

 どんな果物があるかわからないため、リーン以外にこの世界の物は作っていない。

 ディーネはピザをムシャムシャ食べてる。

 これで4枚目だ。

 ディーネは成人病まっしぐらだな。

 精霊は病気にならないらしいが。

 アルはエルフの方についている。

 ちょうどその時、アルから念話がはいった。

『主様。エルフの少女が起きましたわ』

『わかった。食事を持って行くから準備しておいてくれ』

『わかりましたわ』

 真人が給仕に食事を頼もうとしたところ、ディーネの5枚目のピザがきたため、それを取り上げた。

「ああっ!私のピザがっ!返して真人様!」

「お前は食べ過ぎだ!」

『プッ。やーい。怒られてやんの』

「ぐぬぬ・・・」

「俺はエルフのところに行ってくる」

『マスター。私も行く』

「私も行きます。真人様。少し待ってて下さい。飲み物を取ってきます」

「そうだな。ついでにスープも頼む」

「わかりました」

 しかし、ディーネは中々戻って来なかった。

「なぁ?クリス。あいつ遅くないか?」

『もう置いていけばいい』

「そうだな。念話で給仕に頼んだ方が早かったな」

 そこで話を聴いていたかのように焦った様子のディーネが戻ってきた。

「真人様。スープと飲み物を持ってきました。ゲプッ」

 スープと飲み物を受け取った真人は、ピザ同様、空間収納に保管した。

「・・・・・なぁ?ディーネ。口の周りにマヨネーズが付いてるぞ?」

「えっ?嘘っ?ちゃんと拭いたハズ・・・あっ!?」

「よし。クリス。行くか!」

『んっ』

 クリスと手?を繋ぎ転移しようとしたが

「真人様。私もっ!」

 ディーネも手を掴んできた。

 それも油ギトギトの手で。

 イラッとした真人は、浄化魔法を自分だけにかけながら転移した。

 ディーネをその場に残して・・・。

 ちなみに、空間魔法で転移を使えるのは、真人とクリスとリムだけだ。

 精霊王や他の精霊たちは46階層、47階層、48階層のみに付与されているワープというのを使えるようにしてあるが、階層自体に付与しているため、建物の中からは跳べないし、室内にも跳べないため、建物の外に出て使わなければならない。

 そのため時間が少しかかるが、ディーネもすぐに来るだろう。

 直接部屋ではなく、扉の前に転移してきた真人とクリスはノックをした。

「アル。入っていいか?」

「主様。今開けますわ」

 ガチャッとドアが開き、部屋に入るとテーブルについていたのは、銀髪の紫眼をしたエルフの少女だった。

 そのエルフは真人の姿を見ると、目を見開きながら震え始め、ゆっくりと土下座をし始めた。

 どっかで見た光景だ。ディーネの時か?この世界では土下座が流行っているのだろうか?

「お、お、おお、お初にお目にか、か、かかります。ま、魔神様。こ、こ、この度は助けていただき、ま、まことにありがとうございます。つ、つきましてはわ、私を煮るなり焼くなりなんなりと・・・ゴニョゴニョ」

「ストップ!ストップ!」

「は、はいっっ!す、すとっぷとはどのようなことをすればよろしいでしょうか?」

「止まれということだ!」

「ひゃっ、ひゃい!こ、こ、ここに泊まって夜伽をしろということですね」

「ちがーう!とりあえず頭をあげてくれ!」

「はっ、はいっ!」

 これはアカンやつだ。いきなり疲れてきた。

 こいつはディーネと同類のような気がする。

 話が通じなさそうだ。

 しかし、エルフの少女は頭を上げたが、震えたままだ。

「主様。魔力をもっとおさえないと常人には厳しいですわ」

「そうか。悪かったな」

 そこでようやくディーネが来たようだ。

「真人様!置いて行くなんてひどいです!」

 と言いながら詰め寄ってきたので額を押さえながら無視することにした。

「それで、エルフの君、名前を教えてくれるか?」

「も、申し遅れました。私は・・・・・」

「どうした?」

「い、いえ。私は以前の名前を捨てました。魔神様!どうか私に名前をつけていただけませんか!?」

「えっ?」

『マスター。ダメ。まだ早い。それになんでこの女からマスターの魔力を感じられる!』

 ディーネは押さえられていた俺の手からスルッと抜け出し、クリスの前に出た。

「プッ!クリスは気付かなかったんだ!私は1番に気付いたけどねっ!」

 とドヤ顔を決めた。アルは額に手を置いてヤレヤレって感じだ。

『クッ!ディーネ!後で覚えてろ。取り込んでやる。それでマスター!理由を説明!』

 ディーネはサーっと顔を青ざめさせて、アルは呆れた表情をしている。

「ク、クリス。話してやるから落ち着け。というよりお前は俺の記憶を流した方が早いな」

『ん・・・・・なるほど。理解した。でも私を呼べば治せた』

「お前は傭兵を捕まえるのに夢中になっていただろう?」

『うっ!確かに』

「それで納得したか?話を進めるぞ?」

『わかった。でも名付けするのはまだ早い』

「いいだろう。とりあえず仮の名前でエルフちゃんと呼ぶことにしよう。エルフちゃんもそれで納得してくれ。アルとディーネもいいな?」

「「「わかりました」」」

「それでエルフちゃんはなんでこのダンジョンに入ってきた?街に行けば、冒険者ギルドなり騎士団なり助けてくれるところはあっただろう?」

「では、まず私の生い立ちから話してもよろしいでしょうか?」

「うん?俺たちが聞いても大丈夫なのか?」

「はい。私はもうあの国に戻ることはできませんので」

「エルフちゃんがいいならそれでいいが」

「ありがとうございます。私はエルフの国シルフィスの第1王女として13年前に産まれました」

「えっ?13歳?」

「な、なにか?」

「い、いや。なんでも」

「父と母は大変可愛がってくれたものの、閉鎖的で変化を好まない他のエルフは、私のこの容姿を見て明らかに蔑んできました。エルフの国には精霊樹というのがあり、風の精霊シルフィード様から愛されて、緑髪の翡翠眼で産まれてくると言われています」

「アル?」

「主様。その件については、あとでお話しいたしますわ」

「それである時、ステータス鑑定の儀をおこなった私の結果はステータスにモヤがかかり表示されないというものでした。その結果が拍車をかけ、宰相や家臣は私の3歳下の双子の第1王子アルス・シルフィスと第2王女のアリス・シルフィスを担ぎ上げ、私を国から追い出そうと画策しました。妹の方は懐いていたこともあり大丈夫でしたが、弟の方は大人のいいなりになってしまいました。ある日私は、胸騒ぎがして精霊樹の元に向かおうと奇異の視線にさらされながらも街を歩いていました。すると、目の前に黒ずくめの集団が現れ、私を捕まえようとしてきました。必死になって逃げ出しましたが、路地の行き止まりに追い込まれ、魔道具のような物を押し付けられ、激しい光りにのみ込まれました。目を開けると見たことない森の中で、周りを見るとたくさんの気配に囲まれていることに気付きました。私が絶望に包まれていると、イルムド帝国の貴族を名乗る身なりのいい太った男が私を捕まえようと手を伸ばしてきて、諦めかけていたところ、光りの結界が張られ、それに触れた男は腕を切り飛ばされていました。わけもわからず、逃げるタイミングを得た私は森を逃げ回り、さっきの結界はきっとシルフィード様が守って下さったと、感謝し走りながらも祈りました。すると、頭の中に精霊湖に行きなさいと声が響いたのです。しかし、精霊湖の場所を知らない私は、無我夢中で走り回りましたが、徐々に体力を失っていき、貴族の周りにいた者たちに追い付かれそうになりながらも、この近くの湖にたどり着きました。湖に近寄ろうとすると、何故かこの洞窟に導かれるように引き寄せられたのです。まさかダンジョンとは思いませんでしたが」

「それで傭兵に追われて今に至るわけか」

「グゥー」

「腹で返事するとは器用なヤツだな。よし。理由は聞けたし後は、飯を食べながらにしよう」

「うぅー。恥ずかしいですぅ」

 エルフちゃんは顔を真っ赤にしていた。

 テーブルの上にディーネから奪ったピザとスープ、飲み物をエルフちゃんの前に置き食べるように促した。

 いい匂いに誘われ目をキラキラさせて俺の方を見たエルフちゃんはビクッとなった。

 俺は疑問に思い後ろを向くと、そこにはヨダレを垂らしたディーネという猛獣がいた。

「こいつのことは気にしないで食べていいぞ。首輪でも繋げておくか?」

 最後の方はボソッと呟いただけだが、どうやらディーネには聞こえていたようだ。

「っ!?真人様!首輪ですか!?早くつけて下さいっ!」

「な、なんでお前は喜んでるんだ!」

『マスター。ポンコツにそんなのは逆効果。ただの変態』

「み、みなさん。仲がよろしいのですね」

「まぁ、気にしないで食べろ。食べ終わったら紹介してやろう」

「は、はい。では魔神様、感謝いたします」

 エルフちゃんはピザを一口食べて目を見開いて涙を流した。

「ど、どうした!?」

「いえ、このような暖かくて美味しい食事は食べたことなかったので」

「そうか。まだあるからたくさん食べろ」

「はいっ。ありがとうございます」

「少しは落ち着いたか?」

「はい。見たこともない美味しい食事で、力も湧いてくるようです」

『エルフ。それは合っている。ここは階層の中でも特にマスターの魔力が満ちている。エルフも少しマスターの魔力が流れてるから馴染んでる証拠』

「あ、あのっ。先程から思っていたのですが、スライム様はどういった御方なのでしょうか?」

「そうだな。こいつはクリス。セイクリッドスライムという変異種で俺の次に強いヤツだ。こっちの食いしん坊が水の精霊王ディーネで、お前を介抱してくれてたのが風の精霊王のアルだ」

「っ!?えっ?魔神様の次に強い?精霊王様?えっ?風の精霊王様?属性の精霊王様は1人しかいないんじゃ?え?じゃあシルフィード様は?えっ?えっ?」

「混乱しているな。まぁ落ち着け。何から話したものか。アル。シルフィードの属性はわかるか?」

「ええ。まずシルフィードの属性は無属性ですわ。これは精霊神様が意図的にしているようで、精霊樹の結界はエルフの国を守っているのではなく、精霊樹自身を守っていると言われており、エルフが精霊樹を植えたのではなく、精霊樹を守るために住んでいたのがエルフの先祖のハイエルフだと言い伝えですわ」

「卵が先か鶏が先かってヤツか」

「えっ?」

「い、いやっ。なんでもない。では精霊樹には何か守ってる物があるってことか?」

「それを伝えてきたのが王族であり、精霊樹の巫女だと思われますわ。もっともこの子がこの様子じゃ巫女の能力は消えてそうですわね」

「エルフが風の精霊に愛されてるというのは?」

「ただの相性の問題だと思いますわ。幻想の森の結界の魔力が風の精霊たちの好みで、風の精霊たちが集まり、風の属性に偏ってるだけですわ」

「なるほどな。エルフちゃん。わかったか?ちなみに土、火、光、闇の精霊王たちもここにいるからな。後で紹介しよう」

「ち、ちょっと待って下さい。精霊樹が何か守っているのは薄々気付いておりましたが、シルフィード様はどこにいらっしゃるのですか?エルフの国では全員が風の属性なんですが、相性の問題ってだけでこうも偏るものなのですか?それに私の容姿が他のエルフと違うのは何でですか?」

「シルフィードはその何かを守るための結界を維持するのに精一杯なのでしょう。結界の中に風の精霊しかいないのであればそうなると思いますわよ?試しに結界の外で誰か住んでみればわかるのではなくて?先程も言いましたが、精霊樹の守っている何かを伝えるのが王族でもあり、シルフィードと交信できるのがハイエルフの特徴の銀髪をした精霊樹の巫女の役目をしているあなたでしたのよ?まぁ、今の王族には伝わってこなかったのが現状でしょうけど」

「そ、そんな。で、では私の役目は精霊樹の巫女でシルフィード様と交信するために産まれてきたのですか!?」

「そうだと思うわよ?今となっては遅いと思うけど、他にも何か精霊樹に問題が起きたのではなくて?実際あなたはここに導かれてきたでしょう?」

「は、はいっ。今思えばそうかもしれません」

「ではここですべきことを見付けなさい。エルフの方は私が風の精霊たちを使って見といてあげるわ」

「ありがとうございます!アル様」

「私も水の精霊たちに伝えとく」

『私は・・・特にない』

「ディーネ様もクリス様もありがとうございます」

『私は何もしてない』

「魔神様。私はここで何をすべきでしょうか?」

「それは自分で考えろ。しばらくアルやディーネと一緒に過ごすといい。ゆっくりしていけ。お前が何者なのか自分と向き合う覚悟ができたら俺の所にこい。なんとかしてやる」

『マスター。かっこいい!』

「さすが真人様です!」

「私は一生主様について行きますわ!」

「ありがとうございます。魔神様。少し考えてみます」

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