間近で伏せる、『好きな人』

那須茄子

私は良い子でいる

 足音がこだまする。


 早朝の誰もいない廊下で、静かに音を奏でる。


 こと。ことん。こととん。

 

 まるで音符が飛び跳ねているようで、聞いているだけで心が落ち着く。

 

 私にはないその音が、愛しくて堪らない。思わず、自然と着いていきたくなる。


 私の前を歩く好きな人は、とても不思議だ。



「なぁ? 希美のぞみは腹減ってるか?」

「うん..」



 好きな人が、声を掛けてくれた。



「まぁ、そうだよな。まだ朝ごはん食べてないもんな」

「何かあるの?」



 好きな人が、私を気遣ってくれる。



「その通り! なんと俺特性のベーコン&卵パンだ」



 好きな人が振り返る。そして、柔らかい笑顔を向けてくれる。


 私の為に、朝ごはんを用意してくれていたのだと知った。



「....美味しそう」

「あ、あぁ。そーだろ? なんたって、俺が作ったんだから旨いに決まってる」



 好きな人は、私の素っ気ない笑顔でも、ちゃんと応えて笑ってくれる。


 やっぱり優しい。



「お兄ちゃん」

「ん?」

「ありがとう」

「おうっ」

「それと.......好き」

「....ははっ。俺も、妹が好きだ」



 好きな人は、よく勘違いをする。


 私の『好き』を『兄妹の好き』だと変換している。


 違うよ。

 そういう意味じゃないよ。


 声に出して、正したい。


 けど。

 お兄ちゃんを私の我儘一つで、困らせたくはなかった。


 私はお兄ちゃんにとって、『良い』で在りたいから。 




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