現代神話
「よく来たね。ずいぶんと早かったじゃないか」
意識を取り戻すと私達は花畑の上で眠っていたらしく、起き上がり、マーちゃんこと辻聖子に挨拶をする。
「久しぶり、マーちゃん」
「ああ、久しぶりイブキ。それに初めまして神々よ。私は辻聖子。賢者たる天使だ」
二人はマーちゃんの独特な雰囲気に圧倒されて緊張している。
それを察したマーちゃんはニコリと笑い。
「なに、神と言えどもまだ子供。肉体は大きくなれど精神は未熟か···それに次なる神も宿っているようで」
どうやらマーちゃんは長門に子供が宿っていることに気がついたらしい。
「やれやれ、近親相姦というやつか、現代ではさぞ非難されるだろう···まぁ現代神話が起きているのだから、それくらいで済んで良かったなイブキ」
「マーちゃんも理解を示すの?」
「イブキ、彼らは人とは違う。人の法に神が従うか? ···まぁ現代では神といえども社会に合わせなければ白い目で見られるが···それを打ち消す力が宿っているからね」
「大和の縁の力と長門のダンジョンを創る力?」
「それもある。が、神は才能が人とは違う。人の上澄みが英雄と言われるが、英雄でも倒せないのが神だ。鍛えれば海や天を割ったりすることもできるようになるだろうねぇ」
恐ろしい事を言い始めたがマーちゃんはまずはしっかり自分の口で自己紹介をして欲しいらしい。
「改めて、二人のお名前は?」
「ご、後藤大和」
「後藤長門」
「···胎児の頃を含めれば十一年···ずいぶんと時間が経過したものだね。イブキも少し老けたか?」
「そうだね···苦労が多かったからかな?」
「その割には楽しそうに前は話していたじゃないか···まあいい。大和君、長門ちゃんにはこれから私の弟子となってもらう。私の知識をイブキを含め、全て継承してもらいたい」
「マーちゃん、私らとりあえず二年間こちらに居る予定だけど」
「イブキは才能に限界がある。教えられても一年で終わる。お前はクランの運営とかもあるのだから早く帰れ。この子達は三年間鍛える」
「三年かぁ···大和、長門今回は拒否権は無いよ。これは罰でもあるからね」
「「はい···」」
「私との修行が罰とは贅沢だな。世が世なら泣いて懇願するような事なのだぞ」
「生前含めて無名だったマーちゃんが?」
「それを言われると痛いな。···まぁいい、修行に早速入ろう」
マーちゃんが魂になっても生きる意味は知識の継承と、真理への探究だろう。
マーちゃんが死んでからもう二十年の年月が経過している。
私が魔法理論を公開し、魔法の研究速度を早めてなお、マーちゃんの知識に世界が追いついていない。
世界が遅いのか、マーちゃんの研究速度が早すぎるのかはわからないが···
「まずは神話の話をしようと思う。イブキ、イブキの所は特定の宗教に入っていたりするか?」
「いや、特には」
「まぁだろうな。では私の仮説を踏まえた現代神話を話そう」
まず神は居る。
それはダンジョンが出現したことで確定した事実である。
科学では解明することのできないダンジョン···様々な学者がダンジョンや魔法を科学の枠組みに入れようとし、ことごとく失敗してきた。
不可思議、そう、不可思議だ。
マーちゃんの仮説では神は人に試練を与えた。
それがダンジョン。
そして神の意思を伝えるのが天使の役目であり、一定水準を満たした天使は伝道師に選ばれる。
現世に居る伝道師···それがマーちゃんこと辻聖子である。
ただ救世主ではない。
世界は終わりに向かっているわけではないからだ。
天使になり、研鑽を積み、神に認められ声を授けられたマーちゃんは魂になれど、次なる神に教えを授ける役目がある。
私こと後藤伊吹の役割は神の母胎。
いわばあのマジックアイテムは神の導きであり、私は神の母胎に選ばれ、新たな神を身体に宿した。
新たな神に教えを授ける伝道師であるマーちゃんと出会うのは運命で決められた事であり、事実、私は彼女から教えを受けた。
そして二神が産まれた。
新たな神の大和、古き神の長門である。
何故大和が新しい神で長門が古き神か···人と契りを結び、神を増やす役目が与えられている。
神の祖となるべき存在が大和である。
一方長門はダンジョンを産み出した今の世の理を創った神が受肉した姿だと言われた。
新たな神と古き神が交わることで真なる主神が産まれる。
長門に宿るのは真なる主神だとマーちゃんは言う。
そして父たる大和は多くの神を産み出し、次の世に備えるとされていた。
「次の世?」
「神は人にダンジョンという試練と恵みを与え、人同士での争いの連鎖を断ち切った。恵みにより多くの国では人が増え、地上を更に覆うことになるだろう。人は外(宇宙)に出るか内(ダンジョン)に籠もる暮らしを選び、その選択が人の未来を決めるであろう」
マーちゃんは仮説及び神から聞いた声の話を合わせて話してくれた。
では天使の役割は? と聞くと神を受け入れる環境を作ることと言う。
神の姿は天使と酷似しており、大和と長門も見た目は天使と同じである。
天使病ということで世間では混血より風当たりも弱く、普通の人と同じ、国によっては優遇されて暮らすことができる。
それは多くの天使がダンジョンができてから六十年かけて世論を動かし続けた結果である。
そして一部の天使は神から認められてマーちゃんや私のように役割を与えられるのだとか。
では悪魔病の人達はどうなのかとマーちゃんに聞くと、天使病の対を作ることで神の計画が狂った時の予備として機能する予定であったのだとか。
また天使と悪魔を作ることで一部地域では天使の地位を上げることにも繋がり、結果メインの計画が円滑に進むように仕組んでいたとマーちゃんは予想していた。
「現代神話は始まったばかり。わかったかい?」
大和と長門にマーちゃんが聞くと、二人は自身が神であると私から言われていたのがピンと来ていなかったのだが、マーちゃんの話で自身が与えられた役割と、それを無意識のうちに実行してきた運命による意識を超えた神の干渉に恐怖を覚えたらしい。
「神の導きは結局のところ払いのけるのは無理だ。大和は多くの女と交わり子供を作る運命があり、長門は真なる主神を育て、人類を増やすようなダンジョンを多く作る。それは神が決めたる運命」
「と、ここまで現代神話と少し脅すような事を言ったが、決められた運命はあれどそれ以外は自由だ。どんな娘が好きだからこの子と子供を作ろう、この子は嫌いだか嫌だということや、こんなダンジョンがあれば良いな〜、ダンジョンのモンスターをこういうものにしたいみたいな結局役目さえ果たせば自由ということ」
「悪いばかりの話ではないよ」
とマーちゃんは言う。
ただ結局大和はヤリチンになる運命と長門が子供(真なる主神)を産み育てるのは決まっているらしい。
「私が二人に教えるのはいかに神としての役割をこなしつつ、人間に益になる事をできるか···そういうのを教えよう」
こうして大和、長門、おまけの私の修行が始まるのだった。
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