第230話 格上

 ジョズへと続く魔力の糸へ、ニーナの身体が溶け込んでいく。瞬きをするよりも速く、固有スキル『魔導※地』によってジョズの眼前に移動したニーナが、二本のダガーで交差に斬撃を放つ。

 しかし、刹那の移動から放たれた攻撃をジョズは同じく短剣二刀でいとも容易く受け止める。

 ニーナの得物は黒竜の爪と牙から作り上げた二本のダガー、対するジョズの両の手に握るは、Aランク迷宮『羅刹の巣』の中層で手に入れた雌雄一対のダガー、天鷹爪てんようそう地狼牙ちろうが。決してニーナの得物に引けを取らない業物である。


「どういうつもりだい」


 拮抗する鍔迫り合いの最中、ジョズが問いかける。


「どうって……。ジョズさんの話からレナたちのところにも、食客とかいう人たちが行ってるんでしょ? ならジョズさんを殺して加勢に向かうのは、なにかおかしいことなのかな?」


 不思議そうにニーナが頭を傾げる。

 冗談で言っているのではない。ニーナは至って真面目にそう考えているのだ。

 その異様さに、強大な魔物と立ち向かうときとは違った怖さに、ジョズは自然と全身が怖気立おぞけだつ。


「君は、なにを考え――っ!?」


 突如、ニーナの上半身が後方に倒れる。鍔迫り合いでジョズが押し勝ったわけではない。自ら後ろへ倒れたのだ。

 土煙を上げながら、バランスを崩したジョズの下腹部目掛けてニーナの蹴りが放たれる。軽く弾かれるだけでも激痛が走る男性の急所へ、全力の蹴りである。当たれば痛いでは済まない。


「ちっ」


 身体を捻って蹴りを躱すジョズであったが、天高く振り上げられたニーナの足が静止したかと思うと、今度は断頭台のギロチンのように振り下ろされた。

 踵落としがジョズの顔に決まったかと思ったそのとき――

 ジョズが消えた。比喩ではない。

 ニーナが周囲を見渡せば、十メートルは離れた場所にジョズの姿があったのだ。


「君じゃ僕には勝てないよ。

 今からでも遅くないから協力するんだ」

「ごめ~んね」


 問答無用である。

 ジョズの言葉に耳を貸さず、ニーナが『魔導※地』を発動させる。一瞬にしてジョズの懐に潜り込むと、短剣技『ジェットブロー』を二刀で放つ。『闘気』を後方に噴射し、放たれる突きの速さは常人では目に止めることすら叶わぬであろう。


「無駄だよ」


 またしても消えたかのようにジョズは離れた場所へ移動していた。


「君が固有スキルを発動させる際に出す魔言。口癖と思っているようだけど、本当は違う。稀にあるのさ、固有スキルの中には発動させる際に無詠唱も破棄もできず、魔言を唱える必要があるモノがね。

 どれほど速かろうが技の起こりがわかってさえいれば、僕にとって躱すのは難しくない。

 さあ、これでわか――」


 ニーナを中心に、地面に碁盤の目状の魔力の糸が張り巡らされていく。以前、第十二死徒『悪逆のゴーリア』を相手に使用した『魔導※地』を応用した技である。

 碁盤の目状の魔力糸の間を高速で駆け巡るニーナとは正反対に、ジョズは微動だにせず目だけが魔力の流れを追っていた。

 ジョズの背後より姿を現したニーナが、短剣技『逆手二刀旋回・剛』を発動。まるで竜巻のように身体を回転させて斬撃を放つニーナの攻撃を、ジョズは屈んで躱す。

 だが、ニーナの右手首と腰のベルトに煌めく光の線が、目を凝らさせねばわからぬほど細い鋼糸である。首に引っかければ、大型のビッグボーの太い首すら切断することすら可能な代物である。


「同じ斥候職の僕にこんな手が通じるとでも?」


 ジョズは右手に握るダガー、天鷹爪てんようそうで鋼糸を切断する。そして、ニーナの本命・・であった魔力の糸を左手に握る地狼牙ちろうがで切断する。


「しっ!」


 ニーナは大きく後方に飛び退いて、スローイングナイフを放つ振りをする。狙いはジョズの足元の影である。同時にジョズの影から槍が生えてくる。ニーナの影技『シャドースピア』によって、影の槍がジョズを貫いたかのように見えたのだが。


「短剣技に刺閃光しせんこう、槍技に『電光石火』、剣技だと『疾風迅雷』、武技にも同名で『疾風迅雷』がある。いずれも発動した瞬間だけ剣速や拳撃の速度を大幅に上昇させるモノだ」


 次々とジョズの影から発動する『シャドースピア』は、確実にジョズの腹部を、上腕部を、肩を貫いているはずなのにジョズは悠然と歩いている。


「僕のは技じゃない。固有スキル『疾風迅雷』を持っているんだ。一度ひとたび発動させれば、その名の通り風か雷かと見紛うほどの疾さで動くことができる」

「そんなに速さが自慢なんだ~」


 ニーナはアイテムポーチからありったけのスローイングナイフを指と指の間に挟み込む。


「これでも躱せるのかなっ!」


 数十のスローイングナイフを放った瞬間――


「これでわかっただろう? どうしてわざわざ自分のスキルを説明するような真似をしたのか。たかが・・・Cランク冒険者じゃ僕には勝てないことが」


 ニーナがスローイングナイフを放つと同時に、ニーナの背後にジョズが立っていた。




 都市カマーから北に進むと街道は徐々に細くなり、山や森が自己主張するかのように生い茂っている。その街道から少しずれて十キロほど進むと、巨大な生物が山や森を丸飲みでもしたかのような盆地になっている場所がある。

 その盆地に鳥のゴーレムに案内されてついてきたレナの姿があった。


「……協力はできない」


 レナの返答を聞き、盛り上がった土に腰掛ける男、ムッスが誇る十の食客が一人『前衛要らずのランポゥ』が立ち上がる。


「協力はできないだと?」

「……私は『ネームレス』にちょっかいをかけてきた者たちを探していた。あなたが違うなら用はない」


 ランポゥの両手の指先から魔力の糸が地面へ伸びていく。


「用はないだと? ボケがっ。お前は黙って馬鹿みたいに頷いとけばいいんだよ。用があるかないかは俺が決める」


 ランポゥからの圧力が増していくが、レナも伊達に幾度も魔物相手に戦い抜いてきたわけではない。圧力に屈することなく真正面から受け止めていた。


「……ユウに頼み事があるなら、ムッスが直接出向くべき」

「なにを勘違いしてやがる。のこのこ一人でついてきたときから考えていたんだが、まさか自分が強いとでも思ってやがるのか?」


 地面から十体のゴーレムが這い出る。粗雑な作りではない。人と同じく数百の骨組みに土で肉付けし、騎士を思わせる鎧姿にはきめ細やかな装飾が施されている。


「挙句の果てにムッス様のことを呼び捨てにするたぁ――ぶっ殺すぞ」


 ランポゥは声こそ荒らげぬものの、その声に込められた怒りは計り知れないほどであった。


「……私は強い。天才魔術師でいつか大賢者も超える」

「おうおう、そうかいそうかい。じゃあ、教えてやらねえとな」


 レナが杖を構える。ランポゥの装備を見たところ、痩せ型の体型にローブ姿、後衛職に必須な杖こそ持ってはいないが、とても前衛職とはレナには思えなかった。

 なにより、その身に纏う魔力は膨大であった。

 先手を打ったのはレナである。相手の力量を計るために黒魔法第4位階『エクスプロージョン』を放つ。大地が爆ぜ、爆風と土煙が辺りに漂う。


「なんだ今の攻撃は俺を舐めてんのか。格下のお前如きが俺を試すだと?」


 土煙を押し退けるようにゴーレムの腕が飛び出し、かき分けながらその姿を現す。小手調べとはいえ、レナの『エクスプロージョン』をまともに受けたにもかかわらず、土塊でできたゴーレムは無傷であった。


「……っ!?」

「土も馬鹿にできないだろ? 土の精霊と俺の魔力で強化してやればこのとおりよ」


 ランポゥが指先を滑らかに動かす。指ぬきグローブの先から見える指からは魔力の糸がゴーレムと繋がっており、その動きに呼応して陣形を組むとレナへ襲いかかる。

 ランスを持ったゴーレムが突きを放つ。レナにはミスリルの箒に跨り空へ逃げるという手もあったのだが、ランポゥの背後を見れば弓を持った新たなゴーレムが創られていた。そのため、結界を高速回転させてランスを弾く。昨日結界を砕かれた経験を踏まえ、レナは纏う結界に風の属性を付与し、回転速度を強化していたのだ。

 結界とランスが接触すると、とても土の槍でできているとは思えない激突音が響き渡る。恐るべきことにランスを弾いたものの、ゴーレムは姿勢を崩すことなく、またランスの先も欠けてすらいなかった。


「ほお、雑魚のくせに変わった結界の使い方をするじゃねえか」


 その余裕を漂わせる態度が癪に障ったのだろう。レナが数十の『エクスプロージョン』を、頭上からは雨のように『サンダーランス』がランポゥに降り注いだ。


「……私は雑魚じゃない」


 さすがのランポゥもこれでは無傷では済むまいと、レナは結界を維持しつつ爆煙が晴れるのを待つのだが。


「おいおい。さっきから無駄に大地を壊しやがって、これがお前の言う天才魔術師の力なのか? だとしたらやっぱりお前は雑魚だよ」


 ランポゥの周囲を鉄の縄が避雷針のように張り巡らされていた。『サンダーランス』の雷の力は全て大地へと逃され、『エクスプロージョン』はいつの間にやら創造された鉄のゴーレムが持つ盾によって受け止められていたのだ。


「死ぬんじゃねえぞ?」


 鉄のゴーレムの間から、青緑がかったミスリルのゴーレムが飛び出す。そのまま弓を引くように右腕を目一杯後ろへ引き、拳撃を放った。

 ミスリルのゴーレムと言っても、ランポゥの想像次第でその姿形は無限に変化する。ミスリルのゴーレムの腕は人と同じような造形ではなかった。穿孔機ドリルのように円錐型で、肘の関節を支点に高速回転していたのだ。

 レナの判断は速かった。ミスリルのゴーレムが見掛け倒しではないことをいち早く察知し、黒魔法第5位階『アイアンウォール』を展開する。高さ二メートル、幅六メートル、厚さは五十センチにも及ぶ鉄の壁が、ミスリルのゴーレムの前に立ちはだかる。

 だが――ミスリルのゴーレムは鉄の壁を紙でも破るかのようにぶち抜き突進してくる。

 レナは結界へ魔力を注ぎ、さらに結界の回転力を上げる。

 ミスリルのゴーレムの穿孔機とレナの結界が接触した瞬間、耳をつんざくような音とともに、結界を構成する魔力が火花のように散っていく。結界が削られるその傍からレナは結界を再構築するのだが、それを上回る速度でミスリルのゴーレムの穿孔機が結界を削り取る。


「……あっ」


 レナの小さな声と結界が貫かれたのは同時であった。とっさにミルドの杖で身体を庇うも、脆くもミルドの杖は砕け、無情にも穿孔機がレナの右胸にめり込んでいく。


「……かはっ」


 ミスリルのローブのおかげで穿孔機は身体こそ貫通しなかったものの、右肺を潰されたレナはその場に蹲り吐血する。地面には鮮やかな朱色の染みが拡がっていく。


「見ろよ? こんなもんだぜ。お前の実力なんてよ」


 自らを見下ろすランポゥの姿に、レナは知らず知らずのうちに全身が震えていた。




「待ってましたよ」


 都市カマー南門を出て数キロ先の平原で、小人族の少女が飛び跳ねるようにマリファを出迎えた。


「それは失礼いたしました」


 左右にコロとランを従えるマリファは、言葉とは裏腹に悪いなどとは微塵も思ってなどいなかった。


「初めましてですよね? 私はムッス様の食客で名を――」

「知っていますよ。ムッス伯爵の食客が一人『薬師プリリ』」

「わっ、わわっ、驚きました。私のことを知っているなんて、私も有名になったものですね。ですが、これは感心しませんね」


 そう言いながら、プリリは草花の中からいくつかの花を摘み取る。


「ダンチェーラ、ウンダモコアサガオ、サルビアーノン、どれも幻覚作用のある毒花です。花粉や花から発せられる気体を吸えば、たちまち正気を失う危険な植物ですよ。私じゃなければ、大変なことになっていました」


 プリリは危険な毒花を愛でるように鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。マリファが気づかれぬように放ったはずの樹霊魔法の植物が全く効いていないのである。


「それはお互い様でしょう」


 マリファが手を動かす度に、それに合わせてコロとランが立ち位置を変える。まるで危険ななにかを避けるように。


「あはは。気づいていましたか? おかしいなー。無色無臭なはずなのになぁ……。あっ、その眼の力ですね。確か魔眼屋で施術したゴブリンクイーンの魔眼でしたよね。そっかそっかぁ、その魔眼にはどういう風に視えてるんですか? 気になるなぁ。実験したいなぁ」


 風上に設置したプリリ特製の毒壺より漏れ出る無色無臭の毒は風によって運ばれ、運悪くこの場所より壺の置かれた二キロまでの道程に生息していたあらゆる生き物は、その活動を停止させていた。


「でも、殺すつもりなんてなかったんですよ? これは本当です。毒の効果は全身の自由を奪うモノで、あっ、でもでも弱い人だと臓器の機能まで停止するんでした」


 肩をすくめながらプリリは舌をぺろっ、と出す。その可愛い仕草がよりプリリの怖さを際立てていた。


「殺すつもりはない? そうですか」


 マリファは精霊魔法第1位階『ゲイル』を発動させる。強風によって身体の自由を奪うプリリ特製の毒が彼方へと散らされる。


「疑ってるんですか? 本当なん――」


 プリリの懐に突如として奴隷メイドの一人、虎人のメラニーが現れる。手には鉤爪が嵌められており、そのままプリリの腹部を貫く。


「――ですよ? あれぇ……これって幻――」


 メラニーを掴もうとするプリリであったが、素早く後方へと飛び退く。そしてさらに――


「あちょーっ!」


 両の手に巨大なグローブを嵌めたティンが、プリリの脇腹にパンチをお見舞する。


「ご主人様直伝のパンチだよ。防いでも防がなくても身体の芯まで響いてやんなっちゃうでしょ?」


 プリリの全身が波打つように震え、目や鼻、口、さらには耳から血が噴き出す。


「げ……幻覚じゃ、げぶっ。な……ないようですね」

「幻惑魔法です。

 最初に幻覚の植物を使えば、あなたなら必ず見破ると思っていました。予想どおり、私の毒花を見破ったあなたは油断してくれましたね」


 ポコリとアリアネの幻惑魔法によって姿を隠していたメラニーとティンは、プリリに攻撃するチャンスがくるまで、伏せて待っていたのである。

 見事、策は成功しプリリに致命傷を与えたのだ。


「ご主人様とムッス伯爵が戦うことになれば、真っ先に消さなければいけないのがあなたです。

 食客の中でもあらゆる薬や毒を熟知し、個よりも軍を相手に戦うことを得意とし、正攻法ではなく搦め手で攻撃してくるあなたの存在は非常に厄介です」

「そ、そっかぁ。げほげほっ。こういうこと、す、するんだぁ。ひ、一人で来てくださいねって、お手紙には書いたのに酷いですね」


 致命傷を与えたはずなのに、プリリの傷が塞がりつつあった。今も恐るべき速度で再生し、傷はほぼ回復していた。


「お姉さま、あれは一体っ!?」

「もうー、面倒でやんなっちゃう!」

「ポーションや魔法で回復しているわけではなさそうです」


 プリリの異常な回復力に、マリファたちは動けずにいた。完全に回復したプリリはマリファたちを見る。睨んでいるわけではない。実験動物を見るかのように観察しているのだ。


「もう、怒りましたよ!」


 プリリがアイテムポーチの中から一本の注射器を取り出す。そのまま首に刺すと、毒々しい紫色の液体が首筋から体内へと注がれていく。すると、目に見えてプリリの血管が、筋肉が激しく脈動し、膨らんでいく。


筋肉盛々マッスル・ドーピングです。大昔にガジンという筋肉お馬鹿さんがいたそうですが、今の私とどちらが膂力は上でしょうか」


 大地が爆ぜると同時にプリリの姿が消える。


「ちっ。簡単に追いつけると思うなよ!」


 狙いはメラニーである。獣人の動体視力は、わずかではあるがプリリの動きを捉え、距離を取ろうと駆けるのだが。


「遅いですよ」

「なっ!? こ、この――」


 背後をプリリに取られ、さらに速度を上げるメラニーであったが、その姿を嘲笑うかのようにプリリはピッタリとついていく。


「これは先ほどのお返しです」


 プリリは軽く拳を振るう。控え目に見ても素人と変わらぬ身のこなしである。


「ごえっ……」


 プリリの拳を十字受けで防いだメラニーであったが、両腕はへし折れ胸部が陥没し、吹き飛んでいく。


「あらら。軽く殴ったんですけどねぇ」

「あなた、性格が悪くてやんなっちゃう!」

「次はあなたですか」


 巨大なグローブでティンが拳撃を放つ。それをプリリは受け止めるが。


「がはっ……。あなたの攻撃は厄介ですね」


 内部を破壊するティンの攻撃は、いくら筋肉で超強化したプリリと言えどもダメージを喰らう。口から流れる血を舐めとると、プリリは軽く指先でティンの頬を撫でる。薄っすらと引っかき傷のような朱線がティンの頬に浮かび上がる。


「このくらいの攻撃で、私を倒せると思うなんてやんな――」


 そのままティンは物言わぬ石像と化した。


「バシリスク、コカトリスから抽出した毒を私が調合した物です。そこらの解毒ポーションや解毒魔法では治すことはできませんからね。

 ふ、ふふ。私は実験が大好きなんですが、好き過ぎるのも困ったものです。最初は虫だったんですが気づけば動物を解剖するようになり、人や魔物が対象になるのもあっという間でした。挙句には自分の身体でも実験をするようになって、気づけば自由自在に身体から好きな薬や毒を調合することができるようになりました。

 ほら、先ほど受けた傷がすぐさま治ったのも、実験で常人を遥かに上回る再生能力を手に入れたからなんですよ」


 楽しそうに自らの悪癖を語るプリリから、マリファは視線を外さない。


「む、むむむ? これは失礼しました。私の悪い癖ですね。好きなことになると、ペラペラ喋っちゃうんですよ。

 でも、でもでもですよ? あなたは私を殺そうとしたんですから、私に殺されても文句は言えませんよね? あー、でも殺すなって言われてるんですよね。どうしましょうか? 解剖したいなー、実験したいなー。あなたみたいな、命乞いなんか絶対しないって人ほど、最期は泣き喚きながら助けを乞うんですよねー。そちらの魔炎狼と金雲豹も是非生きたまま解剖したいんで、あまり無駄な抵抗はしないでくださいね?」




 都市カマーの大通り。

 ニーナたちが各地で戦闘を繰り広げている同時刻、多くの人が行き交う通りを一人の巨人族の男が歩いていた。

 皆がすれ違うと振り返られずにはいられなかった。男の全身にはいくつもの傷が刻まれており、その風貌や纏う空気は男が只者ではないことを物語っていた。

 巨人族の男が剣呑な空気を垂れ流しながら冒険者ギルドへ入って行く後ろ姿に、なにか争いごとが起こると、誰もが容易に想像することができた。

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