第11話「包囲網」

「おにいちゃん!!!」


 孤児院に戻ると真っ先にリリが飛びついてきた。これはもういつものことだ。リリより早く俺のところに他の子がくることはほとんどない。


「ただいま」

「おかえりぃ、じゃなくて! 心配してたの!」

「ごめんな。思ったより時間がかかって……」

「ぎゅーってして」


 とりあえず言われたとおりに抱き上げてやる。これからお風呂とか入るし、ちょっと臭いと思うんだけど。一応水浴びとかしたから緩和はされてると思うけど。


「頑張った匂いするね」

「やめなさい」

「やめなーい。すんすん……」


 本当にやめてくれ。無理やり引き剥がそうとまでは思わないので、そのままリリを抱っこしたままレスターさんに帰還報告をする。

 レスターさんもかなり心配していたようで、ホッとしていた。


「兄貴!」

「ディルにい!」

「ディルさん、おかえりなさい」

「おう、帰ったぞー」


 ギャラン、テオにミレイちゃんだ。あとはサリーとミィちゃん、ディーちゃんとシロだな。


「きゅぴっ♪」

「シロ、待つのー」

「どこへ行くんじゃ?」

「飛びだちゃったー」


 なるほど、三人はシロと遊んでいたんだな。シロは俺に気付いて飛び出してきたみたいだ。


「ディル様!」

「ディル、おかえりなのじゃ」

「ディルにーちゃん!」

「おー、ただいま」

「きゅいっ♪」


 よし、これでとりあえずみんなの顔を見れたな。体調とかも悪くなさそうだし安心だ。

 みんなも夕食は終わっているようだし、俺もラーメンを食べてしまってるからちょうどよかった。


「お風呂入ってくるね」

「わたしもいくー」

「リリは待っててね」

「むむーっ」


 めっちゃ疲れてるから今日は一人でのんびりと湯に浸かりたい。ごめんな。

 ちなみにシロもお風呂はまだ入れてない。簡単に洗ったりはしているが、風呂でのぼせたりしたら怖いから。ホワイトワイバーンって熱に弱いイメージがあるんだよな。


「ああああ……沁みるぅ……」


『貴方様、お疲れ様でした』

『お? リーシアか。起きたのか?』


 突然リーシアに話しかけられた。気を抜いてるときに脳内に声が響くとかなりビビる。


『外には出てこれるのか?』

『あと少しですね。ただ、子どもの姿になってしまいそうです』


 あ、これは孤児院の子が増えるパターンなのか。


『貴方様の魔力との親和性が高いので、どうにもそちらに引っ張られてまして、回復はゆっくりになっています』

『なんだか、すまんな』

『いえいえ。光栄なことですので』


 魔力との親和性とかはよくわからないが、とりあえずそのせいで少し回復が遅れているのか。まあ、ゆっくり休ませてやろう。


「気持ちいいなあ……」


 このまま眠ってしまいたい。




◇◆◇◆




「ディルの包囲網じゃ」


 子どもたちは急に長期間いなくなるディルを心配し、いなくならないよう包囲網を敷く作戦立てていた。


「おにいちゃんは――」

「ディルにーちゃんは――」

「ディル様は――」

「「「どこにも行かせない」」」


 全員が気持ちは一致している。なるべくなら一緒にいて欲しい。せめてその日に帰ってきて欲しい。


「兄貴とはずっと手合わせしていたいからな」

「そうだね。僕も色々と教えて欲しい」


 ある意味では日課が増えすぎた結果とも言えるだろう。

 最低限の日課はディリーの羽の手入れ、テオへの回復魔法講義、ギャランとの手合わせ、ミレイを寝つかせること。

 リリは基本的にべったりだし、ミィやサリーもそれなりにディルから離れない。とにかく一緒にいたい。


 ではどうするか。サリシャの包囲網作戦である。つまり、孤児院にずっといてもらえればいいのだ。

 ただそこにいてくれるだけで子どもたちは安心していた。

 ディルが思っている以上に子どもたちはディルのことが好きなのである。一部は親愛を超えた感情を抱いているような感じだが。


 作戦はとても単純だ。寝てるときも常に誰かがディルの傍にいる。誰が一緒に寝るか、というところではリリ、ミィ、ディリーとサリシャで少し揉めていた。


「きゅ、きゅい!!」


 自分も忘れるな! と言わんばかりにシロも参戦した。

 こうしてディルの知らぬところで子どもたちの包囲網作戦が始まった。




◇◆◇◆




「おおー、さっぱりした」


 少し眠りかけていたな。溺れたりしたら洒落にならないから気をつけないと。


「おにいちゃーん」

「うおっ」

「きゅぴっ♪」


 風呂上がりに早速リリとシロに突撃された。


「ねーねー」

「なに?」

「勝手にわたしのそばからいなくならないでね」


 お? 少し目のハイライトが消えた気がしたけど、気のせいかな。


「も、もちろんだよ」

「本当に心配だし、寂しいの。約束ね」

「約束だ」


 まあ、そうだよな。子どもたちから行くなと止められるのを避けるために、レスターさんに説明を丸投げしてこっそり外に出ているから。

 かえって心配させてしまうなら、これからはきちんと伝えてから行くことにしよう。


「うん、早く抱っこして」

「わかったよ」


 ただ、そろそろ寝る時間だ。ディーちゃんの羽の手入れとミレイちゃんの寝かしつけは最低限しないとならない。


「なあ、リリ。ディーちゃんのところ行くね」

「ん、わかってる」

「うん」


 いつもなら離れるんだけど、めっちゃぎゅーっとしてきて離れる気配がない。まあ、羽の手入れは邪魔しないだろうし、一緒でもいいや。

 その後、さすがにミレイちゃんを寝かしつけるときはリリを俺の部屋で待たせた。


「おにいちゃん」

「なーに?」

「早く寝よー」

「えぇ……」


 当然のように一緒に寝るつもりだったのか。寂しい思いをさせちゃったし、今日くらいはいいか。


 今日くらい、と思っていたが、その翌日から当分の間リリ、サリー、ミィちゃん、ディーちゃんの順で夜一緒に寝ることになった。

 日中もいつも以上にみんながくっついてくる感じがしたが、何かあったのだろうか。

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