第6話

「何もしなくてもいいはずだったのに……」


帰って来た屋敷の自室で、今日も王妃様に貰ったクッキーをポリポリと齧りながら愚痴る。


イシュレア王国王室近衛騎士団特別部隊長。


それが今の私の肩書きだ。


王城に来てすぐはのんびりと暮らしていたんだけど、この国はまだまだ荒れている。

今日口を割らせた公爵もそうだし、貴族の犯罪も多い。

しかも、そのどれもが混乱しているうちに国の実権を奪おうというようなものばかりだからタチが悪い。


以前、中々口を割らない事件の首謀者に陛下や王妃様も困っていたことがあり、暇をしていた私が気まぐれで私の能力を使っての協力を申し出てしまったのが運の尽きだった。


一日かからずに口を割らせた私に目を付けた宰相が、その後事ある毎に私に協力を要請して来た。

まぁ、他にやることもなかったし、偉そうにしていた相手が泣き喚いて命乞いをする姿が何だか滑稽で面白かったしね。


それで協力しているうちに、気が付いたらいつの間にか役職まで付けられてしまった。


私の部隊の任務はシンプル。

王国に仇なす貴族の排除と拷問。

それだけだ。


この二年で、何人もの貴族を暗殺して来た。

拷問した相手の数はその比じゃない。


ろくでもない貴族しかいないな、この国は。

そう思うけど、徐々に国は落ち着いて来てるから直に仕事は減るだろう。


優しい王妃様はいつも顔色一つ変えずに任務をこなす私をずっと心配している。

確かに、日本にいた時の私ならこんな生活耐えられなかったと思う。


「あなたは決して死なない」と、そう告げることで相手を死ねないようにし、「貴方の全身はバラバラに切り刻まれている」と告げて、全身を切り刻む。

そして「貴方は無傷」と告げて再生させる。

一度相手を発狂させてしまってからは、「貴方は何をされても気が触れることはない」と事前に告げることでそうならないように予防もしている。

時には今日のようにその様を敢えて家族に見せ付ける。


冷静に考えれば、はっきり言って人間の所業じゃないんだろうなと思う。


でも、私は何も感じない。

いや、むしろ退屈しのぎの遊びくらいに思っている。


「どうして私はこうなっちゃったんだろう……」


何も感じていないはずなのに、視界が歪み涙が零れる。


【必滅の魔女】


その視界に入り、怒りを買ったものは滅亡を免れる事は出来ない。

私にはいつの間にかそんな渾名が付けられた。


「魔女だって……。ははっ、ホントその通りだよね……」


一人そんなことを呟きながら食べ続けるクッキーは、少ししょっぱい味がした。

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