74:エレナの野望
「……飲み込めはしたけど、やっぱり一気にカミングアウトするもんじゃないでしょ。」
そんな愚痴をつい漏らしながら、自身の相棒であるペガサスと一緒に地面に座り込む。迷宮都市の外にある草原の一つで、私たちの訓練場としてもつかわれるここ。今日は大半が迷宮に籠ると言うことで、利用者は私たちくらい。いつもなら自己鍛錬として急降下だったり、私たち一族の技である『蒼月』の練習をしたりするのだけれど……。
(今日ぐらい休んでもいい、よね。)
先日ティアラから吐き出された情報の洪水。一体いくら溜め込んでたのだと、ついその頬をはたきそうになってしまいそうになるほど濃度の高いそれは、一瞬にして私の処理限界を吹き飛ばしていった。何? 3000年以上忘れ去られていた神を呼び戻して復活させて信仰して? 加護たくさんもらって今の王国と帝国の女神ぶち殺しに行く???
んなもん一気に言われて受け止め切れるわけねぇだろいい加減にしろ、って感じ。更にその大昔の女神の元まで急に飛ばされるしさぁ。その神めっちゃフレンドリーだしさぁ。もうマジ無理。きつい。しんどい。
「あぁ~~~、泣き言言っても何も変わらないとはいえ、もうちょっと何かないのティアラ。……あぁ、ごめんね。心配かけたわね。大丈夫。」
自身の鼻を私の方に向け、大丈夫かと心配してくれる私のペガサス。そんな彼に礼を言いながら、顎の下を撫でてやる。
……まぁ私も、今の王国教会や王国の女神に文句がないとは言わない。
王国教会はこの王国で強い基盤を獲得している。だって競争相手としてはほぼ国交断絶状態の帝国の教会のみ、つまり王国内で敵のいない彼らは、のびのびと勢力を成長させ人々の生活に浸食することが出来たのだ。まぁ聖書に書かれている教えのように、人に優しく教えを説くような人が居ないわけではないが……。誰にも破壊できない基盤の上で胡坐をかいて嘗め腐っているような奴もいる。
(この前転職しに行ったときに会った、この迷宮都市の教会のあいつもその一人ね。“欲望都市”の名に恥じない守銭奴司祭だったわ。)
一番簡単で万国共通のコミュニケーション方法である暴力も、教会の前では意味を為さない。『破門』や『異教徒』扱いをされれば、その瞬間に私たちの人権は失われる。町を移ればその噂もなくなり人並みの生活ができるようになるかもだけど……、いずれ噂は広まり、住める場所が無くなっていく。人である限りそのすべてを個人で完結させることは難しい。社会で生きるには、教会の“許可”が必須だった。
(でも、ママの話を聞く限り……。ティアラと協力関係を結んだ伯爵? の一派はこの状態を破壊しようとしている様だった。)
勿論ママから聞いた『五大臣の圧政で儲けてる聖職者たち』がいて、それをぶっ殺すというのもあるだろう。
けれど敢えてそこから国教をティアラが信仰するあの神に変えると言うことは……。王国教会の支配からの脱却、を意味している。教会は王位継承の儀式を執り行っていたはずだから、政治面でも結構な支配体制を構築していたはずだ。王侯貴族からすれば自分の思い通りに出来ない厄介な目の上のたんこぶだっただろう。
けれど話を聞いている感じ……、ティアラはそのあたりに頓着してなさそうだった。
(アユティナを名乗る神のスタンスは、“神の名のもとに統治”ではなく、“自己による発展を後押しし見守る”ような形。いわば放置するタイプのように見受けられた。)
「教会の支配からの脱却、という面で考えればこれ以上ない“便利”な宗教よね。」
もしこの戦いで勝利し、女神を撃破して王国教会の力を削ぐことが出来れば……、その権威は一気に失墜する。そして立ち回り次第では、王国教会の神をアユティナへとすり替えることすらできるだろう。何も知らぬ聖職者たちに『実はこれまで祭っていた神は悪魔だった』なんて言った後に“神秘”を見せてやればコロッとひっくり返りそうだし。大きな動揺なく、物事を動かすこともできそうだ。
まぁつまり、教会勢力の力が落ち、王や貴族の力が上がる。思いっきり政治がらみのお話ね、これは。
「ママには“絶対に会うな”って言われたけど……。この計画を考えた人、かなりの策士ね。一度お話してみたいわ。絶対“貴族”としてためになると思う。」
私はママの様な武芸者としての立ち振る舞いを求められているけれど……。同時にパパの様な統治者として、貴族としての視点を持つことも求められている。いや、周囲から求められているのは確かなのだろうが、それ以上に“私自身”がこの二つを軽々と達成してやりたい、そう考えているのだ。
よくママは『自分が出来ないことは他人に任せて、任せた奴の中から一番強くて信頼できる奴を婿に迎えろ』みたいなことを言っているけど……。
そもそも全部出来るんだったらそっちの方がよくない? と最近思う様になった。もちろん一人には限界があるので多くのものに頼らないといけないし、女一人じゃ子供を産めず一族を繋げることもできない。だからいずれパートナーは探さないといけないんだけど……。
「片方しかできないよりも、両方できた方がカッコいいわよね。……それに、それぐらいでもしなきゃ追いつけそうにないし。」
ティアラ、あの子が持つ肩書は……、私が思っているよりも、ずっと多かった。アユティナという神の3000年ぶりの信者で使徒、50数人の傭兵団の長であり同時にアユティナを祭る教えのトップ、オリアナという平民出の強者の孫にして帝国を地の底に落とした英雄。あいつはこれを自然体で全てやり遂げている。
あの子の隣に立つ、そして追い越すには。力も大切だけど、それ以外も大事。武芸者として動くだけではダメだ。
「パパとママ、二人とも大きすぎるくらい凄い先達だけど。軽く超えて行かなきゃ。」
さて、そうと決まれば鍛錬でもしなきゃ! ティアラが始めようとしている宗教戦争。それに参加するには“強さ”を示さなきゃいけない。少なくともママ相手に何とか引き分けに持って行くぐらい強く成らなきゃ、多分気絶させられてそのまま領地に送り返されてしまうだろう。
多分このままティアラが作った予定表通りやれば到達自体はできそうだけど、そこが終着点じゃない。こういうのは積み重ねが大事だし、どんどんやって行かなきゃ!
故に私たち『空騎士』の技である“急降下”。そして一族の技である“蒼月”の練習でもしようかと立ち上がった時……、こちらに向かって歩いてくる人影が見える。
(赤の装飾が入った鎧。確かにティアラの傭兵団に居た姉妹……。ソーレとルーナ、だったかしら?)
頭に叩き込んでいる表、ティアラが作った予定表では確か二人は休養が割り振られているはずだった。
いくら早急にレベルを上げなければいけないと言えども、休みなしで動き続ければ人は壊れる。故に今日の私のように彼女たちも町の中で休息をとるはずだったのだけれど……。装備からして、自己鍛錬かしら? 私とおんなじね。……少し付き合ってもらいましょ。
「ねぇ! そこの二人!」
「え、あ、はいっ!」
「鍛錬しに来たんでしょ? 良かったらちょっと付き合いなさい。」
「お、お姉ちゃん。知ってる人?」
「ば、ばか! ティアラ様の御友人の方でしょ! えっと名前は……。」
私よりも上の世代、おそらく12は過ぎているだろう二人が少し小声でわちゃわちゃと話す。内気そうな妹に、快活だが少し頼りない感じがする姉、といったところだろうか。“ティアラ様”とわざわざ言っていることから、かなり慕っているのが見て取れるけど……、あまり記憶力は良くなさそうね。大丈夫かしら?
「エレナよ、エレナ。天馬騎士団団長ナディーンの娘にして、へスぺリベス子爵の娘。貴女たちティアラに仕えてるんでしょう? 一度見た貴族の顔と名前は憶えておいた方がいいわ。最悪打ち首よ。」
「「は、はい……。」」
申し訳なさそうにしながら返事をする二人。
……鍛えていないわけではないが、まだ発展途上の肉体。体つきは剣士っぽいけど、ちょっと足の肉の付き方が騎兵寄りね? ちょっとチグハグだけど大丈夫かしら? 顔色もそれほどいいわけではないみたいだし。ったく、ティアラめ。自分の部下ならちゃんと面倒見なさいよ。しっかたないわねぇ!
「ほら、さっさと構えなさい! 見てあげるわ。」
「え、あ、あの。お貴族様に剣を……。」
「戦場じゃ身分なんて関係ないでしょ? さっさと構えないと無礼討ちで処理するけど、いいの?」
そう言うと、渋々という感じではあるがようやく剣を抜く二人。おそらく私の身分と、自分たちよりも明らかに年齢が下、ということから引け目があるのだろう。まぁ確かに年齢の差ってのは強さの指標の一つだけど……ッ!
「全然腰が入ってないッ! やる気あるの!?」
踏み込み、一瞬で距離を詰め、二人を槍で弾き飛ばす。
ふん! まぁ武器を飛ばされないようちゃんと掴んでたのは及第点かもね。
「強さの指標は見た目じゃないって貴女たちの主が体現してるようなものじゃない! いくら模擬戦でも剣を握ったのなら気合入れなさいな! ほら早く立つッ!」
「ッ! 失礼、しました!」
「やり、ます!」
私がそう発破をかければようやくやる気になったのだろう。表情を引き締め、強く剣を握りながら立ち上がる二人。ふふ、そうでなくっちゃ。さて……。
持っている剣は白と黒の業物、けれどあまり扱いなれていないように見えるから借り物かしらね? それで体に染み込ませた剣術は我流に近いけど、母の義理の姉。オリアナさんの雰囲気が見て取れる。両手でしっかりと剣を握り、一撃一撃をしっかり打ち込んでくるタイプだ。
姉の方、ソーレとやらはおそらく完全な前衛職のタイプ。パワーとタフネスで押した方が輝けるだろうが、まだ肉体の成長が理想に追いついていない。対して妹のルーナの方は、速度重視型の中衛・遊撃タイプ。姉の後ろを上手く立ち回りながら戦うのが良いのだろうけれど……、こちらも肉体が未熟。
自身の実力のなさに焦り過ぎて体の回復が間に合っていないのに、鍛錬に打ち込むタイプね、これは。
(ちょっと石突で叩いて眠らせるとしましょうか。)
自然体で槍を持ちながら、二人に向かって手招きする。多少は戦えて、連携も出来るのだろう。想定通りに姉の方が先に突っ込み、妹がその陰に隠れながらやってくる。けれどまだ私に意識が向き過ぎている。そんなもの狙ってくださいといっているようなものだ。
振り落とされようとする姉の剣を槍の柄で受けとめ、同時に後ろにいる妹に向かって突きを打ち込む。剣で防御できたようだが……、動きが遅い。二人の武器を支点としながら軽く空へと跳躍し、二人の顔に蹴りを叩き込む。
「二人ともちぐはぐ! 姉の方は気配が弱すぎるし、妹は気配を出し過ぎてる! 妹に奇襲させたいのならもっと考えなさい!」
そう言いながら、追撃を繰り出していく。この程度であれば、槍と剣の相性差も相まって指導しながら勝負することが出来る。まぁ私もまだ若いというか幼いから、ママやオリアナさんに比べたら指導力もまだまだなんだけどね。……でもティアラよりはマシかな? あいつ人に教えるの下手そうだし。
思考を廻しながら、二人の攻撃をさばいていく。流石姉妹というべきか、崩されてもすぐに立て直し、息の合った連撃を打ってくる。同時攻撃はまぁ一般の兵であれば手も足も出せずに死んでしまうであろう威力だ。眼に籠る意志の力ってのも十分あるんだけど……。
(まだまだ、ね。)
同時に打ち込まれた振り下ろしを槍の柄で受け止め。そのまま二人を押し返す。
剣を両手持ちしている時、その振り下ろしが上へと弾かれれば……、自然と無防備な腹部が曝け出されることになる。こういうのを嫌って剣兵はよく片手持ちにして空いた手で盾とか持っているんだけど、少し出来る人なら盾ごと切り裂いちゃうとかよくある話だからね。攻撃は最大の防御、力が足りな過ぎてそもそも攻撃になってないけど、その姿勢だけは認めよう。
姉の腹部に向かって、槍の石突を叩き込む。
「んグッ!!!」
「お姉ちゃんッ!」
「次は貴女だけど防御しなくていいのかしら?」
姉がやられたことで動揺した妹、そんな彼女に向かって姉と同じように石突を腹にぶち込んであげる。カハっ、と肺の中の空気を押し出すように吹き飛ばされた彼女は、姉と同様気絶し、夢の中へ。
「……これで少しは休みになるかしら?」
そんな模擬戦がきっかけで、私はあの姉妹たちと共に行動することが多くなった。いや、面倒を見てあげるようになった、という感じかしらね?
どうやら二人は普段オリアナさんに剣の指導をしてもらったり、天馬騎士団の子たちにペガサスの乗り方を教わってもらっていたようだが……。現在両者ともにレベリングの作業で席を外していることが多い。まぁ私もこの姉妹も同様にレベリング自体はしているのだけれど。
(どうも何もしていないと不安になって動いてしまうタイプみたいで……。)
最低限の回復もできていないのに動いてしまう、そのせいでどんどんと精彩が欠き、能力も落ち込んでいく。そしてその能力低下に焦り、また鍛錬を増やしてしまう。負の循環を続けてしまう子たち。まぁ、気持ちは解らなくもないんだけれどね? 私が見張ってないと碌に休めないのはちょっと勘弁してほしいわ。
(まぁそのおかげで私も周囲を見る余裕が出来たし、考えを深める時間が取れるようになった。今みたいに共に昼食を摂りに行ける友人が出来たと思えば……、いいのかしらね。)
姉妹が戦いに身を投じる理由は聞いた。
幼い時にオリアナさんに命を助けられ、恩を覚えたこと。そんな彼女からティアラを守ってくれと言われたこと。そして雇ってもらう様になってからそれまでよりも良い生活ができるようになったこと。まぁそんな感じで恩を感じて、ティアラにそれを返そうとしているようだが……。まぁ実力が足りていない。
ティアラが真に欲しているのは、“強者”。
あの子は無意識でやっているのかもしれないが、オリアナさんや私のママレベルの強者じゃない限り、基本的に一括りにして見ていることが多い。あの奇抜な髪型の集団もそうだし、天馬騎士団の子たちも個々の名前はしっかりと覚えコミュニケーションをしている。……だが、どこか一線を引いて話しているように見えるのだ。
懐に入れたものを絶対に失わないようにする優しい子ではあるんだけれど……、肩を並べて戦えるのは強者しかいないという、ある意味“現実的”な視点を持っている。と言ってもいいかもしれないわね。戦場では力がすべてだし、間違いではないのかもしれないけれど……。
この姉妹にとっては、それが焦りに繋がっていたようだった。
(守るどころか、逆に守られてる。このままじゃ恩を返すどころか、溜まっていくばかり。“借り物の剣”もちょっと重しになっているみたいだったしね。剣を使いこなそう、剣に負けない存在に成ろう。そう言ったはやる気持ちが休息の時間をどんどんと削ってしまう。)
ここで諦めずに我武者羅に前へと動き藻掻き続ける。私もティアラも好きなタイプの人間で、普段の彼女であれば姉妹たちの不調に気が付きカバーしたのだろうが……。まぁ現在。あの子自身結構余裕がない。というかオリアナさんもママも、かなりギリギリまで体を酷使している。
(この子たちのおかげで人を見る余裕が出来たおかげで、私もそれが理解できた。みんな心のどこかで、焦ってしまっている。)
まぁそれも仕方のない話。何と言ったって、神という大それた存在を殺そうとしているのだ。
ティアラにはそれが可能になる基準というものが見えているようだったが……、あの必死さを見るに、私たちの誰もがまだその基準に達していないのだろう。故にレベリング時間が延びに延び、他者を見る余裕がなくなったせいで、ソーレとルーナの不調に気が付けなかった。
(決戦はおそらく2か月後、それを考えれば仕方のない所もある。)
だからこそ、まだ余裕のあった私が動いた。
ティアラたちの必死さを見ていると、冷静に考えて、未だ“強者”でもない私がたった2か月で神を打倒できる力を手に入れられるとは思えない。たしかに“強者”へ手を掛けることはできるかもしれないが、そんな強者が死に物狂いで上へと駆け上がっても間に合うかどうかわからない“神殺し”の領域まで行けるとは、口が裂けても言えなかった。
故に、自身の役割を再定義した。
神の相手をママたちがするのであれば、天馬騎士団やティアラの傭兵団の指揮をとれる者がいない。
(そこに自身を、押し込む。)
故に姉妹たちとの交流や、あの奇抜な髪型の男たち。ティアラの言うモヒカンズと会話をしたり、天馬騎士団の者たちとより深い交流を結ぶことに徹している。もちろんレベリングの手を緩めることはないが、今までしていた自由時間の鍛錬を取りやめ、交流に振った、という感じだ。
私の想定では決戦の約半月ほど前に、自身の肉体は“強者”側へと進めることが出来るはずだ。残り半月で神殺しの領域を目指すよりは、指揮者として必要な信頼関係の構築と、兵たちの士気及び体調の管理に動いた形になる。まぁ天馬騎士団は各部隊長がしっかりしているからその問題はないし、モヒカンたちは謎のタフさと気楽に受け取れる精神性があったので軽い息抜きをさせる程度で大丈夫だったが……。姉妹は違う。
この子たちは本当に壊れるまで動き続けてしまう。なので暇な時間が被ったときは、基本姉妹を連れ歩いている、というわけだ。
「そうでもしないと貴女たち、倒れるまで訓練しようとするでしょ。」
「うぅ、すみません。」
「謝るならしないの。お姉ちゃんなら自己を律して妹の手綱を握りなさいな。そしてルーナも姉のことを思うなら我慢するのと、暴走しかけた姉を止めることを覚えなさい。」
「……はい。」
頭では理解していても、体が動いてしまうのだろう。申し訳なさそうにする二人に笑みを浮かべながら、自身の考えを述べてやる。この子たちの性格から考えると、同じ境遇や同じことを考えている奴がいた方が、色々とやりやすいだろう。
「自由時間色々と連れまわしているけれど……。私だって、焦っていないわけではないのよ。」
私は自身の目標を、『ティアラのライバルであること』と定義している。
ライバルと言えば勝った負けたを繰り返して、互いに切磋琢磨していく相手だ。けれど今の私は……、全く実力が足りていない。本音を言えば、血反吐を吐きながらでもティアラの横に立つために、“神殺し”の領域まで早く到達したいと思っている。
冷静ではない、心の中に押し込めた自身が。暴れ叫び回っているのだ。
「けれどここで失敗して躓けば、もっとおいて行かれてしまう。」
母に課せられた“参戦”の基準は、強者の領域に足を踏み入れること。もし血反吐を吐きながらティアラと同等の領域に向かって走り始めてしまえば……、おそらく途中で私は壊れる。いくら肉体強度が高いと言っても、私はまだ子供だ。限界を迎えるのは大人よりも早いだろう。
耐えきれず体を壊してしまった私は、即座に領土に返され戦争には参加できなくなってしまう。
そうなれば、もっと差が開いてしまうのだ。
「おいて行かれないようにするには、確実に一歩ずつ。ティアラよりも大きな歩幅で歩かなくちゃいけない。」
だから、焦っちゃいけないの。
「貴女たちもそう考えなさい? それにティアラも言ってたわよ、『姉妹ちゃんたちは私より体が強いからレベルさえ上げればいい剣士になる』って。あの雑魚肉体強度の鼻を明かすために休むときは休みなさいな。」
この二人、ソーレとルーナに指示するように。私も一歩一歩確実に進まなきゃね。
(ま、あの子が油断してたら横から全部“頂いちゃう”予定だけど。)
より強いものを倒せば倒すほど、“経験値”というものが入るのでしょうティアラ。このダンジョンでの2か月の準備期間で間に合わないのなら……、本番で追い抜いて差し上げようかしら? ふふ。
神をティアラたちが相手するとなれば、それ以外の兵は私たちが相手することになる。教会が誇る熟練兵たちの集団である教会騎士団、もとい“聖騎士”。そしてティアラのような存在がいるのならば、相手も“使徒”がいなければおかしいだろう。私たちはそんな奴らを相手取らないといけない。けれど見方を変えれば……、とっても美味しそうな“経験値”だ。
“聖騎士”を丸ごと頂いた後に、“使徒”もいただく。ティアラが食い荒らした二万の兵に比べればまだ微笑ましい程度でしょうが……、それでもその“質”は格段に良い筈。
「愉しみ、ですわね。」
「エレナ様、どうかしましたか?」
「いーえ、何でも。」
ふふふ、本当に愉しみ、ですわね。
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