第四話 睡眠惰眠
「...」
何も言えない。
何も感じない。
何も聞こえない。
何も見えない。
何もかもがない。
そんな不思議な感覚に彼は陥っていた。これは夢であろうか。今眠っているからであろうか。
否、彼の直感が、本能が、違うと言っている。
これは...現実だ
(俺の...体...どこ?)
体の感覚がない。体がない。動けない。
息ができない。息する必要もない。
心に焦りと恐怖が出始める。
(俺は…死んだのか?)
死。その一文字が脳裏によぎった。もし死んだとしたのならばきっと良いことなのだろう。もうマーダーで人を傷つける必要もない。
彼自身でも1度はやったことだ。
そのはずなのだが、やはり...やはり...
(死にたくねぇ)
と思ってしまう。そしてその時ふとある疑問が湧いた。
死んだとしたならばどう死んだのか。
マーダーにある即時回復は体験した限りでは回復というより不死そのもの。足が千切れ飛ぼうと、頭を切断しようと、心臓が止まろうと治る。
(一体何で死んだのだ?不死を殺す魔法とか道具とかか?でも俺はあんなとこにいたし誰にも性質は知られてないはず)
益々自分が死んだのかが怪しくなってくる。けれど死でなければこれは一体何の状態なのだろう。
(あぁ分っかんねぇ)
あまりにも少ない情報に無い頭を抱える。もしかしたら永遠にこのままなのではないか、出ることは出来ないのではないかという恐怖はさらに強くなった。
しかし、そんな状況にも文字通り一筋の光がさした。光、何も見えないはずの目にも見えた光。
それが見えた瞬間のことだった。
(うっぐっ‼︎)
体が熱く燃え上がり切り刻まれるような感覚がいきなり襲って来た——痛い痛い痛い痛い...今までで一番の鋭い痛みだ!
「ゔぁぁぁぁぁぁ!」バタ!
彼は両腕を上に思い切り突き出して体を飛び起こす。するといつのまにか掛かっていた薄い布がひらりと宙に舞った。痛みは起きた途端にすっと引き、不整脈と化した心臓の音だけが聞こえてくる。
「...はぁ、はぁ、はぁ、はぁ?」
心臓を抑えながら急いで辺りを見回す。光る蝋燭に照らされているのは岩に囲まれた空間であった。
一応奥に続いているがその先は真っ暗。
どうやらまたも知らない所に来てしまったようだ。
そして次に彼はハッとし自分の体を見回す。もちろんあったのはどこも欠けていない完璧な...いや
「え?なんかっえ?えっ?え?え?」
まず服が違う。彼は昔風のシャツとジャケットを着て長ズボンとブーツを履いていた。服は全て黒で統一されている。ボロボロの服はどこへやら、誰が変えたのだろう。
「ダサい…ダサくね?いや、ちょっといい感じか?パリコレ出たら賞は貰えそう……じゃなくてそんなことより」ガサッ
彼はその場に立つ。いつもと見える景色が少し違う。そこで改めて手を見てみると、目を丸くし口を少し歪ませる。
「だ、だだ、誰の手だよこれぇ!俺のじゃねぇぞ!」
そう、手は見慣れた物ではなくまるで知らない誰かの物であった。訳のわからないことの連続に再び
嫌な汗が流れ出て冷静では居られなくなる。
——コツ コツ コツ
「...!」
奥から足音が聞こえ体が固まった。目だけを動かしてその方向を見る。音はどんどん近づいてきて、その度に震えが激しくなる。
そして今、光に照らされた人が現れた。
「こんにちは。その服似合ってるね」
そう言った美少女は、地味なドレスを着ていた。ただ、その髪は美しいエメラルドであり今にも発光しそうなほどだった。
「あ、あぁ。こんにちは…?」
彼はおぼつかない言葉でそう答える。
それから気づく。
「(
「ふふっ」
不思議そうな顔をした彼を見て彼女は笑う。
「安心して?君のスキルは今は使われていないわ」
「な、なんでそのことを...?」
「私たちは知っているからね。君がアイツの使いであることも君が街を滅ぼしたこともスキルを付与されてしまったことも」
「っ…あんた誰だ?」
どうやら目の前にいる人間は色々なことを知ってそうだ。
「シャペ=オンニール。
シャペは洞窟の奥を指さす。
「…おぉ」
津坂は相槌を打ち二人は洞窟を歩き始めた。彼はおどおどとした足取りで彼女の後をつける。
洞窟を進んでいくと先には古い木の扉があった。隙間からは光が漏れている。
——ギィ
扉はひとりでに音を立てて開いた。そして、その向こう側は洞窟ではあったが沢山の
「す、すげぇ」
「へへっ、スゴいでしょ?何もかも1から作ったんだよ?でもこの出来は我ながらいい物だね。それじゃあっちの席に座りましょうか」
「あ、あぁ」
二人はある席につき対面する。
「さてさて、諸々の説明をしようか」
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