【KAC20244】檻の中のポチ

下東 良雄

前編 ポチ


 ボクはポチ。


 ご主人様と小さなアパートでふたり暮らし。


 最近、ご主人様が部屋に帰ってこないことが増えたんだ。


 どこ行っちゃったのかな。


 いつ帰ってくるのかな。


 ご主人様の顔を見たいな。


 エサはまだ少し残ってる。


 鶏のササミのジャーキーだ。


 もう乾き切っていて、お肉がささくれ立ってる。


 あんまり美味しくないな。


 でも、他に食べるものもないし、我慢してかじっている。


 そうしているうちに、窓の外は茜色に染まっていく。


 そして、光が薄くなっていく。


 あぁ、また夜が来る。


 真っ暗な夜が来る。


 寂しい寂しい夜が来る。


 ボクは思わず床で身体を丸める。


 寒いよ。


 寂しいよ。


 悲しいよ。


 明るくなったら、ご主人様は帰ってくるかな。


 明るくなったら、美味しいご飯が食べられるかな。


 いや、ご飯なんていらない。


 ご主人様に会いたいよ。


 ご主人様の笑顔が見たいよ。


 ご主人様と一緒に眠りたいよ。


 他には何もいらない。


 お願い神様。


 ご主人様をここに帰してください。


 神様……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る