第6話 約束
「おらああああ!!」
カキン!!!
俺の振るった剣が石を噛んだ。
あ、いてぇ……
初級レベルのトカゲを発見して
何とか殺そうとしたが逃げられた。
「これは中々予想以上だね……」
流石のハンターさんもこれには苦笑い。
「嘘でしょ……こんなのが
アタシらのパーティーに入るの……」
ローズさんは呆れ、
「雑魚が」
餓狼さんからは雑魚認定。
「何と罪深い」
ベルニアさんからは罪深いと言われ、
「あ~可愛い」
エリシアさんからは可愛いと微笑まれ、
「アハハ! 最高だな! 少年!
伸びしろしかない!!」
グレイスさんからは喜ばれた。
仕方ないだろ……だってこれ……
俺は両手に握っている双剣に目を移した。
初めて使うんだし。
昨夜、俺は職業を聞かれた。
アーチャーを一年やっていて全く上達せず、
今までFランクであると告白すると、
『少年、ちゃんと敵を殺したことあるか?』
そう聞かれた。
言われて気が付いた。
俺は矢は何度か当てたことはあれど、
仕留めたのは毎回他のメンバーだった。
『敵倒さないといつまで
経っても強くならないぞ。いいか?
どの職業にしろ強くなる方法は二つある。
一つ目はモンスターを倒すこと。
アーチャーは生存確率は高いが、
才能がないと敵を殺せず、
いつまでたっても強くなれない。
だから、レオ。お前は今日から
転職してアサシンになれ。
アサシンなら近距離戦を
強いられるから、嫌でも敵を倒せる』
それが俺が弓ではなく
双剣を手にしている理由だ。
他にもこのパーティーには
アサシンが不在だったこと。
俺の観察眼というスキルと
合っているからという理由もある。
『そして、強くなるための二つ目の方法が』
どん!
昨日のことを思い出してると
エリシアさんが巨大な鍋を
メンバーの中央に置いた。
『モンスターを食べること』
「さあ今日も食うぞ食うぞ」
グレイスさんがそう言うと、
メンバー全員が皿に料理をよそって
食べ始めた。
「はい、どうぞ? レオ」
エリシアさんに差し出された皿を手に取る。
「あ、ありがとうございます。
す、すみません。俺何もしていないのに」
「ほんとよ」
ローズさんがぼそっと言う。
「おい、ローズ」
「はいはいごめんなさい。
でもね、ガキ。
アンタが今手に取った食べ物は
本来であれば何百万ってする
食材ばっかりなのよ」
確かに。これを買って食べるには
俺の一生分の財産で足りるかどうか怪しい。
「だから、俺はこの少年を
ここまで連れてきたんだ。
強いモンスターを食えば食うほど人は強くなる。
食え。そして、強くなれ。レオ」
そう言われて、俺は料理を口にかき込んだ。
「なんだこれ……
食えば食うほど力が湧いてくる」
「それが強くなっているということだ」
グレイスさんに言われ、続けて食す。
「ふふ……
まるで、昔のグレイスを見てるみたい。
だから、この子をギルドに加えたのかな?」
突如、エリシアさんがそう言った。
「グレイスもね、
昔は魔法使いの職業を選んじゃって、
最初は全然倒せなくてずっと
Fランクだったの」
「そうだったんですか?」
「おい、エリシア。あんまり言うなよ」
「意外ね。
グレイスが魔法使いを選ぶなんて」
「想像ができません」
ローズさんとベルニアさんの言葉から
この事実がパーティーメンバーも
知らなかったと見て取れる。
「憧れがあったんだよ!
かっこいいだろ! 魔法使いって!」
グレイスさんは顔を真っ赤にして反論する。
意外にも子供っぽいところがあるんだな……
いや、こういう馴染みやすいところがあるから
この癖の強いメンバーのリーダーを
やっていられるのかもしれない。
「とにかく、レオ!」
「は、はい」
「お前には強くなってもらう!
俺のパーティーメンバーとして
胸を張って言えるように!
まずは、半年後の合同攻略ミッションだ!」
「合同攻略ミッション?」
「合同攻略ミッションていうのはね」
ハンターさんの説明によると、
これよりも下の31層を三つのギルドで
攻略することらしい。
三つのギルドで合同するのは、
未開の地である31層の
資源を1つのギルドが
独占しないためだ。
強いギルドがどんどん下に潜って
資源を手に入れれば、
他の強力なギルドに目を付けられ、
地上での抗争に発展しかねない。
そのような問題を未然に防ぐために、
このマーブルシティを占める
大きなギルド三つが合同で31層を
目指すのだ。
それが半年後に行われる。
「よし、食べ終わったな。レオ!!」
「はい!」
「あのトカゲ倒してみろ」
「それってさっき素早過ぎて」
「いや、いける。
信じろ俺の言葉を」
その力強い眼差しに、背中を押され、
俺は双剣の片方を右手に掴んだ。
「やあああああ!」
あれ?
体がめっちゃ軽い!?
シュン!
振り下ろした剣は
トカゲの上半身を滑り落ちた。
「な、なんだこれ!? 体が軽いし、
パワーも凄い!」
「それが高レベルのモンスターを
食べた結果だ」
「アンタ……あのモンスター
食べただけでここまで変わるって
どんだけ今まで弱かったのよ……」
「す、凄い……」
「だから、俺は別にランクなんて
気にしてなかったんだよ。
討伐して食い続ければ、
自ずとランクは上がるからな。
それに、俺らがお前に最高の
モンスターを食わせてやる。
その辺のパーティーにいるよりは
成長できるさ」
「グレイスさん。どうしてそこまで俺に」
「ランクは努力で上げられる。
だが、努力でイーターにはなれない。
つまりな、イーターになった者は
他者より強くなれるし、なる義務がある。
俺はそう思っている」
「強くなる義務?」
「レオ。
アブソリュート・ルーラーズの別名は
覚えているか?」
「絶対の統治者です」
「そうだ。俺はこのギルドの力で
世界を平和にしたい。
モンスターから人を守るだけじゃなくてな。
この世界には強い力を持った者が多くいる。
そういう奴らが全員善人ってわけじゃない。
ときには、モンスターに向けるべき力で人を
脅したり、屈服させたりする者もいる。
そういう奴らが暴れないようにしたい。
そのためには、誰よりも力がなきゃだめなんだ。
この世界を統治できるほどの力が」
グレイスさんは俺に歩み寄って
手を差し出した。
「俺に力を貸してくれ。レオ。
代わりにお前を最強に育ててやる」
人生には辛いことがたくさんあって、
稀に幸せな時が訪れる。
今この瞬間が、間違いなく俺にとって
人生最高の幸せだと思った。
俺は力強くその手を握る。
「こちらこそよろしくお願いします!」
俺もいつか……
このメンバーといても遜色ないと
言われるくらい最強になりたい。
そう願って、彼らの後を追った。
その願いが儚く散るなど、
このときの俺は知る由もなかった。
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