収入が増えても出費も増えれば貧乏のまま

 ダンジョン【シグナル】ことおっちゃんのダンジョンに潜っている最中の私はスライム狩りに勤しんでいた。


 現在小さな地底湖のある部屋に到着し、スライムが地底湖からふよふよクラゲみたいに浮かび上がり、地面に登ってきた所をライトアローで倒していた。


 いつもならこの部屋は安定してスライムを倒せるため、先客がいたりして、十分で交代する暗黙のルールがあるが、今日は誰もいないので独り占めである。


 もうリュックにスライムの液体が入らないので魔石だけ回収しているが、魔石もポーチがパンパンになっていた。


 魔法が使えるからこれだけ狩れるが、ナイフだとスライムが抵抗してくるのでこんなに簡単にはいかない。


 スマホで時間を確認すると入ってから二時間半が経過していた。


「戻るのに二十分に精算にこの量だと十分位かかるだろうから今日はこれぐらいで切り上げるか。いや~ボーナスタイムだったわ〜」


 膨らんだポーチをポンポンと叩きながら今日の収益を予想するとニヤニヤが止まらない。


「家に帰る前にスーパー寄って食材買わないとな。ちょっと奮発して美味しい物買おうかな」


 なーんて考えていると真っ赤なスライムが帰り道に現れた。


「変異種!」


 私を認知したのかゴボゴボと膨らみ始めた。


 私は咄嗟に浮かび上がって天井に張り付くと赤いスライムは私が居た所に火炎を吹き出していた。


「魔法を使うスライムか!」


 ライトアローを放つが、体をくねらせてスライムらしからぬ俊敏さで回避する。


「ちょこまかと!」


 ライトアローの射速では当たらない。


 かといって無策に近づけば火炎放射の餌食になる。


 私はリュックから水の入ったペットボトルを取り出し、全身に水をかける。


 ずぶ濡れになったがこれで服に引火するリスクを減らせた。


 スライムもこちらの出方を伺っているかのようにじっとしている。


 こちらの使える魔法は『ライトアロー』、『ヒール』、『ライト』の三つでライトは戦力外。


 使えそうな物は水入りペットボトルが残り二本。


 前までの私だったら逃げて様子を伺うだったが、今は違う。


 オークの時の様な慢心は無い。


 勝てる道筋を組み立てていく。


 私は走り出し、赤いスライムに距離を詰める。


 スライムは待ってましたとばかりに火炎放射をしてくるが、それを飛行することで回避する。


 避けた次の動作は水入りペットボトルをスライムに投げつけた。


 スライムはペットボトルを敵と認識したのか火炎放射をする。


 すると熱でペットボトルが溶けて勢いよく水がスライムに飛び散る。


 スライムは水を浴びた瞬間にブルブルと嫌がる動作をし、動きが止まった。


 私はその瞬間を見逃すことなくライトアローを数発放つ。


 バンバンバンとライトアローが三発命中すると赤いスライムはデロリと溶けて魔石が露出した。


 魔石は真っ赤に輝いており、綺麗だった。







「おっちゃんレッドスライムが湧いてたぞ」


「運が悪かったな。うちのダンジョンだとスライムの変異種なんて半年に一体だからな。いつもなら俺が通報受けて倒すんだが、その手間が省けた。助かる」


「ほい、これがそいつの魔石。ちなみに幾ら?」


「生憎所詮スライムだから一個千円買い取りだ」


「やっす!」


「相場知ってるくせに言うなよ。ほら他の換金物だせ」


「はいはい」


 私はリュックからスライムの液体入ったポリ袋とポーチの魔石を机に乗っけた。


 おっちゃんは慣れた手つきでの袋を体重計に乗っけて計測し、魔石の数を数える。


「ずいぶんと狩ったな。ホイ、三万八千六百円だ」


「サンキュー」


 財布にお金をしまい、また来るとおっちゃんに行って車を走らせて一回家に帰る。


 服がびちゃびちゃなので着替えてからスーパーに行きたい気分だ。


 家に帰り、服を確認するが、どれもこれも男物で思えばツナギ以外まともな服が無いことに気がつくと。


「胸がデカいから普通にシャツを着ると太って見えるな···寸胴体型っていうのか? 流石に嫌だな···配信の時もツナギで撮影していたけどマトモな服の方が見やすいよな」


 ということで食材だけでなく服も買いに、家から一時間程の場所にあるショッピングモールに向かった。










「男物しか無いとはいえ、やっぱり目立つな」


 ジーパンにTシャツスタイルだが、胸がデカ過ぎて服が押されてへそが見えてしまっている。


 天使の翼と輪っかも合わさって目立つこと目立つこと···男女問わずすれ違うたびに見られると羞恥心が湧いてくる。


 今までは気にしていなかっただけに、羞恥心に拍車がかかる。


 そそくさと服屋に入り、店員さんに体に合うコーデが無いか聞いてみると幾つか教えてくれた。


 こういう時に事情を共有できる女友達でも居れば良いのだが、生憎俺の周りには男ばかりであるため、そんな者はいない。


 なので店員さんに聞くしかないのだが、店員さんは懇切丁寧に教えてくれた。


 今五月なのでこれから暑くなることを考えると薄手で涼しげな方が合いますよとか、ベルトの色はこちらがいいですよとか、店員さんを三十分近く拘束してしまったが、オススメされた服を全て購入するので許して欲しい。


 キャミソールタイプのワンピースとシャツワンピースをそれぞれ白とか水色等の薄い色のを三着ずつ、中に着るシャツも胸に合う物にして寸胴体型に見えない様にした。


「お会計七万八千円になります」


「うっ···はい」


 必要経費必要経費と自己暗示することで平常心をを保つ。


 これに靴も揃えなければいけないことに気が付き、追加で四万円が飛んだ。


 悲しいかな···鹿牛のダンジョンで稼いだ金が全て飛んだ。


 今日はもやしとそぼろの丼かな~と悲しい顔をしながら軽くなった財布と相談して食材を買うのだった。


「あ、豆苗···幾つか買って育てるか···」


 稼げるようになっても出費が多ければ貧乏のままだと思うのであった···


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