第4話 親子であることは伏せたアイドル、噂話を聞いてどきりとする
オーディションを受けてみないとマネージャから言われて、もし受かればと思って挑戦した、そこまでは良かった。
だが、結果は駄目、玉砕だった。
頑張ったのだ、だが、それは自分が、そう思うだけ、周りはもっと努力しているのかもしれない。
そう、考えると気持ちが萎えてしまった
ベッドの上でごろりと横になりスマホを見る。
仲の良いアイドルから、今度ドラマに出る事が決まったという報告に益々、落ち込みそうになる。
甘いものでも食べたいなと思い、近所のコンビニに出かけようかと用意する。
だが、数分後、また落ち込んでしまった。
デザートコーナーの棚は殆ど空なのだ、シュークリームが数個、あるが、今はそんな気分ではなかった。
こうなったら気分転換だと思い、遠出することに決めた。
大型書店の周りにはゲームセンターもあったはずだが、いつのまにか、カプセルトイの専門店に変わっていた。
中に入ると制服姿の学生もだが大人、観光客らしき外国人も多い、人気があるのだろう。
店の外には数台のキッチンカーが並んでいた、メロンパン、クレープ、デザート系の甘いものもあるが、何故か、カスクートを選んでしまった。
ベンチに座り、水と一緒に少し早めの昼ご飯を食べながらスマホをチェックする。
自分のことが噂になっていないか、映画、舞台、なんでもいい、オーディションの募集がないだろうか。
「ええっ、それって、パパ活ってやつ、それともマッチングアプリってことなの」
近くにいた女子学生の会話が耳に入ってきた。
「おじさんのコメンテーターだよね、池神って人、昨日も社会政治、海外の事とか話してたよ」
突然聞こえてきた名前にどきりとした、同名の芸能人ではない、政治、コメンテーターなら間違いない、自分の父親のことだ。
ちらりと振り返る、制服姿の女子二人、高校生だろうか。
しかもパパ活とかって、どういうこと、里奈はどきりとしながらもちらりと視線を向けた。
「あのね、勘違いもいいとこだよ、通行人が多い通りでよ、そんなところで並んでぴったり歩くわけないでしょ、しかも背中に手を回してたんだよ」
「えっ、何、それ」
「女の人だけど、具合が悪かったみたい、それに服、あれって沢木のブランドだと思う」
「沢木、えっ、もしかして、話題になってたブランド」
「そう、だから、女の人も芸能人かなって、その、チラリと見ただけだけど」
「写真とか撮ったの」
「しないわよ、最近、厳しいのよ」
確かにと里奈は思った。
以前は素人、一般人が撮った芸能人の写真が有名な週刊誌に掲載されて出鱈目な記事でベテラン、若手のアイドル、役者が中傷される記事が多かった。
だが、それがピタリとやんだのは一年ほど前の大物芸能人の記事だ
何人もの愛人がいて浮気三昧している、奥さんがかわいそうだという記事が週刊誌に載ったのだ。
普通なら数年かかる裁判が半年で終わったが、それだけでは終わらなかった。
写真を雑誌社に売り込んだ人間はネットでグレー、恐喝まがいの犯罪を繰り返していたことで記事を掲載した雑誌社の人気はがた落ちになった。
弁護士が海外の人間だということで色々な繋がりがあったのかもしれない。
社員も減り、あれは事実上、潰れたも同然という話は里奈のようなアイドルの耳にも入ってきた。
その夜、緊張しなから里奈は電話をかけた緊張しながらもしもしと声が聞こえた瞬間、思わず池神さんですかと声をかけてしまった。
一瞬の沈黙の後。
「どうしたんだ、里奈」
驚いたような、呆れた声に里奈は、ほっとした。
「元気かなーと思って」
「ああ、しかし良かった、母さん、いや、百合子さんは」
結婚するのかと聞かれて里奈は驚いた、母親に恋人がいるのは知っていた、まさか気にしているのかなと思ってしまった。
「しないと思う、池神征二の元嫁と結婚なんてしないでしょ」
母の性格からすると好きな相手だからといって簡単には結婚などしないだろう、それに新しい彼氏は重いのだと言っていた。
「お父さんこそ、彼女、できたの」
「そんな暇はない」
「本当、実は池神征二が女の人と並んで歩いてたって」
電話を切った後、里奈は父親の言葉を頭の中で繰り返した。
人の顔というものは数年たっても、そんなに変わらないと沢木良子は思ってしまった。
大人になったから、歳をとったせいもある、だが、それは自分もだ。
クラスでも頭は良かった、人付き合いもだ、なんでも、そつなくこなす優等生というタイプだ、好きでなかったのは自分と比べていたからだろうか。
それ以外にも理由はあっただろう、。
声をかけるつもりはなかった、なのに。
多分、いや、目の前の男は自分の正体に気づいていないだろう。
「どうしたんだ、池神」
「会ったんだよ、元クラスの」
覚えているかと聞かれて、すぐには返事がなかった、だが、少ししてああ、根暗の沢木と言われて池神は、はあっとため息をつくと呟くように言葉を漏らした。
「女になってた、しかも娘までいた、木桜さんの娘だ」
その言葉に村沢は飲みかけの珈琲を吹き出し、いや、詰まらせ、咳き込んでしまった。
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