プロローグ From me to you.

あのね、あのね、わたしマリア。もうすぐ六才になるの。今はね、五才。

それでね。えっと、えっと。

わたしのお話、聞いてください。







私のお話、聞いてください。

私はマリア。十二才です。もうすぐ、十三才になります。

これは、私が六才になる月のことです。今でもはっきりと覚えています。


私は恐れています。十二の誕生日を迎えた時、思い出したんです。それはきっと十三になるその時まで続くでしょう。

何故かと言われれば答えられません。でも、この恐怖はきっと、十三の数字で終わる。そう思うんです。




私の両親はとても優しい人でした。父はヨセフ、母はエヴァ。素敵な名前でしょう?

父は作家でした。作家と言っても有名な作品なんてありません。だから他のお仕事もしていました。フリーライターとでもいうのでしょうか。彼の仕事はそういう物書きでした。

私は彼の書いた絵本が大好きです。文を父が、絵を母が描いた、世界に一冊しかない特別なプレゼント。それは五才の私に贈られた特別なプレゼントです。

母はデザイナーでした。昔はたくさんのお洋服のデザインをしていたそうですが、私が産まれてからは子供服しかデザインしなくなったと本人が言っていました。私の着ていたお洋服はもちろん彼女がデザインしたものです。

二人はとても仲のよい夫婦でした。そして、私の自慢の両親でした。


私は母親似です。誰からもそう言われます。そう、つまり、その、私と父は全く似ていないのです。

私と父には血縁関係はありません。私は母の連れ子でした。それでも私の父はヨセフしかいませんし、彼の娘も私しかいませんでした。

私の部屋には三人で写った写真が今でも残っています。だから、いつまでもずっと二人の顔を見ていることができます。どんなに時間が過ぎても、忘れることがないように、私はこの写真を見つめ続けるのです。


最愛の母、エヴァは私にたくさんのことを伝えてくれました。父のこともそうです。母が再婚するとき、私はまだまだ幼くて。多分何も理解していませんでした。それなのに彼女は隠すことなく、ありのままのことを私に話したのです。

私は、以前の父のことをほとんど覚えていません。母はそんな私に思い出させようとも、教えようともしませんでした。忘れるなら忘れてもいい。母はそう言ったのです。

目の前の人はただの他人。それでも、これから彼を父と呼んでくれるか。母はそう言いました。

彼女が世間一般的に母親として合格なのか。不合格なのか。私にはわかりません。

ですが、私にとってはこれ以上のない母親だった。それだけは確かです。


これが、私の知っている家族です。

もういない家族たちです。


あんな家に引っ越さなければよかった。今でも時々そう思います。

だって、だって、あんな家に行かなければ、今でも私たちは変わらず一緒に過ごせたかも知れないでしょう?

毎年、お誕生日に母が焼いてくれるケーキが大好きでした。クリームの乗っていないスポンジのケーキ。朝早くに起きて、準備をするんです。私の目が覚めないうちに。

母は、父よりも、私よりも朝が苦手なんです。それなのに、年に二回だけ張り切って早起きするんです。私たちのお誕生日をお祝いするために。

母は誰よりも私たちのことを愛してくれていました。私も父もそうです。


ずっと家族が大切でした。私だけの家族が。一緒にいる時間が幸せだった。

もう、どうやったって戻らない。私の家族を返してほしい。返して。二人を、返して。


一体誰に言えばいいのでしょう。

泣いても喚いても、二人が戻ってくることはありません。


だからせめて聞いてください。

私のお話を聞いてください。

私の家族を、あのお家の話を、どうか聞いてください。




呪われていたあの時間を繰り返さないために、私はお話しします。




私は十二才のマリア。

おはなししましょう。五才のわたし。







たくさん、たくさん、お話するわ。

大好きなママとパパのお話。わたしのお家。


あのお人形は、いたの。

わたし、あの子のこと知らないわ。でもあそこにずっといたの。

パパが買ってくれたの? それともママが? 二人とも知らないって言ったわ。

ねえ、十二才の私。あの子は誰なの? あの子は、なんだったの?

ずっと先の明日になればわかるのかな。




じゃあ、お話しましょ。

わたし、マリア。

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