13:町にいこう




自分の村を飛び出して数日、詳しくはしらないんだけどそろそろ目的の町が見えてくるはずだ。



(一応大まかな地理は頭に入ってるんだけど、ゲームの知識だからなぁ。大都市と戦場になる場所以外の名前はマジで解らん。それにまだ子供なせいでそこらへんの知識全然仕入れられてないし……。)



行こうとしている町は、最終目的地のダンジョンではなく、ただの中継地点。私の村から一番近い町で、しっかりとは覚えてないのだけど、私が誅殺したあの貴族みたいな奴の領地だった気がする。このあたり原作でもフレーバーとして軽く触れられてただけだから、ちょっと記憶があやふやなんだよね……。


っと、なんでその町によろうとしているかというと、普通に物資の補給が目的だ。元々村を出る予定なんかしていなかったので、現在私は普段着で移動中。旅用の外套とか靴とかも持ってないし、食料もない。一応アユティナ様から頂いた“空間”に、これまで殺した盗賊が持っていた食料とかが入ってるし、調理器具もある。近くの川で汲んだ水とかも入れてるから当分野垂れ死ぬことはないんだけど……。



「さすがに着替え欲しいし、まともなごはんも食べたいっす。」



盗賊の服なんて汚いし、サイズもあわない。食料も保存食ばっかだから飽きる。それに火おこしの道具とかもないし、寝袋もない。夜の間は馬を放置して、自分は木の上で無理やり寝てるんだけど……。そのせいで体に結構ガタが来ている。ちゃんとした装備が必要だし、休息もしたいんですよ。


あ、お馬ちゃんの匂いは私の“狼ちゃん”たちが覚えたからもうどこにも逃げられないよ?



「一応主人として認めてくれたみたいだから逃げないし、言うこと聞いてくれるんだけどね~。よちよち。」


「ぶるる。」


「まぁお前、町に着いたら売るんだけど。」


「ぶルッ!?」



いやだってお前あのクソ貴族? 騎士? まぁどっちでもいいけど、アイツが乗ってた馬でしょうが。


馬なんて普通に高級品だ。所有者が誰とかある程度把握されていてもおかしくない。私が殺したあいつはクソ野郎だったけど、地位のある人間だったのは確か。そんな奴の馬を私が持ってるとか確実に疑われるし、最悪犯罪者としてお縄になってしまう。


故に、問題になる前にさっさと売り払って逃げるのが最適だろう。私が16になる頃、原作が始まるまではこの辺りに戻ってくるつもりはないし、もしバレたとしても時効ってやつだ。


それに盗賊から奪った金はあるけどまだ心許ないし、ダンジョンへ行くのも個人じゃなくて乗合の馬車を使おうと考えている。つまり君はいらない子、お荷物なのだ。あぁでも安心しなさいな、多分売り払った先でちゃんとうまいもん食わせてもらえるだろうし。毎日道草じゃお前も飽きるだろう?



「ぶる!」



何となく理解してくれたみたいで、首を撫でると小気味いい返事を返してくれる。


まぁ問題は子供相手に売る側がどれだけちゃんと相手してくれるかだけど……、まぁ最悪武器で脅せばいっか! さっきも言ったけど時効ってやつよ! 【オリンディクス】ちゃんを使えばさすがに身元特定されちゃうかもだけど、今の私にはあの襲撃クソ野郎が使っていた【鋼の槍】がある。これでツンツンして、『適正価格で取引してッ♡』すればおーるおーけー!



【いや何考えてるのさ、ダメだよ脅迫は。】


「…………? あ、アユティナ様でしたか。」



急に声がしたと思ってあたりを見渡すが、誰もいない。


不思議に思ったところで、ようやく体内から声が響いていたことを理解する。いつの間にかアユティナ様がお電話、もとい念話を掛けて来てくださったようだ。それにしてもこんな感じなんですね念話って。こう内側からなんか暖かいものが沸き上がってくる感じ。アユティナ様と線が繋がっている感覚。うん、すごい。



【そうだよ、みんな大好きアユティナ様。数日ぶりだねティアラちゃん。旅は順調かなぁって思って、ちょっと顔見に来たら脅迫って……、ご両親泣くよ?】


「いやだってまともな人間は普通、子供が馬を売りに来たら止めるでしょう? 何か悪いことしてるか、それとも騙されてるかも、って。」


【いやまぁそうなんだけど……。】



さっきも言ったが、この世界における馬って存在は結構大きい。飼育にかなり手間がかかるし、その上騎士の象徴的なとこもある。解りやすく言えば高級車みたいな感じ? それを5歳の子供が『これかってください!』って言いに来たらそりゃ止めるし、警察(ここじゃ衛兵)に通報するでしょう、って話ですよ。そうなると色々ややこしいのでもう脅しちゃった方が早いかな、って。



「森でなんか捕まえたの売りに来た、って言っても『じゃあなんで親御さん一緒じゃないの?』って話になるでしょうし。これだけのためにわざわざ両親に来てもらうのも色々アレですし。……あ、そうだアユティナ様。この子の毛色とか変えれます?」


【出来るけど……、なんで?】


「いやさすがに足が付くかなぁ、と。騎士の持ち物でしょうし色々変えておいた方が売る側も買う側も安心かなぁ、って。」


【……わたしゃ自分の信者が真っ当な道を通ってくれるか、不安になって来たよ。じゃあ加護の前売りってことでやってあげる、ツケといてあげるから生活が安定したら何かしら捧げてね?】



流石アユティナ様! 解ってるぅ! あ、ちゃんと捧げものはダンジョンで手に入れたものとか、色々お渡ししますからね! アユティナ様のためならなんでも捧げますとも! ティアラちゃん、受けた恩は、わすれない。


神のため息の様なモノが脳に響き、それと同時に私の胸から白い光の様なものが浮かび上がってくる。ちょうど私が乗っている馬の目の前で弾けたそれは一瞬でお馬さんを包み込んでいき、その姿を変えてしまう。



「お、おおぉっと! 落ち着け落ち着けウマちゃんや。神様のお力だから怖くないって!」



突然のことに驚く彼こと馬。少し暴れてしまうが優しく撫で続けてやると次第に落ち着いてくる。あ、せや。新しい姿見たいでしょ? ちょっと待ってね『空間』から銅板取り出すから。ちょっとだけ磨いて鏡みたいにした奴があるのよ。ほら見てみ? 綺麗な白馬になってる。イケメンさんやなぁ……、モテモテになるんじゃない?


普通自分の見た目が変わればかなり驚きそうなものだが、この馬は違うようだ。かなり自分の姿が気に入ったらしく若干テンションが上がっているように見える。アレかな、一流スタイリストさんに整えてもらった後に鏡をのぞき込んだら『これが……、私!』って驚くやつ? だったら確かにテンション上がりそう。



【あ、そう言えばティアラちゃん?】


「はい、何ですかアユティナ様。というか今更ですけど、結構軽いノリで念話してくださるんですね。」



召喚陣でのお呼び出しみたいに血と魔力を使うわけでもないし、神が目の前に現れてくださるわけでもない。


そのせいか神がこれまでしてくださっていた、私への遠慮や申し訳なさみたいなのが消え、フレンドリーさがすごく増したような気がする。元々私に畏まった話し方をあまりしてほしくない、って言ってくださった方だけど……。アレかな? 信者から使徒にランクアップしたから?



【まぁそこら辺は性格だからねぇ。あのクソ女神どもは堅苦しいのが好きみたいだけど、私はそういうの嫌いだし。ティアラちゃんも楽にしてよね。友達と話すみたいな感じとか、とっても好ましい。敬語はボッシュート!】


「あ、あはは……。それはちょっと畏れ多すぎます。」


【そう? 残念。あ、それで本題なんだけど、この前実家に帰るって話したよね?】



これ、普通に驚いた話なのだがアユティナ様にも実家があり、御両親もいるという話を以前お聞きした。


最初はすごく『???』って感じだったのだが、『そりゃ人間に親がいるように、神にも親はいるよ。そりゃ確かに信仰が形になって神として発生するタイプもいるけどさ。』と言われた。なんでも付喪神みたいに自然発生するタイプと、人のように両親の間から生まれる神がいるそうな。


アユティナ様はその後者みたいで。久しぶりに自分の世界で信者が出来たって報告を、私が旅に出た後にしに行ったそうだ。前々から顔出せ、って言われていたみたいだし、ちょうどいい機会だからってことで里帰りしていたみたいですね。



【まぁそっちの方は滞りもなく無事に終わったんだけど、なんか私のお婆ちゃんがさぁ。……ティンパニって楽器持たせてくれてね?】


「ティンパニ。」


【あ、知ってる? なんかクソデカい太鼓みたいな奴。】


「……何故に?」


【いやなんか欲しくなったから注文したんだけど、桁間違えたせいでクソ余ってるんだって。私も3セットぐらい持たされた。】



……神の考える事ってよくわからんとです。とりあえずアユティナ様のお婆様はなんかすごいお方、ティアラちゃん、覚えた。



【それでさティアラちゃん、このティンパニ……。いる?】


「い、頂けるのなら喜んで頂くのですが……。あの、正直使い道が……。というかそもそも私、前世含めて触ったことすらないといいますか……。」


【だよねぇ。】



その後。まぁ何かの役に立つかもしれないということでワンセット、ティンパニを頂き“空間”に収納させていただきたのだが……。これほんとになんの役に立つんでしょう? 頂き物だし死蔵するわけにもいかんし……。と、とりあえず活用方法考えときますね?








 ◇◆◇◆◇








「すいやせーん、銅の買取お願いしやーす。」


「はいよー。……ってあれ? 嬢ちゃんが呼んだのかい?」


「そうですけど? あ、こっちに積み上げてる奴の買取です。」


「お、おう?」



鍛冶屋さんの裏手、ちょっと表の販売スペースの方で商品の物色をさせて貰った後。使い古した武器とか金属の買取はやってますか? と聞いたら裏口を案内された。なのでそっちにいる職人さんに現在お願いをしてるところです。


あ、今出したのは神様から頂いた銅板ね? 使わない武器とか全部銅板に変えてもらってたんだけど結構な数になってさ。使い道ないので売るんですよ。あ、ちゃんと許可貰ってますよ? 神から。


そんなわけで彼の死角に溜まってた銅板をドカンと出現させまして、『あれ? この量を嬢ちゃんが運んできたの? というか親御さんは?』みたいに、ハテナを浮かべまくっている職人さんを無視して買取をお願いする。かなり質のいい銅ですよ~、神が錬成為さったものですし。高値で買ってくれません?



「あ~、了解。けど一応全部調べさせてもらうから時間貰うぜ? 支払いは後でいいか?」


「りょうかいっす。じゃあ昼過ぎでいいっすか?」


「大丈夫だ。」



じゃあそんな感じで。


銅板を預けた後は馬ちゃんに乗りながら次の目的地へ向かう。あ、服装とかはちゃんと年齢相応のを着てるよ。例の頂いた狼鎧じゃない村で着てた普段着。あぁ安心して? ちゃんと昨日川で洗って乾かした奴だから。きれい。


……お? また神様からお電話来た。どうしたんでしょ? さっきの鍛冶屋ではちゃんとお取引しましたぜ? 脅迫してないよ? ティアラちゃん、嘘つかない。



【ティアラちゃんの目を通して今町の様子とか見てるんだけどさ。】


(はい。)


【ティアラちゃんの地元見た時も思ってたけど……、3000年前とあんまり文明レベル変わって無くない?】


(あ~。)



神にそういわれ、自身も少し周囲の様子を眺めてみる。


街並みの様子もゲーム内と変らず、簡単に言えば異世界中世ヨーロッパ系の街並み。現代の感覚に合わせるのなら……、地方都市よりちょっと下のレベル? 商店街はあるけど大型スーパーとかはない感じの町。発展してない訳ではないけど、特筆すべき点はないタイプの町。


まぁ付近のウチの村が思いっきり寒村だったし、町もまぁ似たような感じか、と言われればそうなんだけどさ。



(王国も帝国もこんな感じですよ。私の知識ゲームのですけど。さすがに首都レベルになるともうちょっと栄えてますけど……。というか3000年前もこんな感じだったんですか。)


【せやで。】



3000年と言えば結構な時間だ。普通なら何かしら変わっていてもよさそうなものだが……、実際そこら辺どうなんでしょうね?


文明が発展するってことは、成長にマンパワーを割けるくらいの余剰があるってこと。日々の生活の中で他に余力を割けるくらいに発展している前提で、人間は次の文明へと進むことが出来る。つまりこの理屈で考えると、この世界の人類は3000年間発展に力を割く余裕がなかった可能性、もしくはこの3000年の間に一度文明が崩壊するレベルの何か、が起こった可能性が考えられる。


これはゲームでの知識に私の予測を合わせた考えになるんだけど……、この大陸は3000年近い間ずっと戦争をし続けている。王国の女神と帝国の女神、この2柱の争いだ。設定資料集でも見たけど、かなりバチバチにやり合ってるみたいだから……、この戦争で定期的に文明がやばくなるレベルで殺し合ったのかな、って。


アユティナ様としてはどう思います? というかやっぱり3000年で全然発展してないとかヤバいですか?



【せやね~、というか3000年前よりもっと前。土の器作ってキャピキャピしてた頃から見守ってるのよ私。そのスピードを考えると明らかにおかしいんだよねぇ~。衣食住がある程度確保できるレベルまで発展できてるのに、ここから一切変化してないってもう明らかな“異常”だと思う。】


(やっぱりですか……。)


【ティアラちゃんが考えてた“文明崩壊レベルの戦争”ってのもない話ではないと思うけど……。やっぱりあのクソ女神どもが成長を制限してる感じじゃないかな。文明って進み過ぎると神への信仰が徐々に薄れていくし。……あ~、気分ワル。なんで『進化と成長』の神が作った世界でそんなことするかなぁ。】



心の中で『あいつら喧嘩売ってますよねぇ。』とアユティナ様とお話しながら、次の目的地。古着屋に到着する。正確な時間は解らないが、ここから迷宮都市まで数週間馬車の旅が続くようだ。その間の着替えとか、『空間』のカモフラージュ用の鞄とか欲しいからね。買っちゃおうって話だ。



「すいませーん、子供服ってどこですか?」


「……そっちの棚だよ。それでお嬢ちゃん、金はあるのかい。」


「もちろんですともオバサマ。先にお支払いしておきますわ!」



これはゲームの知識じゃなくて、この世界で手に入れた知識になるのだけど、この世界において服ってのは結構な高級品だ。そもそも布を作るための素材が高価で一般人では手に入れにくい。新品のお洋服なんてお貴族様だけのものだ。私みたいな寒村の出身だと村の誰かが着れなくなったお古をもらってきて作り直したりとかしてる。私が今着てる服もたしかお隣さんの娘さんが小さい時に来てた服だったと思うし……。



(と、と。お金渡さなきゃ。ポケットを“空間”に連結しましてぇ、っと。)



店主のおばさまに相場三着分ぴったりのお金が入った革袋を投げ渡すと、中身を確認した彼女はそのまま袋ごともっていってしまう。『三着好きに持って行きな。』とぶっきらぼうに言った後に店の奥に入って行ってしまった。あ、あの。その袋私のなんですけど……、返してくれなきゃ【オリンディクス】で脳天勝ち割るぞ♡



【ダメです。】


「ちぇ! はーい! 命拾いしたなオバサマ! ……じゃ、状態のいいのを持って行かせていただきましょうか。」


【というかティアラちゃんよ、私にお願いしてくれたらいくらでも出すけど? そんな古着なんかじゃなくて新品の奴。】


(いや新品の服とかお貴族様だけですよ、着てるの。流石に場違いすぎるので……。)



貴族として身分を偽る、なんて必要があるのならそうすればいいのかもしれないが、普通に過ごす分には厄介事にしか繋がらない。高価な服を着た子供が一人でうろついていたら即誘拐だ。まぁ私の場合誘拐した相手を即殺してしまうので、こっちが殺人犯。どっちみち厄介事にしか繋がらない。身分相応って奴なんですよ。



(……ん? 綺麗な服着ていけば馬を売る時もそこまで拗れないのでは? ほらお貴族様とか大富豪の娘ならまぁそれぐらいしてもおかしくないだろうし、もしおかしくてもワガママ娘のノリで通せばいける……?)



あ、あのアユティナ様? その、御加護の前借でお洋服頂いていいっすか? すごく綺麗な奴。




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