その日
僕は荷物を纏めていた。
できれば、君が隣にいて欲しかった。
でも、君はいない。
一人で逃げる。
逃げる?
どこへ?
そう考えた時、君の姿が頭を過った。
例え、生き残ったとして、そこに君がいなかったら。
無性に彼女に会いたくなった。一緒に逃げるとかそんなこと関係ない。ただただ、彼女に会いたくなった。
昨日までも、何度も手をかけた電話の発信ボタンを押す。
「あなたのおかけになった電話番号は電波の届かないところ……」
「ちっ、こんな時に」
僕は家を飛び出した。君を求めて。
君の部屋。
駅前のカフェ。
よく行く公園。
だけど、君の姿は見つからない。
くそっ、くそっ、くそっ。
時間だけが過ぎていく。
考えろっ、考えるんだ。彼女が行きそうな場所。
そう、彼女が最期に選んだ場所……
「あっ」
僕は一目散に走り出した。きっとあそこに違いない。確証はないけれど。僕ならば最期に選ぶ場所。
河川敷。
遠く野球少年の声が聞こえる。
平和が流れる光景。
そして……
君と初めて会った場所。
「遅かったね」
彼女は笑顔で、でも頬には涙の跡がしっかり残っていた。
「おまたせ」
僕は切れた息を整えながら、笑顔を作る。
「やっぱり、君といたくてさ」
「私も」
彼女の手を握りしめ、流れてく日常を2人見ていた。
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