第17話 竜が困りはてる
なにこれ。
俺の今の心境を出来る限り正確に表現しようとした結果、そんな言葉になった。
ここ最近は、とりあえず樹海になってしまった、
その場所にクソバカでかい樹木が聳え立っていた……見たこと無い植物とか、動物がいるのを確認していた……植物も大概だけど動物は絶対まずい……のだが、そうしているうちに、ふと村のことを思い出したのだ。
赤ん坊は元気になったし……ああ、やっぱり俺が使ったアレは回復魔法だったんだな、良かった良かった!ヨシ!
……と勝手に思っていたけど、その後、どうなったかを確認したくなったのだ。
その場では元気になったように見えたけど、またすぐに容態が悪くなった……なんてこともあり得るだろうし、実は病気ではなくて毒を持った動物とか植物が原因で、それを排除しない限りはまた似たような出来事が起きるかもしれない。
そういうわけで……アフターケアという訳じゃあないが、元気かどうかだけは確認しようと思ったわけだな。
だからまた、俺は村の近くにまで移動して、それでいて急に現れてビックリさせないような場所に降りて、ゆっくりと村に向かおうとしたわけだが。
だが。
到着した途端、村の人らが集まってきて……家の中にいたらしい人は外に飛び出してきて、畑作業しているらしい人たちは道具をほっぽりだしてやってきて、武器を持ってる兵士っぽい人らもまたものすごい勢いで走ってきて。
そして俺の前に集まると、一斉に頭を下げて跪いたのだ。
土下座である。
え、え?
えっと。
なにこれ。
ふっと、気が遠くなりかけたが……なんとか意識を強く持つ。
落ち着け……落ち着くんだ……クールになれ……。
………。
よし。
状況を整理しよう。
まず、いきなり武器で攻撃されたりするよりかは、よっぽどいい。
まあ前回、回復魔法を使ったんだし、多分いきなり攻撃されることはないとは思ってはいたけど、実際に攻撃されない状況になると思わず感動してしまうほどだ。
涙が出そう……いや、出ないな、ドラゴンは泣けないのか?
いや、そんなことどうでもいいわ。
現実逃避をしても状況は変わらぬ。
次。
何で村人たちが土下座をしているのか、だ。
ドラゴン脳みそを回転させて考えてみたが……。
①この前、回復魔法を使ったことで村人が助かったことに感謝しており、その礼をしている。
②俺は明らかにヤバい
③土下座の意味が前世のそれとは違う。
③については、この世界の言葉も文化も解らん俺では対処不能なので考えない……こういうジェスチャーとかは、東西で伝来したわけでもないのにある程度似通ってくるモノだ……白人黒人黄色人種問わず、身体の基本構造が同じだから……異世界人も一見して、前世の人間と違いはないように見えるし、この世界の土下座も前世のそれと同じ意味だと考えると、謝罪とか誠意だとかの意味になるはず。
実際頭下げて地面に手つけてる状態では相手の攻撃とか出来ないんだし、異世界でも同じ意味だと思いたい。
さて、それを踏まえると……今までの俺の経験からすれば②が最有力だ。
俺としては①を選びたいところだが……今まで攻撃or逃亡のケースしか経験してないんでな。
統計に対して希望的観測ばかり述べても仕方がない。
とはいえ、先日の回復魔法の一件があるので他の都市よりかは遥かに好感度を稼げているハズである。
命の危機(多分)を救ったのであれば、これが侯爵令嬢とかなら素敵!家を捨てて嫁になるわ!と言い出してもらえるレベルで好感度を稼げていると信じている。
では何故土下座なのか?
「■■■■■■■、■■■■■■■■■■■。■■■■■………」
俺が混乱していると一人の女性がゆっくりと立ち上がり、恭しく礼をそながらこちらに近づいてきて、そして再度礼をした。
深い深い礼であり、頭を下げたまま上げようとしない。
そして、彼女に遅れて老人の男性……村長かな?がこちらに近づき、しかし女性よりは俺と距離を取った位置で立ち止まる。
「■■■■■……」
村長(仮)もまた、何かを言って再び平服した。
え?何この状況?
え?この女の人、何?誰?村長の娘?
俺は前に出てきた女性をじっと見る。
金髪を短く切りそろえた、若い女性だ。
妙齢っていうんだっけ?可愛いというよりも美人さんな容貌だが、首がちょっと長い印象を受けるな。
手足もスラッとして長いから、違和感は覚えないけど。
……と、ここで俺はハッと思い出す。
俺がこの村に来た本来の目的。
そう、回復魔法をかけた赤ん坊の様子を見に来たのだ。
女性には悪いが、俺は自分の首をぐっと上げて村人たちを見渡す。
えーと、子供を抱えてた夫婦は……お、いたいた。
……なんか肌艶がツルツルテカテカしてるな?若返ったのかと言わんばかりだが……
まあ、兎に角それはいい。
……御夫婦はなんで、赤ん坊を抱えてないんだ?
……………
いやまてまてまてまて。
まだだだだああああ慌てるようなじじじじ時間ではなななな
そ、そうだ!
たまたま!たまたま今は誰かに預けているに違いない。
決して実はあれが回復魔法ではなく、なんか遅効性の攻撃魔法とかで、赤ん坊がもう居なくなったとか、そういうわけじゃ決して無いはず。
そうだ、そうに違いない!
二度と赤ん坊みたいな犠牲を出さないために、祟神的な存在を鎮めるために、この金髪の少女を生贄に捧げようとしているとか、そういう事情では決して無いはずだ!
そう考えると色々と今の状況に説明がついてしまうが!ついてしまうが!そうではないに違いない!
反語を反語で返すな混乱する!嘘だと言ってよ!
だが現実は変わらぬ。
金髪の少女が俺の前で頭を下げている状況は変わらぬ。
村人たちが平伏している状況も変わらぬ。
えー。
えー……。
どうしよ……
マジでどうしよ……
ここで彼女を置いていく……のはマズいか。
村人目線で考えると……折角生贄を捧げたのに当の祟神本人にガン無視されたとか、どう考えてもヤバいと判断されるだろう。
下手したら次は3人用意しますとかされかねんし、最悪彼女になにか落ち度があったと見做されて村人に村八分どころか袋叩きにされて文字通りの生贄にされるかも解らん。
白く塗られた幸せの生首とか贈与されたら俺は発狂する。
彼女を連れて帰るか……?
いや、それで生贄=有効と思われて第2、第3の生贄が出てきても困る。
最低でも、これを祟神に対する生贄を捧げる儀式以外の方向に転換しないと……ただし言葉を使わずに。
無理ゲーすぎるだろ。
言葉を使わずに交渉とかオープンワールドゲームでもないだろそんなの、一体どうしろと。
俺は頭を腕でガシガシと掻きむしり……そしてポロッと何かが爪に引っかかる。
それは俺の鱗だ。
ドラゴンの鱗。
……ふむ。
じゃあコレを彼女の代わりにプレゼントするってことでどうだ……?
単なる生贄的な儀式とは変わるんじゃないか?
多分ドラゴンの鱗なら何かしら価値があるだろ、モンスターをハントする系のゲームならいろんな武具作るのに要求される素材だぞ。
……人間捧げたら鱗を渡してくれると思われるか?
いや、ここはこう、なんかこれはとても大事なものだから特別に渡そう見たいな雰囲気を出そう。
織田信長が、家臣に褒美で与える土地がなくなったときに、茶器になんか価値を付与して渡したような感じでいこう。
流石にここまで来たらもう、フレンドリーな隣人みたいなポジションは無理だしな。なんかこう上位存在的な雰囲気で……かといって神様扱いは困るんだが。
……そうすると鱗じゃあなくても、もうちょっと他の何かをプレゼントすれば……いや、他にないか。
強いて挙げるならドラゴンウンコだが。
確かに滅茶苦茶にしっかりと薄めれば、すっごい良質の肥料になりそうだけど……娘を捧げた代わりにウンコ渡されたらどう考えても宣戦布告だわ。
というかいくらドラゴンの身体になったとはいえ人前でウンコ出したくねえよ絶対。
というわけで、鱗をどぞー。
こう、思い切りふんぞり返って威厳たっぷりな感じで。
……あ、なんか目を丸くしてる。
……もしかして「こんなもんと娘を引き換えにするとか舐めてんのか」とか思われてない?いやこれスッゴイものだから!
ちなみに、何がどうスゴイのかとか具体的な話は嫌いだぞ!
よし、とりあえずこの娘を連れていくか。
でもどうやって連れて行こう、手で掴んだら……潰れるよな。
こう頭を下げたら乗ってくれない……?あ、乗った。
やっぱり生贄か何かだったんだな、よしよし。
しっかりしがみついてるよね?よし、じゃあ帰るか。
落ちないようにゆっくり飛ぶけど、気を付けてくれよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます