やわらかな存在

あの頃のぼくは、

自分でもどうしたらいいか、わからなかった。

とにかく、

ぼくは回りと同じができなくて

回りと同じになれなくて

いつも少しだけ浮いていた。

少しだけ?

違うな。

かなり、かもしれない。


思春期特有のなんちゃらかんちゃら

そんな言葉で片付けられて、おいておかれた。


ぼくは、どうしたかったのだろう。


ぼくは、ぼくの居場所はここにはないと

なぜか、そんなふうに感じていたんだ。

けれども、

子どもの力ではそこから抜け出すことはできなくて

そこに居続けるしかなくて。

ぼくは、ぼくであるために

ぼくであり続けるために

ひとりで走っていたのだよ。


走っていると、

周りの人がぼくを見る。

走っているときだけ ぼくは注目される。


走る

走る。

前だけを向いて

足を上げて

手を振って

コーナーを曲がって

走る

走る。


その時だけは、重力だって

ぼくの味方をしてくれたものだ。


走っている間は、皆がぼくを見る。

ぼくは足が速かったから。

黄色い歓声も遠くで沸いた。


ぼくも、皆と同じ身体 なのに

走っているときだけは

ぼくは別人になったらしい。


ぼくのこと 何も知らないのに

好きだと言う あのコの気持ちは分からなかった。


わからなかったけど 

嬉しかったよ。


きみと同じ制服を着て

ぼくときみが並んで歩く。

その姿に後輩たちが またも黄色い声をあげていたんだってね。


ぼくの望む世界はそれとは真逆で

まだ受け入れられてはいなかったけど

ぼくは

きみがいてくれたことで

さみしいとは思わなかった。


きみと過ごした あの時間だけは



ぼくがずっと忘れられないでいるのは なぜだろう。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る