第35話『マッサージをしてもらった。』
千弦に汗を拭いてもらったり、星野さんに桃のゼリーを食べさせてもらったりして、気分がスッキリして元気も出てきた。
体の力が少し抜けている感覚はあるけど、今朝のような熱っぽさや体のだるさは感じなくなってきた。なので、千弦と星野さんから、今日の授業のノートを写させてもらうことにした。水曜日は6時間目がロングホームルームなので5教科分を。3教科は千弦で、2教科は星野さんからノートを借りることに。
ちなみに、千弦と星野さんは今日の授業で出された課題に取り組んでいる。
千弦も星野さんもノートが見やすい。昨日の夜に予習していたのもあるけど、ノートを写して、たまに2人からの解説を聞くことで、今日の授業の内容は理解できた。これなら、授業にもついて行けるだろう。
また、千弦の文字は綺麗で、星野さんの文字はちょっと丸みがあって可愛らしく個性も感じられて。それもあって、ノートを写すのがちょっと楽しい。
俺がノートを写し終える前に千弦と星野さんが課題を終えたため、途中からは俺がノートを写すのを見守ってくれた。
ノートを写している中、琢磨と吉岡さんと神崎さんからも、俺の体調が良くなってきて良かったという旨のメッセージをもらった。これで、3人は部活をより頑張れるだろうか。
「……よし。これで全教科終わった」
最後の科目・数学Ⅱのノートを写し終え、今日の授業分のノートを全て写し終えた。
「洋平、お疲れ様」
「お疲れ様、白石君」
「ありがとう。2人とも、ノートを貸してくれてありがとう。見やすかったし、2人の解説のおかげもあって理解できた。助かったよ」
「いえいえ。元々、洋平に見せるつもりだったからね」
「お見舞いに行くから、白石君にノートを見せても大丈夫なように、私も綺麗にノートを取ろうって心がけたの」
「そうだったんだ。……ありがとう」
ノートを写して、解説を聞いて理解できたのは、千弦と星野さんの優しさが一番大きな理由かもしれないな。
何度か、スポーツドリンクを飲んで小休憩を挟んだけど、5教科分のノートを写したから、さすがに疲れを感じるな。2人のいる間に課題もやってしまおうと思ったけど、一度長めの休憩を入れた方がいいな。下手したら、また体調を崩してしまうかもしれないし。
両肩に疲労感を感じたので、ゆっくりと上半身を伸ばすと、
「いたたっ」
両肩に痛みを感じた。そういった反応をしたからか、
「大丈夫かい?」
「どこか痛むところがあるの?」
と、千弦と星野さんは心配そうな様子で見てくる。お見舞いに来て、俺の体調が結構良くなっていたから、これまでは笑顔でいることが多かったのに。ちょっと申し訳ない気分だ。もしかしたら、今朝、体調不良で学校を休むとメッセージを送ったとき、2人はこういう顔をしていたのかもしれない。
「体を伸ばしたら、肩に痛みを感じてさ。5教科分のノートを写したからかな」
「なるほどね。ちょっと休憩を挟むときもあったけど、5教科分だとなかなかの量だもんね」
「あとは昨日までの疲労が肩に溜まっているのかも。それに、体調を崩したときって肩が凝ることもあるし」
「2人の言う通りだな」
今回の体調不良は過労だし、まだ体に疲れが残っている。そんな中で5教科分のノートを写したら、肩に痛みを感じるのは無理ないか。
「よし。じゃあ、私が肩のマッサージをしよう」
「いいのか? 千弦」
「うん。彩葉とお母さんに肩のマッサージを結構やっているから、ちょっと自信あるんだよね」
と、千弦は自信ありげな表情を見せてくる。千弦のこういう表情はあまり見たことがないから新鮮だ。
「千弦ちゃんの肩のマッサージはとても気持ちいいよ。私、肩が凝りやすい体質で。小学生の頃から定期的にマッサージをしてもらっているの。千弦ちゃんがいるときに肩の痛みを感じたときは、必ずって言っていいほどに頼んでる」
「そうなんだ」
星野さん、いい笑顔で話すなぁ。相当上手いんだろうな。
そういえば、ゴールデンウィークのバイト中に、千弦と星野さんが課題をしにお店に来てくれたとき、千弦が星野さんの肩のマッサージをしていたな。きっと、あのときも星野さんは肩が凝っていたのだろう。
「星野さんのお墨付きなら、凄く期待できそうだ。じゃあ、お願いしてもいいかな」
「うん」
千弦は明るい笑顔で快諾してくれた。千弦にマッサージしてもらうのは初めてだけど、どんな感じなのか楽しみだ。
千弦は俺の背後まで移動し、手を俺の両肩に乗せてくる。
「じゃあ、始めるよ。痛かったら遠慮なく言ってね」
「分かった。お願いします」
俺は千弦に肩のマッサージをしてもらい始める。
「おおっ……」
マッサージが始まった瞬間、痛みを感じるけど、それ以上に気持ち良さを感じて。なので、思わず声が漏れてしまった。
「い、痛いかい? 大丈夫かい?」
「大丈夫だよ。痛みはあるけど、それ以上に気持ち良さを感じるから」
「良かった。とりあえず、彩葉にマッサージしているときと同じくらいの強さで揉んでみたんだ」
「そうだったのか。この強さでお願いできるか?」
「分かった」
再び、千弦に肩をマッサージしてもらい始める。
痛みはあるけど気持ちいいなぁ。寝間着やインナーシャツ越しに千弦の温もりが伝わってくるし。肩の凝りがほぐれていくのが分かる。
「痛みを感じるだけあって結構凝っているね。洋平って肩の凝りやすい体質?」
「ううん、普段はあまり凝らないな。定期試験に向けてたくさん勉強した後とか。あとはバイトを始めた頃は凝っていたかな」
「なるほどね。もしかしたら、洋平にとって肩凝りは疲労が結構溜まったサインなのかもね」
「……言われてみればそうかもなぁ」
思い返すと、肩が痛いときって疲れを感じていることが多い気がする。これからは肩に違和感を覚えたら、それ以上疲労が溜まらないように気をつけていこう。
「千弦はどうなんだ?」
「私は勉強した後とか、部活や家でぬいぐるみやアクセサリーなどを作った後とかに、たまに肩が凝ることがあるくらいかな」
「そうなんだ」
「2人とも羨ましいなぁ。そこまで肩凝りすることがなくて。私は成長期に入った小5くらいから肩が凝りやすいよ」
星野さんは微笑みながらそう言う。
肩が凝りやすいのは小5からか。成長期ってことは、原因は胸かも……って、あまりそういうことは考えちゃいけないな。
「そっか。それは……なかなか辛そうだな。しかも、小5からか」
「数年経っているし、もう慣れっこだよ。自分で肩のストレッチをしたり、千弦ちゃんや両親とかにマッサージしてもらったりして、この体質と付き合っているよ」
「そっか」
凝りや痛みが和らぐ対処法がいくつもあれば、肩凝りしやすい体質とも付き合っていけるか。親友にしてもらうマッサージがとても気持ちいいのは大きいかもしれない。今も千弦にマッサージしてもらっているけど本当に気持ちいいし。
「千弦、上手だな。星野さんが、千弦がいるときには必ずと言っていいほどに頼むのも納得だよ」
「でしょう? 千弦ちゃんのマッサージ気持ちいいよね」
「洋平にも褒めてもらえて嬉しいよ」
ふふっ、と千弦は声に出して笑う。
後ろを振り返ると、千弦は嬉しそうな笑顔になっている。初めてマッサージをする俺にも褒めてもらえて本当に嬉しいのだと分かる。
「洋平。肩の凝りはほぐれたと思うけど、どうかな?」
そう言い、千弦は俺の両肩から手を離した。
肩をゆっくりと回すと……マッサージをする前に感じていた痛みや凝りがなくなっている。凄く軽くなった。
千弦のいる方に振り返り、
「痛みも凝りもないよ。ありがとう、千弦」
と、千弦にお礼を言った。
「いえいえ。洋平のためになれて良かったよ」
千弦は優しい笑顔でそう言ってくれた。そのことに心がとても温まっていく。
「これからも肩が凝ったときには言ってね。ほぐすからさ」
「ありがとう」
凄く気持ち良かったから、星野さんと同じように千弦がいるときには千弦にマッサージを頼むことになりそうだ。
千弦に肩をマッサージしてもらったのもあり、体の中にある疲労感が和らいだ。こういう感覚になれるのも、星野さんが千弦にマッサージをよく頼む理由の一つなのかもしれないな。
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