10:バイバイ平穏、増えてけ勘違い




(どぉぉぉぉしてぇぇええええええ!!!!!!!!!!!)



なんで! なんでどうして!


今日は原作イベントだなぁー、って思いながら草むらに潜んで若人の成長を眺める日だったじゃん! 同世代がこれからがんばろー! ってしているのを傍から眺めて後方師匠顔しながら頷く日だったじゃん! 逃げ延びた敗残兵たちを楽に狩れてレベリングと武器集めが出来る最高の日だったじゃんか!


なのになんでこんなにも追い込まれてるんですか! なんで最強のお爺ちゃんが追い込まれてるんですか! というかなんで武器持ってないの!? 死ぬんか? 死ぬんかお前! 別に本編始まった後じゃストーリーにはあんま関係ないからいつ死んでもらっても構わないけど今はダメでしょ! というかなんで原作と同じ動きしてくれないの!? 私か? 私が悪いんか!(その通り)


しかも明らかになんか敵の数増えてるし! 子供たち明らかに焦燥してるし! え、なに? これ私出ないと色々終わる奴? なんでよぉ!



(おおおおお、落ち着け? 素数を数えながら状況を整理するんだ。1、3,5……。)



それ素数やなくて奇数や! というツッコミは置いておくとして、真っ先に行うべきは現状の把握。


現在旧墓地内では戦闘が行われており、私はそれを近くの森から観察している状態、やろうと思えばすぐさま救援に迎える位置にはついている。


味方陣営はお爺ちゃん事リッテルと、主人公&ヒロイン、あといつもの男子三人組とマイベストフレンド、フアナ。全員が武器を持っておらず、お爺ちゃんが追い込まれているせいか子供たちの表情が非常に悪い、とくに悪いのがフアナで、私が助けるで被ってしまうデメリットがなければすぐに飛び出してしまいそうなほど。


魔力、正確にはMPだがアレの消費に伴い結構な精神力を食われてしまう。多分魔法を行使したんだろうけど……、それにしても顔色が悪すぎる。外傷はないみたいだけど、不安だ。


対して、敵陣営はなんか原作よりも装備の質が上がっている雑兵15名に、指揮官1名。私単身、アユティナ様に頂いた異能や装備を十二分に発揮できる場所であれば無傷で切り抜けることが出来る相手ではある。装備の質はいいと言っても、頭部や胸の中心部といった急所部位に、私の“射出”を受ければ大体即死してくれるはずだ。


死ななくともダメージは与えられるだろうし、【オリンディクス】で叩けば制圧は容易なはず。



(だけど……。)



今の装備無しで勝てる相手ではない。


つまりフアナたちを助けるには、アユティナ神の加護を使用しなければならない。つまり自身が異教徒であり、彼らにとって迫害対象であることを示さなければならないのだ。最初はうまく誤魔化すことが出来るかもしれないが……、いずれ確実にバレるだろう。


人間ってのは自身の理解の及ばない物に対しては迫害する生き物だろうし、私の持つ力なんて私自身よく原理がわかっていない。だってアユティナ様のものだし。まぁとにかく確実に迫害対象だ。


どう考えても帝国のクソ女神こと邪神からもらった力か、悪魔の力と断定されて迫害ルート一直線。もし『王国のクソ女神からもらったー!』と嘘をついたとしても、どっちみち教会勢力は動くだろう。ウチの村の司祭は本部に報告するだろうし、そいつらがクソ女神の力の判別方法を持っていればその瞬間オワオワリ。



(ウチの村はすごく閉じた村だ、外部から人はほとんどやってこないし、あの村の中ですべてが完結している。……異端者として断じられれば私だけでなく家族や、一番仲の良かったフアナですら迫害の対象になるかもしれない。)



かといってここで助けない選択肢もない。


主人公、もしくはヒロインがいなければ原作が確実に崩壊し、この大陸は滅びの運命をたどる。リッテルが死ねば主人公たちを鍛える存在がいなくなり、主人公たちの死亡率が高まる。フアナを失えば私はこの世界で初めてできた親友を失うことになる。絶対に、それは避けたい。……うん? 男子三人組? あ~、死んだら悲しいねくらい? うん。


となると、いかに助けるか、という方向にシフトすべき。自分や家族、そして親友にどれだけ迷惑を掛けずに奴らを排除できるか、っていう問題。



(リッテルお爺ちゃんも後ろの子供たちを守りながらだから動きが遅い、今はお爺ちゃんが回避し続けてくれてるから何とか保ってるけど、一撃でも食らえばそれが崩れてしまう。早急に決めないと。)



まずだが、ここから“射出”でスナイプ、ってのは危険すぎるから没だ。確かに殺傷能力は高いし、当たれば確実に殺せる。だけどそれ故に扱いが難しい。現在のストックは小石が2ダースほどで、銅の棒が5ダースほど。残弾は十二分にあるんだけど、外れたり跳ねた場合とんでもないことになってしまう。


確実に殺せる威力で射出された物体が何かのはずみで弾かれ、子供たちの方に向かえば? 即死は免れないだろう。


リッテルであれば耐えられるかもしれないが、当たりどころが悪ければ死ぬ。これはそう言うもんだ。私だって“狩り”で使用するときはそこら辺を注意して使ってるし、一度小石が跳ねて私の二の腕に直撃した時はマジで肝が冷えた。その時にはもう防具があったおかげで腕を持っていかれることはなかったが、普通に骨が折れてアユティナ様にガチで叱られてしまっている。



(使用するならば彼らが私の後ろにいる状態でのみ。)



となると彼らの目の前にでて戦うという選択肢が上がるが、これはこれで本末転倒だ。


自分の身と力をさらす行動に他ならないからね。ただ、彼らの目の前に立った後、適当なことを言ってそのまま村に帰らなければまだ何とかなるかもしれない。教会の偉い奴らが村に来て私のことを調べようとしても。本人がいない訳だし、村の住民たちに話を聞いても多分『普通のいい子』と答えてくれるだろう。問題が起きる前に雲隠れして有耶無耶にするって寸法だ。


ただこれをすると、フアナたちに出会えるのは原作開始以降になってしまうだろうし、主人公たちの動きを傍でサポートするのが結構難しくなってしまう。一つの選択肢をミスするだけで破滅のルートに進み始める『永遠のアルカディア』の世界においてこれほど怖いことはない。それに、リッテルの元で槍の技術を学ぶ予定も吹き飛んでしまう。



(ほかに、何か……。例えばこの装備に宿っているスキルを使用して……。)



何か全て丸く収まる方法があるはずだと思考を回す私だったが、世界はこれ以上待っていくれなかった。



「あ~ッ! ジジイ虐めるのにももう飽きたわ、全然当たらねぇしよぉ。おいお前らちょっと手伝えよ、子供を人質に取れば避けるもんも避けられねぇだろうよ。あ~、もちろんわかってますぜ雇い主さんよ、ピンク髪のガキには傷一つ付けねぇ。」


「ッ! 貴様らやはり!」


「お? やっぱそのガキはなんかあるんだな。けどまぁ俺らは金さえもらえればそれでいい。さっさと仕事しちまおうぜぇ!」



敵の魔の手が、動き始める。


私の体は、自然と動き始めていた。









 ◇◆◇◆◇









おそらく、一番弱そうな奴から手を出そうとしたのだろう。


少し勝気な目元をしながらも、一番顔色が悪くて、しかも女の子。少女と言うにはまだ若く、幼女と言うには少し成長しすぎている子。人質として使用するには反抗される危険性が一番少なく、心理的にも選びやすい物だった。


だが、それがティアラの逆鱗に触れる。


この世界唯一の友人にして親友と呼べる存在である彼女を、真っ先に狙うその行為は彼女にとって許しがたい行為であり、気が付けばその体が自然と動いていた。弾かれたように飛び出した彼女は、“空間”を経由して足元に銅板を発生させ、それに飛び乗る。


落下し続けていた銅板は、取り出す方向を変えることで歩行よりも何倍も速い移動手段に。


一瞬のうちに距離を詰めた彼女は、無意識のうちに取り出していたオリンディクスを振り落としていた。




「死ネ。」




圧倒的重量によって脳天から振り落とされたソレは、雑兵を縦に抉り取っていく。怒りと共に外部へと漏れ出た魔力を、槍が拾う。持ち主の強い殺意に応えるために自動的に発動されたスキルは、本来彼女が出せる力量をはるかに超えた威力を叩きだしていた。


フアナの体に掛かっていた影は中央からまっすぐに抉り取られ、力を失ったそれが開かれるように倒れていく。彼女の目には、酷く研ぎ澄まされた親友の青い瞳が映っていた。
















(や、やらかした―ッ!!!)



ガッチガチのアユティナ様コーデで人前出ちゃった上に、よりにもよってフアナの目の前でなぁんでこんなグロテスクな殺し方しちゃったの私ィー!


怒りの発散方法にしてはもっと他に方法があるでしょうが! あ~、もうどうしよ! どうしたらいいの! 教えてアユティナ様! え、どうにもならんから1人で頑張れって? もしくは全員私の信者になって貰えばいいんじゃない?(言ってない) 確かに!



(えぇい! もうこうなったら適当にセリフ回しながら有耶無耶にして全員ぶち殺すしかねぇ! 敵・即・殺! 汚物は発破解体よぉ~!)



出来るだけ子供たち、幼馴染たちに顔を合わせないようにしながら次の行動に移る。まずは子供たちに襲い掛かろうとした痴れ者の排除。急に現れた狼の被り物をした少女が人を真っ二つにしたことで、敵に広がった動揺。これを十全に活かし、その隙を突く。


味方を背にしながら敵の腹部に手を当て、“空間”を直結させる。


取り出したるは赤熱するまで加速させた小石たち。“道”が繋がった瞬間敵の腹部は激しい音を出しながら破裂し、その大半が吹き飛んでしまう。これで撃破数2。そのまま止まらず槍の石突を地面に当てながら空中へと飛び立ち、一人目と同じように頭から叩き潰す。初撃はおそらく無意識のうちにスキルを使用してしまったせいか色々と酷かったが、二回目は手加減して殺すことが出来た。……まぁ頭部が消し飛んじゃってるんですけど。



「ぅ、ぅわァァァあああああ!!!」



ここでようやく状況を把握した敵が動き始める。だが、明らかに恐慌状態だ。ま、味方が急に現れた意味不明なものに爆発四散☆されたら誰でもビビるよね。ということでそこは私の射程圏内。“空間”から銅の棒を射出し、キルスコアを増やしておく。やっぱあのクソ狼がヤバかっただけで、綺麗に吹き飛んでくれるよねぇ。



「ここは我らが守護する地。神がそう定め、教えを説き、我らが育んできた土地です。故にここでは一切の悪事は許さず、全ての愚行は神の慈悲によって裁かれます。」


「な、何を……。」


「本来ならば貴方も許されたのでしょう、どんな悪行を重ねようとも、どれほどの愚行を続けようとも、神からすればそのすべてが児戯。愛すべき子供たちの“お遊び”としてお許しを与えてくださったでしょう。そこに確かな信仰心と、愛が有れば。……しかしながら、貴方方はその道から外れてしまわれた。」



何を言ってるかだって? 私も解らん!


戦闘面では頭がすっきりしてるから確実にミスらんという確信はあるけど、そっちに頭の容量を回し過ぎたせいで自分が何を口走っているのさえ不明! オデは ナニを じゃべってる!? と、とにかくなんかみんなビビってるみたいだしこのままセリフを回せー! 【オリンディクス】ちゃん! 私の魔力全部あげるから全力で回転開始ィ! オーラでさらにビビらせるのら!



「故に、裁きを与えましょう。何の救いもない地獄にしか行き場のない可哀そうな魂です。神の僕として、より早く送って差し上げるのが情けであり、神もそう望んでいらっしゃる。我が魂は神のために、我が槍はその敵を貫き、その元に返すために……。【オリンディクス】、ともに参りましょう。」



私の魔力、MPを動力とし、オリンディクスは脈動を開始する。別に攻撃力とかが変わるわけではない、スキルの使用もHP消費タイプだから違う。だた滅茶苦茶ヤバそうなオーラと、触ったら解けてしまいそうになるほど槍が赤熱して、刃の根元の豪打専用機構がうるさいほどに回転し始めるだけ。



「粛清を、始めましょう。」


「ひ、ひぃぃっ!!!」



完全にビビってしまった盗賊たち、まぁ色々終わってる人間でも神への信仰心はあるのだろう。


明らかに人間の力ではない物を行使する奴が、『神様うんぬんかんぬん』とか言い出したら怖いだろうし、変な説得感もある……、のかな? まぁ実際私が言う神様はこの国で崇められているクソ女神じゃなくて、アユティナ様だし! 間違ってはいないよね!


……というか適当にセリフ回したのに結構いい感じじゃない? アハー! ……これが親友を初め幼馴染やそのお爺ちゃんに視られてなければ恥ずかしさもなかったんでしょうけどね。


ま、いいや。とりあえず全員殺しましょー! っと、敵の指揮官君は馬に乗ってるし、その対処もしとかないと。



「『ソウルウルフ』。」



頭に乗っている狼の頭部に少しふれ、スキルを発動させる。どこからともなく狼の遠吠えが聞こえたかと思えば、虚空に四つの青白い魂が浮き上がり、すぐにその形を半透明の狼に変えていく。サイズ的にはちょうど私が殺したクソ狼の手下ぐらい。ま、普通サイズだね。私の意志に合わせて動くこの子たちは、すぐさま敵指揮官の乗る馬へと向かい、この場から逃げ出さないように牽制を始める。



(長時間形を保てるわけではないけれど、逃げ出さないようにしてくれれば十分。)



創作か史実かどうかよくわからないが、なんでも戦場で一番楽しい仕事と言えば『ランドセル撃ち』らしい。ランドセルとは背嚢のことで、まぁ逃げ惑う敵を撃ち殺すのが一番楽しい、と。


確かにこんな無防備な背中を見せてくれて、打ち放題となればとても楽しいのかもしれないねぇ、なんて。そんなことを想いながら、神から頂いた銅の棒を順次装填し、はじき出していく。淡々と吐き出されるそれは確実に対象の体を破壊し、この何もない旧墓地に本来の役目を与えていく。



「ひ、ヒィ! 早く、早く逃げるんだよ! ッ、がッ!」



そして、最後のひとり。


魂だけの存在と言えど、群れで動く肉食獣に飼いならされた家畜が叶うはずもない。完全に暴走した馬に乗っていた彼はバランスを崩し、地面に転がり落ちる。あぁ、狼ちゃんたち? 別にお馬さんにひどいことしたいわけじゃないからにがしていいよ、うん。あぁただ後で捕まえに行くかもしれんから匂いだけ覚えて置いて。……OK? なら一旦お仕事はおしまい、帰っていいよ。


脳内で狼たちと会話を交わし、逃げ出した馬を横目に彼らを帰還させる。さて、残りはこいつだけか。



「た、たすけ「黙れ。」」


「そう、お前に口を開く権利も、泣き喚く権利もない。あるのはただ死を待つのみ。」



オリンディクスを高く掲げ、振り落とす。



「あぎぃ」



……これにて、お仕事終了。そして私のノンビリ田舎の村生活もおしまい、か。











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