恋をしたのは君の方だった
星乃 芽
0日目
私は恋をしたことがなかった。正確にいうと恋という気持ちがわからなかった。
同級生の友達には好きあっている人、片想いなるものをしている人、先生と密かに禁断の恋をしている人もしばしばいて私の周りは恋している人しかいないように見えた。
人は誰かを愛さないと死んでしまうのか。そう思えてきた。
私は異性と愛し合わなくても生きていける。そう思い込ませてこれまで生きてきた。――あの人と出会うまで。
「ーーーーーーーーーーー続いてのニュースです」
今日から新学期。特にクラス替えにワクワクすることもなく、うつらうつら半分夢の中で朝ごはんを食べていた。そして手にかけたいつもの味の味噌汁を最初の一口で火傷した。
「あちっ」
舌がヒリヒリする。水を一口飲み、聞き慣れたアナウンサーの声がようやく耳に入って来て何となくテレビを見た。
「逃走中だということです」
「怖いねぇ、殺人事件だって」
お母さんの声もようやく耳に入ってきた。
ニュースでは殺人事件が近所で起きたことを伝えていて、名前が書いてあった。かわせよう。名前がわかっているのに犯人はどうして捕まらないんだと思い、視線を少し上にずらした。それ見た瞬間私はまばたきを忘れ、手から箸を落とした。
ガチャン
「ちょっと夏世!箸落としたよ!」
「はっ…」
どこかここではないどこから帰ってきた感覚がして、少し怒ってはいるがお母さんの声がまた聞こえた。でも今私の目の中には犯人の顔しか映っていなくて、私は箸が落ちるスピードより速くこの人に一目惚れ?をしたのかもしれなかった。いやこれが一目惚れだ。きっと…。多分――。
人は恋に落ちる瞬間を雷に打たれた感じと表現するが、私は爽やかな春の風がビュウッと速く通りすぎた感じがした。もしこれが恋ならの話だが。しかしその衝撃的な感覚と気持ちも、吹いたら消えるシャボン玉のごとく脆くて儚かった。なぜならその人が今逃走中の極悪犯だとやっと思い出したから。私は仕方なく登校の道を辿るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます