第17話 お友達を作りましょう




 翌日、マイラさんの元にパンを買いに行くと、興味深い情報を教えてくれた。


「クロエちゃん。お節介だったら聞き流しておくれ」

「マイラさんに限って、そんな風に思うことはありませんよ。どうされました?」

「ありがとね。実は私もお客さんに聞いた話なんだけどね、今日は近くの広場でバザーがあるみたいなんだ」

「バザー、ですか」


 マイラさんの言うバザーとは、子ども達が作ったものを出品しているものとのことだ。


「買う買わないは置いといて、今日やるバザーは地域の子ども達の交流の場みたいなとこがあってね。ルルちゃんも行ってみたらどうかなって」

「なるほど、凄くためになるお話ありがとうございます」


 マイラさんの言うことはもっともで、そろそろルルメリアにも同年代の子どもとの交流をしてほしいと思っていた所だった。


 早速家に帰り昼食を終えると、ルルメリアに誘ってみる。


「ルル、今日はお出掛けしない?」

「おでかけ?」

「そう。今日は広場でね、バザーがやってるんだって」

「ばざーってなに?」

「ルルと同じくらいの子が作ったものを、売るイベントかな」


 バザーの説明だけでは首を縦に振らないルルメリア。これだけでは興味を持てないようだ。


「ルルと同じくらいの歳の子が集まるみたいなの。もしかしたら、お友達できるかもよ?」

「おともだち……!」

「行く?」

「うん、いきたい!」

「よしっ、じゃあ準備しよう」


 やったー! と言いながら、自分の部屋に戻ったルルメリア。身支度を整え始めたのを見届けると、私も外出の準備をし始めた。


 かなり喜ぶ様子を見ていると、どこか寂しい部分もあったのかなと感じてしまう。ルルメリアにとって、良い一日であってほしいと思うばかりだ。


「ルル、私と一つ約束してくれる?」

「なに?」

「貴族だってことを秘密にしてほしいんだ。だから、オルコットって口に出すのは駄目」

「どうして?」

「私達は没落とはいえ貴族になっちゃう。バザーにいる子からすると、びっくりさせちゃうから」


 どうにか優しい言葉で言い換えてみたものの、ルルメリアが納得してくれるかはわからない。


「もしかして、きょりおかれちゃう?」

「……うん。だから内緒にしよう」

「わかった!」


 大きく頷くルルメリアに安心する。


「ルル、今日は暑いから帽子被ろうか」

「おきにいりのぼうし!」


 可愛らしい薄いピンク色のワンピースに、白い帽子を被ったルルメリア。我が娘ながらに愛らしい。私はシンプルな青いワンピースをまとった。


 シンプルさから、貴族には見えないはずだ。


「行こっか」

「うん、しゅっぱつ!」


 わくわくする様子から、友達が作りたくて仕方のない様子だった。


 初めて参加するイベントに、私だけが緊張していた。果たしてルルメリアは友達ができるかどうか、馴染めるかどうかと心配ばかりが大きくなるばかりだった。



 広場に到着すると、たくさんの子どもと大人で賑わっていた。噴水を取り囲むようにお店が並んでいた。


「ルル、食べたいものがあったら言ってね」

「うん!」


 ルルメリアの視線はお店よりも、子ども達が集まる場所にあった。ひとまず広場を歩いてみることにした。すると、子ども達が集まって工作しているスペースを見つけた。


「……ルル、あそこで花冠作ってるって」

「はなかんむり……!」

「作ってみる?」

「うん!」


 受付らしき女性に、ルルメリアも大丈夫か尋ねる。笑顔で歓迎されたので、頑張れと送り出すのだった。


(大丈夫かな……変なこと言わないといいんだけど)


 さすがに、同い年の子にハーレムやイケメンという言葉は言わないと願っている。そもそも、そんな話題にならないとは思っているのだが。


 不安げに様子を見ていると、近くのお母さん三人組に話しかけられた。


「バザーは初めてなんですか?」

「は、はい。こういう子ども達の集まりに参加すること自体初めてで」

「それは心配になるわよね~」

「うんうん。うちの子も初めは心配だったわ」


 朗らかな様子のお母さん方に、少しずつ緊張がほどけていく。


「でも子どもって、意外と大丈夫なものですよ」

「そう、でしょうか」

「そうよ! 子どもの友達を作る力ってとんでもないんだから」


 不安げにいたのを気にして声をかけてくれたのだろう。何て優しい人達なんだ。

 大丈夫という声に背中を押されて、再びルルメリアの方を見てみた。すると、既に女の子と話を開始していた。


 よかった、楽しそうだ。

 

 その後も、お母さん方の考えは的中し、ルルメリアの周りにはどんどん子どもが集まっていったのだった。


 子どもの友達の作る力。さっきのお母さんが言っていた言葉だが、確かにそうだと思う。何せルルメリアの友達一人目は、あのオースティン様なのだから。


 しばらくルルメリアの様子を観察しつつ、お母さん方との談笑を楽しむのだった。


「おかーさーん!」

「おかえり、ルル。どうだった?」


 花冠を作り終えたルルメリアは、走って私の方に戻ってきた。


「いっぱいおともだちできた!」

「それはよかった。ルル、人気者みたいだったね」

「うんっ! みんなはなしかけてくれたの!」


 嬉しそうに報告する姿を見ると、連れてきてよかったと思えた。


「これ、おかーさんに!」

「……ありがとう、ルル。凄く嬉しい」

「やった!」


 作った花冠をもらうと、私はしゃがんで頭にのせてもらった。


「似合うかな?」

「うん! おかーさん、きれい!」

「よかった」


 その後もお店を回ったり、子ども同士の交流を見届けたりと、有意義な一日を送った。


 家に帰る頃にはすっかり日が暮れており、ルルメリアも疲れた様子だった。


「たのしかった……」


 眠そうなルルメリアだが、随分満喫できたようだ。おんぶをすると、すやすやと寝息をたてはじめてしまった。


 今日の出来事が、少しでも良い方に作用してくれると良いなと思いながら、帰路に着くのだった。


 お友達を作ろうという出来事が、私の意図しない方向にルルメリアへ影響を与えていたことを、今の私は知るよしもなかったーー。


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