《次々と明かされる主人公の謎と成長を見守る異世界物語》

水無月

序章

第0話「ヒーラーとしての第一歩」

 数ある作品の中から、

 見つけて頂きありがとうございます。

 

 

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 魔法と剣が当たり前の世界。

 

 ―――――俺はここで生まれた……はずだ。

 

 というのも、俺には記憶が無い。気付けばそこに存在し、何故だか分からないが魔法が使える。ただし、全く記憶が無い訳じゃない。俺は誰かに呼ばれてここに来た気がする……。

 

 生まれたのはこの世界の筈なのに、来た・・という表現はおかしいと思うかもしれない。自分でもそう思う。

 

 まるで頭にモヤがかかって隠されている様な感覚。思い出せばそこに手が届きそうな身近で、それでいて曖昧な記憶。

 

 時々、俺の中で知らない声がする。『思い出せ』……と。

 思い出せと言われても、それが出来ないから困っているのに。

 無理なものは無理だ。

 

 

 色々考えた結果、俺は思い出す事を諦めた――。

 

 ……

 …………

 ………………

  

「――おい! ヒーラーがでしゃばってんじゃねぇ!」

「す、すみません!」

 

 

 俺がボーッとしていると誰かに怒鳴られた。

 

(そうだ……冒険者になったんだ……俺)

 

 俺は自分が冒険者になった事を戦闘中なのにも関わらず忘れて、立ち尽くしていた。そりゃ、怒られるってもんだ。

 

 ---

 

 冒険者になって初めてのクエスト。今日俺は初めて冒険する――。

 

 この世界は理不尽りふじんだ。

 俺は昔から攻撃魔法が使えない。

 人は産まれた時、なにかの才能を持って産まれてくる。

 それは魔法や剣だけじゃない、他にも様々な才能がある。

 そして才能がないものは凡人ぼんじんとして一生いっしょうを生きることになる。

 

「はぁ……俺も攻撃魔法を使えればなぁ」

 

 俺は奇しくも魔法の才能があった。

 当時、両親は凄く喜んだそうだ。

 凡人ぼんじんとして一生を過ごさないで済むからだ。

 才能を持たない者はこの世界で生き残るのは厳しい。そんな世界で俺は才能を持って生まれた。両親が喜ぶのも頷ける。

 

 ――だが、俺が生まれ持った才能はヒーラーとしての才能だった。

 

 それも回復魔法以外が一切使えない。

 

 魔法といえば攻撃魔法はもちろん防御魔法、

 支援魔法、そして回復魔法などがある。

 その中でも攻撃魔法や剣術に長けたものは、

 特に冒険者として重宝ちょうほうされる。

 一番火力に繋がるからだ。

 

「剣術の才能でもいいんだけどなぁ」

 

 この世界は魔物や魔獣といったものが存在する。

 こいつらはどこから生まれたのかは一切の謎とされている。

 ある者は魔王が生み出していると言い、またある者は神が創ったとも言う。他にも様々な噂が飛び交っているが、それは明らかになっていない。

 そして、この魔物や魔獣といった存在を倒すのを生業なりわいとしているのが冒険者だ。冒険者は冒険者協会を通して冒険者になることができる。

 しかし、その際に筆記試験と実技試験がある。

 誰でも簡単になれる訳じゃないということだ。

 俺は筆記試験が平均値以上、実技試験はギリギリ赤点回避というところだった。実技試験の内容は、用意された魔物と戦って得点を得るという至ってシンプルなもの。つまり、攻撃魔法や剣術の才能がある者が圧倒的に有利。

 そんな中、何とかギリギリで冒険者になれたのが俺だ。

 もちろん俺は実技試験において、魔物を倒せてはいない。生き残りはしたが、悪く言えば逃げていただけ・・・・・・・

 生存していたという点を評価されただけである。

 

「筆記試験を頑張っておいて良かった……」

 

 そして今日は冒険者になって初めてのクエスト。

 ぶっちゃけヒーラーはパーティに一人いれば十分。つまり……

 

「冒険者になって初めてのクエスト早々パーティーが集まらない……」

 

 ヒーラー一人ひとりでは魔物は倒せない。

 

「いきなり詰んだ……」

 

 と冒険者ギルドの端で立ち尽くしていると誰かが声をかけてきた。

 

「よ! お前ヒーラーか? なら俺達んとこに来いよ。報酬は二割だ。ヒーラーなら妥当だろ?」

「い、いやぁでもそれは少なすぎるんじゃ――」

「あ? ヒーラーなんて俺たちがダメージ喰らわなければ居ても居なくても変わんねーだろ? 二割保証してやってるだけでもありがたいと思え!!」

 

「す、すみません! ……ではお願いします」

 

 こうして冒険者になって初めてのクエストが始まった。

 

 ――これから語るのは、俺が冒険者を始めるまでの話だ。

 

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