第15話 繋ぎ止めたい縁(オースティン視点)
俺にとってオルコット様は命の恩人なのだ。だから必ず恩を返したいと思っていたのだが、それを受け取り拒否されるとは思いもしなかった。
(どうすればいいんだ……いつでも恩を返したいとは言ってみたが、それだけでは駄目な気がする)
どうにもオルコット様は、俺に警戒心を抱いているように見えた。同じ貴族ではあるが、そうではないと明確に線引きされた態度には寂しさを覚える。
(……駄目だ。無理にでも縁を繋いでおきたい)
ここで口約束だけで終えれば、きっとオルコット様とはもう会えなくなる。少なくとも、彼女からは会ってくれないだろう。
(それなりの口実が必要だ)
俺から会いに行くしかないのなら、会いに行ってもおかしくない理由がほしい。そこで思い立ったのが、友人になるということだった。
(……確か本には、友達を作るにはまずはその旨を示すとあったはず)
記憶の片隅に存在していた知識を引っ張り出して、オルコット様に伝えた。
「よろしければ、私と友人になってくださいませんか?」
突然の申し出に、オルコット様を困惑させてしまった。沈黙になりかけた空気を救ってくれたのは、小さな女の子だった。
初めて見た時は、可愛らしい年相応の女の子とだと思った。しかし、彼女がいることで空気が沈まずに済んでいた。それどころか、オルコット様と友人になることができた。
俺にとって、非常にありがたい存在だった。幼いからといって侮ることをしてはいけない。本には友人に年齢は関係ないとあった。それなら対等な関係と見ても問題ないだろう。「おーさん」という素敵なあだ名までもらえたのだから。
(……良かった。縁を繋ぎ止められた)
クロエさんと呼ぶことにした。彼女には様付けされてしまったが、名を呼んでもらえるだけで満足だ。
そろそろお開きになる予感がしたので、バックに手を伸ばしてお金の清算を始める。お釣りに加えて、自分の分を返そうとした。しかし、クロエさんに「これは私の気持ちということで」と言われてしまったので、受け取らざるを得なかった。
「お忙しい中、お付き合いいただきありがとうございました」
「そんな。私の方こそ、お忙しい中お釣りを届けてくださり誠にありがとうございました」
深々とクロエさんと頭を下げ合えば、いつの間にかルルさんも見よう見まねで頭を下げたいた。とても微笑ましい方だ。
「おーさん、つぎはいつあえるの?」
純粋な眼差しを向けられているが、クロエさんからは動揺する様子が見られた。あまり間隔を開けずに来てしまえば、彼女の負担になってしまいそうだ。
「明確な時間はわかりませんが、また会いに来させてください」
「それならおやくそく!」
「え?」
ルルさんはばっと身を乗り出した。クロエさんが慌てて座らせるものの、ルルさんは止まらなかった。
「おもだちならね、つぎあそぶやくそくをするの!」
「約束」
「ルル、オースティン様はお忙しい方なのよ。無理なことを言わないの」
「そっかぁ……」
しょんぼりと落ち込むルルさん。
ただ、ルルさんの言葉を聞いて俺ははっとした。約束しておけば、次会えることが確約する。クロエさんの負担になるといって、ここで身を引いてしまえば、いつ会いに行っていいかわからなくなるだろう。ただ、これが正しいのかわからない。
それでも。迷った時は、口に出しておくのが吉のはずだ。
「……もしよろしければ、お約束させてさせてもよいでしょうか」
「えっ」
「おやくそく!」
にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべるルルさん。クロエさんはただ驚いていた。
「ご負担にならなければ、お約束させていただきたいなと……」
あくまでも強い主張にならないように気を付けながら、クロエさんに伝えた。
「逆に良いのでしょうか……伯爵様ともなればお忙しいかと思うのですが」
「時間が作れない訳ではございませんので、問題ありません」
クロエさんとルルさんに会えるためなら、無理にでも時間を作ってみせる。
「……それなら、予定を立てましょうか」
「やったー!」
「ありがとうございます」
クロエさんは早速空いている日を教えてくれた。そこから俺が時間を作りやすそうな日と重ねた結果、次に会えるのは五日後となった。
話がまとまると、本格的に今日はお開きとなった。
「今回は出させてください」
「でも」
「無理に付き合わせてしまったこともありますし、お礼もかねて」
「……それなら。ありがとうございます」
「いえ」
「ありがとう、おーさん!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
正直言って、ルルさんが居てくれたので、次の約束まですることができた。感謝してもしたりないくらいだ。
お店を出ると、二人を家近くまで見送ってから解散することにした。
「またね! おーさん!!」
「今日はありがとうございました」
元気良く手を振るルルさんと、ペコリと頭を下げるクロエさん。
「ありがとうございました」
俺は頭を下げてから、ルルさんに手を振り替えして、その場を去るのだった。
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