第39話

「あらあら、聖女様もサキも。

そんな難しい顔しないの」


空気の重くなった室内に、王妃様のどこか呑気にも聞こえる声が響く。


「今日は二人とも疲れてるでしょう?

聖女様はまだ我が国に来たばかりですし、サキもお仕事をした後なのだし。

ひとまず難しいお話はここまでにして、まずはゆっくり休みましょう?

お話はその後でも問題ありませんわ。

ね、陛下?」


「うむ、そうだな。

諸々の準備もあることだし、今日はここまでにしよう」


王妃様の言葉に頷く陛下を見て、聖女は露骨にほっとした顔をしている。

私としても、これ以上どう話していいかわからなかったし、正直助かった。


王妃様は空気が重くなってるのがわかってて、わざとあーゆー風に言ってくれたんだろうし。


「じゃあ、あたしはこれで失礼します……」


護衛の近衛騎士に付き添われて、聖女が部屋を出て行く。

去り際に何か言いたそうにちらりと私の方を見ていたけど、聖女が口を開くことはなかった。


陛下も執務があると言って立ち去り、部屋には私とカレン。それに王妃様だけが残された。


「あの、王妃様」


ニコニコしながら今日のお土産のお菓子を手配してくれている王妃様に、おずおずと声をかける。


「あら、サキ。どうしたの?

お菓子ならもう少しで準備出来るから、もう少しだけ待っててね」


「あ、いえ。それもありがたいんですけど、そうじゃなくて。

さっきはありがとうございました」


「良いのよ」


そう言うと、王妃様は私の隣へと腰を降ろし、そっと頭に手を乗せてくる。


「あの、王妃様?」


「わたくしはね、嬉しいの」


「?」


突然の言葉に頭に大量の疑問符を浮かべる私に、王妃様は穏やかな笑みを向けてくれる。


「サキはこの国に来てから、ずっと他人と距離を取ってるでしょう?

もちろん、自分の部隊の騎士やアーシャ達とはそれなりに上手くやっているのは知ってるいたけど」


「まぁ……はい」


王妃様の言う通りなので、素直に頷く。

だって私みたいな化け物と親しくなりたい人なんているわけがないんだから。

実際、ほとんどの人に怖がられてばかりだし、私もそれが当然だと思ってるから。


「そんな貴女が、初対面の聖女様のことをとても気にかけていた。

わたくしは、そのことがとても嬉しいの」


確かに、私らしくなく聖女にあれこれと言ってしまった。

普段の私なら、ごちゃごちゃ言うなと能力で無理矢理黙らせていたかもしれない。

でも、それはたぶん同じ日本人に久しぶりに会って少し浮かれていただけだと思うんだけど。


「だって、本当の貴女はとても優しい子ですもの」


「いや、私は優しくなんかないですよ」


否定する私の言葉には何も答えず、王妃様はとても優しい目で私を見ている。


「ねぇ、サキ?

貴女に辛い役目を押し付けているわたくし達に、こんなことを言う資格なんてないのはわかっているのです。

それでもね、わたくしは思うのですよ。

貴女にだって、普通の女の子らしく生きて欲しいと」


「私にはそんな資格は……」


ないと言いたいのに、何故か言葉が出てこない。


「一度、聖女様とゆっくりお話をしてご覧なさい。

お仕事の話じゃなくてもいいのです。

久しぶりにお会いした同郷のお方でしょう?

きっと懐かしいお話が聞けますよ」


「……わかりました」


王妃様の言葉に、私はそう頷くことしか出来なかった。

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