第20話 襲撃
「分かりました。ですが、どうにもならなければ相談下さい。こちらは暴力のプロですから」
冷たい視線だなと直樹は思う。もしどうにも若菜が言うことをきかなければ、自分たちが出張ってでも若菜に言うことをきかせると片山は言っているのだろう。
だが片山がここまで言うということは、状況は自分が考えている以上に切迫しているということなのだろうか。
いずれにしても全ては若菜が金を返すことを了承することが先決だった。若菜が口にしたように彼女が盗んだ金の全部を株券に変えているというのが真実なのかは分からない。しかしそれならそれで多少の増減はあるかもしれないが、それを現金化すればいいだけの話なのだ。
盗んだ金が現金という形で残っていなくても大した問題ではない。直樹はそう思うのだった。
片山と別れた後、食事に行きたい。飲みに行きたいと言う若菜に付き合っていたら、時間は既に二十三時を回っていた。キャバ嬢だっただけのことはあるのか、結構な量のアルコールを入れたはずなのだったが、若菜に大きな変化は見られなかった。少しだけ饒舌に、そして陽気になったと感じるぐらいだろうか。
今、若菜は鼻歌混じりで直樹の腕に自分の腕を絡ませていた。ここからJRに乗って渋谷を経由して自宅に帰るのは少し面倒に感じたが、そうそうタクシーを使って散財できる身分でもない。
散財と言えば次の仕事も考えなければいけない。そもそも今の会社も正式には辞めておらず、直樹の現状は無断欠勤の状態だった。
今の会社を辞めること。そして職探し。若菜のこともそうなのだが、気が重くなるようなことが多いようだった。
いや若菜のことは違うのかと直樹は思う。出会いは確かに巻き込まれた格好だった。しかし、それ以降は自分の意思でいつでも若菜を切り捨てることができたはずだった。
それを自分の感情が許さないという理由で、流されるままに一緒にいたのは間違いなく直樹の意思だった。そこまで考えて直樹が軽く溜息をつこうとした時だった。
新宿通り沿いをJRの駅に向かって歩いていた直樹たちの前方で黒色のヴェルファイアが止まった。それを横目に見た直樹は一瞬、嫌な予感にとらわれる。
しかし、ほぼ同時にまさかとばかりに嫌な予感を直樹は否定した。時刻は二十三時を回っているとはいえ行き交う人々は多い。そのような中で何らかの騒動を起こすとは考え難かった。
酔っているのだろうか。そんな行き交う人々の中から時折、嬌声が上がっている。そのような騒音の中でヴェルファイアのスライドドアが開く。
中から三人の若い男たちが飛び出してきた。三人ともまだ二十代前半に見える。彼らは柵を越えると直樹たちに体を向けた。彼らの視線は違うことなく直樹と若菜を捉えているように思える。
彼らの手には金属バットが握られていた。その異様な光景に行き交う人たちの幾人かが気がついて、周囲が更に騒がしくなる。瞬間的に背後を振り返った直樹だったが、その視界には背後からも同じように金属バットを持った四人の若い男たちが近づいてくる姿があった。
金属バットを既に振りましている者もいて周囲からは悲鳴のような声も上がっている。
金属バット……残念ながらこれから皆で仲良く野球をしようといった雰囲気ではなかった。
確かニュースか何かで聞いたことがあった。蒲田・川崎
こんなに人通りが多い街中で大胆だと思わないでもない。だがそうせざるを得ないぐらいに、彼らが七代目
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