第24話『遊園地へ行こう!』

 連休2日目の土曜日と3日目の日曜日は、両日とも午前10時から午後6時までゾソールでバイトをした。

 土曜日は藤原さんと星野さんが一日バイトをしているため、何度か労いのメッセージを送り合いながらバイトを頑張った。

 ちなみに、2人のバイトは都心で開催されるガールズバンドのライブの物販担当とのこと。2人とも好きなバンドであり、2人は隣同士でカウンターを担当しているので楽しくバイトできたそうだ。あと、一日ずっとバイトしたので、バイト代を結構もらえたとか。

 日曜日は午後に藤原さんと星野さんがクラスメイトの女子2人と一緒にゾソールに来てくれた。藤原さんと星野さんは昔から休日に一緒に課題をすることがあるとのこと。電車通学の友達もいるし、2人が俺がシフトに入っていることを知っていたので、駅前のゾソールで課題をしようと決めたらしい。藤原さんと星野さんが勉強したり、藤原さんが星野さんの肩を揉んでいたりするところを見て癒やされた。

 また、2日とも高校の友達や、中学まで学校が一緒だった友達も来てくれた。

 2日とも8時間のシフトだったけど、月曜日に遊園地へ行く楽しみがあったし、バイト中に藤原さんと星野さんなどの友達と話せたのもあり、難なく乗り切ることができた。




 5月6日、月曜日。

 ゴールデンウィーク後半の4連休の最終日。そして、みんなで東京パークランドという遊園地へ遊びに行く日だ。

 午前9時15分。

 俺は結菜と一緒に、洲中駅に向かって家を出発する。

 この後、午前9時半に洲中駅の改札口前で琢磨、藤原さん、星野さん、山本先生と待ち合わせをする約束をしている。

 吉岡さんと神崎さんは最寄り駅が違うけど、それぞれパークランドに向かう途中の駅なので、乗っている電車で会うことになっている。


「晴れて良かったね、お兄ちゃん!」

「ああ。一日晴れるみたいだし、まさに遊園地日和だ」


 今日は朝からよく晴れている。晴天が続き、雨が降る心配はないという。遊園地で遊ぶ予定だから、一日ずっと晴れる予報で良かった。


「今日もジャケットが決まってるね、お兄ちゃん。かっこいいよ!」

「ありがとう。ジャケット好きだからなぁ。ただ、今日は晴れて暖かいし、屋外にいる時間が多いから、生地の薄いサマージャケットにしたんだ」


 映画を観に行った日もジャケットを着ていたけど、あのときは普通のジャケットだったから、外を歩いていると暑く感じるときがあった。それもあって、今日はサマージャケットにしている。だから快適だ。


「結菜も似合ってるよ。キュロットスカートに長袖の……カットソーか?」

「そうだよ。似合ってるって言ってくれて嬉しいよ! ありがとう!」


 結菜は持ち前の明るい笑顔でお礼を言う。今日も結菜はとても可愛いな。

 家を出発してから数分ほど歩くと、洲中駅の南口が見えてきた。連休最終日だけど、晴天に恵まれたのもあってか、今日も多くの人が行き交っている。

 バイト先のゾソールの前を通り過ぎ、俺達は南口から洲中駅の構内に入る。待ち合わせの時間まで10分近くあるけど、もう誰か来ているだろうか。

 駅構内には歩いている人がいっぱいいるけど、端の方で立っている人もちらほらと見受けられる。俺達のように、これからどこかへ遊びに行こうと待ち合わせているのかもしれない。

 待ち合わせ場所である改札付近を見ると、


「あっ、いたよ、お兄ちゃん! 千弦さんと彩葉さんと飛鳥さん!」

「……おっ、本当だ」


 彩葉が指さす先には、藤原さんと星野さん、山本先生の姿が。

 藤原さんはスラックスに半袖のブラウス、星野さんは長袖の襟付きワンピース、山本先生はジーンズパンツにノースリーブの縦ニットという三者三様な服装。ただ、みんな似合っているのもあってか、男女問わず3人に視線を向けている人が多い。

 俺と結菜の声に気付いたのか、藤原さんはこちらに向いて落ち着いた笑顔で手を振ってくる。その直後に星野さんと山本先生も笑顔で手を振ってきた。それを受けて、俺達も3人に向かって手を振った。


「みなさん、おはようございます!」

「おはようございます」

「おはよう、白石君、結菜ちゃん。2人の声が聞こえたと思って南口の方を見たら、2人の姿が見えたんだ」

「2人の声が聞こえた気がするって言ってたもんね。白石君、結菜ちゃん、おはよう」

「2人ともおはよう。あとは坂井君だけだね」

「ええ。琢磨は約束の時間の直前に来ることが多いですから、もう少し待っていれば来ると思います」


 遅れるときはその旨のメッセージをくれるので、無断で遅れることはないだろう。それに、今日はみんなで遊ぶけど、その中には恋人の吉岡さんもいるし。まあ、昨日まで男子バスケ部の合宿があり、その疲れで爆睡して寝坊という可能性は否めないが。

 それからはお互いの服装について褒めたり、連休中のことで話したりして琢磨のことを待つ。その間、俺はスマホを何度か確認するけど、琢磨から遅れる旨のメッセージは来ていない。

 そして、約束の時間の2分前に、


「おー、みんないる! おはようございます!」


 琢磨がやってきた。琢磨は持ち前の明るく元気な笑顔で手を振ってくる。今回も約束の時間直前に来たな。あと、今日は晴れて暖かいからか半袖半ズボン。夏を中心に、暖かい時期に私服姿で会うときはこういう服装が多いので琢磨らしいと思う。筋肉がしっかり付いた腕と脚が見えるからかっこいいぜ。

 琢磨が俺達のところに来ると、みんなで「おはよう」と挨拶を交わす。


「坂井君が来たから、洲中駅の6人は全員集合だね」

「そうっすね。……そういや、洋平と結菜ちゃん。パークランドの招待券は持ってるか? 2人なら大丈夫だと思うけど」

「お兄ちゃんが2枚持ってますよ! お父さんがあたし達に1枚ずつくれたのですが、みんなで行くのでお兄ちゃんに渡したんです。お兄ちゃんの方がしっかりしていますので」

「ああ。俺が持ってきているよ」


 俺は持っているバッグから、パークランドの一日招待券を2枚取り出し、琢磨達に見せる。


「おっ、ちゃんとあるな」

「さすがはお兄ちゃん!」

「何回も確認したからな」


 俺が忘れてしまったら、みんなに結構な金額を払わせてしまうことになるから。

 山本先生が俺に一歩近づいて、チケットをじっと見る。


「4名までOKで、期限は5月31日まで。うん、大丈夫だね。チケットの実物を見たくてね」

「その気持ち分かります。あと、大丈夫なのは分かっているんですけど、山本先生に確認してもらって何だか安心感があります」

「そっか」


 ふふっ、と山本先生は声に出して笑う。その笑顔はちょっと可愛らしくて。ラフな感じの服装なのもあり、先生というよりは俺達より少し年上の友人の女性って感じがする。

 なくしてしまわないように、俺はチケットをバッグに入れた。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


 藤原さんのその言葉に俺達は頷き、洲中駅の改札を通る。

 東京パークランドの最寄り駅は清王パークランド駅である。その駅に行くには、まず清王せいおう線に乗って調津ちょうつ駅というところまで行き、清王鏡原かがみはら線に乗り換える必要がある。

 調津駅は上り方面にあるので、上り方面の列車がやってくるホームに行く。進行方向に向かって、先頭車両の先頭ドアの停車する場所まで向かう。

 吉岡さんの家の最寄り駅は洲中駅から3つ隣の武蔵原台むさしはらだい駅、神崎さんの家の最寄り駅は4つ隣の藤田給ふじたきゅう駅。どちらの駅も急行列車は停車しないため、俺達は各駅停車で調津駅まで向かう。

 ホームにある電光掲示板を見ると、次にホームに来るのは10両編成の各駅停車。なので、この電車に乗ることに。

 吉岡さんと神崎さんと電車の中で会うため、俺は、


『洲中駅9;37発の各駅停車。10号車4番ドアの近くに乗るよ』


 パークランドに行く8人でのグループトークに、そうメッセージを送った。清王線の駅は全てにホームドアが設置されており、そこに号車とドア番号が記されている。

 俺のメッセージの既読人数のカウントが増えていき、吉岡さんと神崎さんから了解の旨の返事が届いた。これで、2人とは電車で会えるだろう。

 それから程なくして、上り方面の各駅停車の電車が定刻通りにやってくる。

 扉が開き、2、3人降りた後に、俺達は乗車する。

 急行に乗る人が多いのだろうか。電車の中は結構空いており、シートも空席が目立つ。

 俺達が乗った扉の近くに4席連続で空席があったため、山本先生、結菜、藤原さん、星野さんの並びで座り、俺と琢磨が彼女達の前で立つことに。

 4人が座ってから少しして、俺達の乗る電車は洲中駅を発車する。

 扉の上にはモニターが2つあり、そのうちの1つにこの先停車する駅と所要時間が路線図の形で表示されている。それによると、吉岡さんの最寄り駅の武蔵原台駅までは4分、神崎さんの最寄り駅の藤田給駅までは5分、乗り換える調津駅までは10分となっている。各駅停車だけど、それぞれの駅までそこまで時間はかからないんだな。


「学校が地元にあるので、電車に乗るとちょっとワクワクしますねっ」


 結菜は言葉通りのワクワクとした様子でそう話す。


「結菜の気持ち分かるなぁ。徒歩通学だし、バイト先も駅前だし」

「俺も分かるぜ。電車に乗るのは早希とデートするときぐらいだからな」

「徒歩通学だと、電車に乗ることはそんなにないもんね。私は彩葉と一緒にバイトをするときにも電車に乗るけど、メインは遊びに行くときだからワクワクするね」

「特別な感じがするよね。普段の買い物も洲中駅の周りにあるお店に行くことが多いし」

「私も洲中に引っ越すまでは電車で通学や通勤していたけど、こっちで暮らし始めてからは遊びやイベントに行ったり、学生時代の友達に会ったりするときくらいしか電車には乗らなくなったな」

「そうなんですねっ」


 みんな自分の言ったことに共感したからか、結菜はご機嫌な様子。

 通勤や通学に電車を使わなければ、電車にはあまり乗らない人が多いのかもしれない。特に、俺達のように最寄り駅の周りに商業施設が充実しているところに住んでいる人は。

 俺達6人にとっては電車に乗ることに特別感やワクワク感があるけど、電車通学の吉岡さんと神崎さんにとっては何てことのないことかもしれないな。

 この4連休のことを中心に話が盛り上がると、


『まもなく武蔵原台。武蔵原台。お出口は左側です』


 吉岡さんの最寄り駅の武蔵原台駅まですぐのところまで来ていた。それもあってか、琢磨はかなりワクワクとした様子に。

 電車は減速して、武蔵原台駅に進入していく。吉岡さんは待っているだろうか。


「おっ、いた!」


 窓の外を見続ける琢磨が最初に吉岡さんのことを見つけた。さすがは恋人。それもあり、席に座っている4人も窓の方を向く。

 吉岡さんも俺達に気付いたようで、吉岡さんらしい明るい笑みを浮かべて手を振っていた。そんな吉岡さんに俺達は手を振った。

 武蔵原台駅に到着し、電車のドアが開く。

 俺がメッセージで伝えたドアからお客さんが2人降りた後、チノパンに半袖のパーカー姿の吉岡さんが乗車してきた。


「琢磨君、みんな、おはようございます!」


 いつも通り、吉岡さんは元気良く挨拶してきた。そんな吉岡さんに俺達は朝の挨拶をした。

 吉岡さんは琢磨の隣に立って琢磨と手を繋ぐ。山本先生の横の席が空いているけど……吉岡さんは琢磨の隣に立っている方がいいのかな。それに、吉岡さんと琢磨は手を繋いで凄く嬉しそうにしているし。

 俺達の乗る電車は武蔵原台駅を出発する。


「電車の中で待ち合わせすることはあまりないので、みんなと会えて良かったです。さっきまで一人でしたし」


 吉岡さんはほっとした様子で言う。あまりない形での待ち合わせだと不安にもなるか。しかも一人で待っていたし。


「早希と無事に会えて良かったぜ」

「うんっ。あとは玲央だけだね。玲央は隣の駅だからもうすぐ会えるね」


 吉岡さんの言う通り、神崎さんの最寄り駅の藤田給駅は隣駅。モニターによると、あと2分で到着するのでもうすぐだな。

 2分という近さなのもあり、それから程なくして、


『まもなく、藤田給。藤田給。お出口は左側です』


 というアナウンスがなされた。

 それからすぐに、電車は減速し始め、藤田給駅に進入する。出口は左側なので、先ほどと同じように座席に座っている4人は振り返って窓の外を見る。

 電車がもうすぐ止まりそうなタイミングで、


「あっ、玲央さんいました!」

「いたね」


 結菜と藤原さんが神崎さんのことを見つけた。俺と座席に座っている4人は窓の外に向かって手を振る。

 神崎さんも俺達に気付いたようで、とても嬉しそうな様子でこちらに向かって手を振っていた。

 藤田給駅に停車して、電車のドアが開いた。

 メッセージで伝えたドアからは誰も降りないので、扉が開くとすぐに、ジーンズパンツに半袖の肩開きシャツ姿の神崎さんが乗車する。


「おはようございますっ!」


 さっきの吉岡さんに負けないくらいの元気さで、神崎さんは俺達に向かって挨拶してきた。そんな神崎さんに向かって、俺達も挨拶した。

 山本先生の隣の席は依然として空席のまま。なので、山本先生は移動し、先生と結菜の間に神崎さんが腰を下ろした。

 結菜の隣に座れたのもあってか、神崎さんはとても嬉しそうだ。会うのは先週末の3連休に俺の家に遊びに来たとき以来なので結菜も嬉しそうで。そういう光景を見ると兄として嬉しい気持ちになる。

 神崎さんが席に座った直後、藤田給駅を発車する。


「これで全員揃ったね。良かった良かった」


 と、山本先生は安堵の笑みでそう言う。自分以外は受け持っているクラスの教え子と女子中学生なので、全員が集まったことに安心したのだろう。教師らしいなと思える。


「あたしが最後ですから、全員と会えて良かったです。何かの間違いで会えずに、あたしだけ一人ぼっちにならずに済んで」

「あたしもさっき思ったよ。琢磨君達と会うまでは一人だったから」

「みんなと会えて安心したわよね」

『ね~』


 と、吉岡さんと神崎さんは声を揃える。それもあって、俺達8人は笑いに包まれる。俺から乗っている場所を教えてもらっても、一人でいると会えるかどうか不安な気持ちになってしまうのだろう。


「早希、坂井。2人も昨日まで3日間合宿があったのよね。お疲れ様」

「ありがとう、玲央」

「ありがとな。神崎も合宿お疲れさん」

「お疲れ様」

「ありがとう! 合宿で疲れたけど、早めに寝たから今はもう元気よ!」

「あたしもだよ!」

「俺もたくさん寝たから元気だぜ!」


 神崎さんと吉岡さん、琢磨は言葉通りの元気そうな様子を見せる。部活の合宿があったから疲れが残っていそうなのに。普段から練習しているのもあって、元々体力があるんだろうな。さすがは運動系の部活をやっているだけのことはある。あとは、連休前に遊園地が楽しみで合宿を頑張れると言っていたから、それも元気な理由の一つかもしれない。


「あたしは部活がありましたが元気です!」

「俺も元気だよ」

「土曜日は彩葉と一日バイトをしたけど元気だよ」

「昨日は千弦ちゃん達とゾソールで課題をやったけど、終わった後はゆっくりしたしね」

「先生はこの連休で友達と会ったり、イベントに行ったりして楽しめているから、疲れは全然ないよ」


 3人以外もみんな元気か。これなら、今日一日みんなで思いっきり楽しめそうだ。


「みんなも元気そうで良かったです。みんなとパークランドで遊ぶのが楽しみです! ……ところで、白石と結菜ちゃん。チケットはちゃんと持ってきてる?」

「ちゃんと俺が2枚持ってきてるよ。洲中駅で琢磨にも訊かれたよ」


 バッグから招待券2枚を取り出す。

 すると、神崎さんはニコッと笑って俺にサムズアップしてくれる。また、吉岡さんも「おおっ」と興奮した様子になっていて。こういう反応をしてくれると、チケットを持っているのかと何度確認されてもいいなと思える。

 それからは吉岡さんと神崎さんがみんなの服装を褒めたり、この連休中のことや連休前にあった球技大会のことなどで話したりして、最寄り駅の清王パークランド駅に行く電車の中の時間を楽しく過ごしていった。

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