第2話 役廻令嬢とレナ
ステラ・ブリギッタ・ヴァルストレーム、18歳。ヴァルストレーム伯爵家の令嬢。
ミルクティーベージュの髪にラベンダー色の瞳。彼女はとある物語の登場人物である。
彼女の家族は父、母、兄と弟の5人家族。
やり手の父親と職人気質の母親を筆頭に総勢300人もの従業員がいる大型商団を一代で築き上げ、今ではエルモア共和国全域の衣・食・住を支えている。
両親の功績により陞爵することが決まっており、今や時の人となったヴァルストレーム家は一挙手一投足するだけで貴族たちの間ですぐに話題となった。
そんなヴァルストレーム家の長女であるステラ。彼女は今、目覚めるまでの記憶がない、という深刻な状況に直面している。
「ねぇ、聞いてる?」
耳元で囁く男の声に私は疑問を抱く。あれ・・・?なんだか聞き覚えのあるような・・・
目を閉じて頭の中の微かな記憶を辿ろうとする。本当に僅かだが、残像に近いものが残っているようだ。
うーん、と唸っている私にしびれを切らしたのか、ステラ、と名前を呼んで顔を声の主のほうへ向かせると、唇を奪われる。
「・・・っ」
非常に手慣れている。抵抗したいのに身体がホールドされて自由に動かせない。
どうしよう、そう思った瞬間、静電気のような衝撃が頭に流れこんできた。
軽い痛みを感じた瞬間、一気に映像が頭の中に飛び込んでくる。
『えぇ、私は「 」くんのダンスがかっこよかったぁ』
『あー分かるー、あたしは「 」とか、「 」っちの演技にめちゃ惚れたわ』
『演技確かに上手かったもんね、「 」の涙流すシーンとかマジで感動』
『『それなぁー』』
あれ、これってもしかして・・・
3人が楽しそうに会話をして歩道を歩いていた時、後ろから大きくクラクションが鳴り響いた。
ハンドル制御が明らかに利かなくなった乗用車が猛スピードで彼女たちに向かってくる。
その異常さに気づいた一人が二人に声をかけるが、もう間もなく接触するところまで来ていた。
もう間に合わない、そう判断した彼女は咄嗟に二人を突き飛ばした。そして・・・
「うっ・・・」
私は思わず声を上げ、頭を押さえる。
異変に気付いた男が腕をほどき、慌てて声をかける。
「ステラ?!」
「っあ、あた、頭が・・・」
本能的に身体が丸くなる。心臓の音が耳にまで響いて煩い。痛い、苦しい。誰か・・・誰か助けて・・・
『『・・・ナ・・・・・・レナ!!』』
だれ・・・?呼びかける声に聞き覚えがある。あぁ、そうだ。大好きな友人たちの声だ。
二人のすすり泣く声で悟った。そっか、二人とも無事だったんだね。
「よかった・・・」
大好きな友人たちの名前を呟くと自然と涙が零れた。『レナ』は柔らかい笑みを浮かべながらゆっくりと目を閉じる。
あれだけ苦痛だった痛みが引いていき、眠るように意識が遠のいていった。
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