膨らむもの

小雪は昼からの授業に参加したものの、トニーの嘘の真相のことに気を取られて内容が全く頭に入らなかった。バイトが今日たまたま休みなのが僥倖だ。こんな状態でバイトなんてしたら、散々ポカをやらかして怖い先輩が目くじら立ててしまうこと必須だっだだろう。偶然の幸運に感謝しながら、大学から帰ってきて実家のベッドにダイブした小雪はすぐさまスマホをポケットから取り出し、トニーとのトークルームを開いた。小雪は彼にどうメッセージを送るかしばし悩んでいたが、結局ストレートに電話かビデオ通話で話したいとだけメッセージを送る。既読がつかないため、先に夕食や入浴を終わらせてレポートをやっていると、スマホが震えたので間髪入れずにメッセージアプリを開く。


『コユキ、大丈夫なの? もう忙しくない? 大学にはもう慣れたの? 心配だったんだよ?』


『うん、ごめんね。今まで電話もしないって言っちゃって。やっと落ち着いたところなの』


小雪は自身の揺れる心を封印したいがために、忙しさを言い訳にしてトニーを心配させたことを今になって悔やんだ。そんな素振りは今までのメッセージからは読み取れず、トニーの気遣いだと理解できたからというのもある。小雪よりも余程日本人らしい気遣いができるトニーに対しての申し訳なさが、頭の中でぐるぐると回った。


『そっか! やっとコユキの声が聞けるんだね! やべ、めっちゃ嬉しい……!』


久々にトニーから今時の言葉が出て、小雪は思わずくすりと笑う。心の奥底に沈めていた淡い恋心も浮かび上がり、それを抑圧しないでいられることがどれだけ楽なのかを小雪は思い知った。しかし抑圧していた反動なのか、温かなその想いは小雪をこそばゆい気分にさせて、何なら全身がムズムズするような、そんな感覚も覚える。


『私もトニーと話ができるの楽しみにしてる! いつがいいかな』


『明後日の日曜日はどうかな? 日本時間で18時くらいがいいと思うけど、コユキはどう?』


『うん、日曜日はバイト入れてないから大丈夫。それじゃあ18時に決まりってことで。楽しみにしてるね』


トニーから了解の返事が来たことを確認した小雪はうきうきとしてスマホを抱き締め、座っている椅子ごとくるくると回った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る