【KAC20243】『魔法開発』魔法でパラダイス!

🔨大木 げん

第1話 BOX


「くっせぇ〜!!」

「なんじゃこらぁ」


 そこかしこから阿鼻叫喚あびきょうかんの悲鳴があがる。


 国立箱根魔法はこねまほう学園


 通称箱根魔法学園はまがく


 その高等部校舎から少し離れた、第1研究棟の1室が吐き気をもよおす匂いの元のようだ。


 1年生筆頭の水上 真凛みずかみ まりんは、幼馴染でもある、同じく1年生の新発田しばた あきらに、ハンカチで口元を覆いながら詰め寄った。

 

「ちょっと! あきら君!今度は何をしでかしたのよ!」


「え? 俺また何かやっちゃいました?」


「思いっきり悪臭をただよわせているじゃない!! 自分でわかってるでしょ!」


「いや〜、まさかこんな事になるとは・・・」


「この間の君が開発した、鑑定魔法を付与したメガネ型魔道具の実証実験の時にも問題を起こしたんだからね! いい加減にしないと変なあだ名だけじゃなくて、いじめられちゃうかもしれないんだからね!」


「あれは魔道具自体は大成功だったんだ。 つい調子に乗って会う人すべてに『フッ戦闘力たったの5か、ゴミめ』とか、つぶやいちゃったのがまずかった」


「当たり前でしょ!」


「おかげで、『ゴミ太』なんて呼ばれるようになってしまった。 新発田しばたは田んぼのなのに・・・」


「自業自得です。 で、今度はなんでこんなに臭いの?」

 

「おお! よくぞ聞いてくれました! 聞いてくれよ真凛まりん、俺はついに人類の夢だった『アイテムボックス』の開発に成功したんだ!」


「アイテムボックス? ゲームとかラノベでよく出てくるあのアイテムボックス?」


「そうだ! そのアイテムボックスだよ!」


「凄いじゃない! それが本当なら15才にして『ノーベル魔法学賞』の受賞は間違いないわ!」


「だからホントだってば!」


「アイテムボックスの開発なのになんでこんなに臭いのよ?」


「それはな・・・」



 ◇◇◇

 


 2019年


 日本近海の無人島に外宇宙より飛来した小隕石しょういんせきが落下した。


 その隕石いんせきは日本の研究機関に引き取られたが、研究開始以降、原因不明の熱病が発生し次々と感染者を増やしていった。


 後にその感染源となる未知のウイルス、通称エックスウイルスが発見された。

 

 子供が重症化することはめったに無いのだが、まれに高熱を出す者もおり、熱が引くと特徴ある変化をおこす者も出てきた。


 髪や目の色が変化し、いわゆる超能力のような特殊な力を発現したのだ。その幅広い能力の種類から、その現象は『魔法』とよばれ、それを操る者は『魔法使い』とよばれた。


 不思議なことに魔法使いとなる者は15才以上には現れなかったため、年齢の若さもあり、隔離し特別教育する事が国により急遽きゅうきょ決定された。



 2024年 1月


 日本トップクラスの発明家、新発田 開しばた かいの自宅兼研究所内、新発田家地下ラボシバラボにて。


「しっかし、あきら。 お前はぜんぜん魔法使いにならねえなぁ」


「うっせえぞ、くそ親父! そもそも風邪なんかひいたことないんだから魔法使いになれるわけねえだろ! いいんだよ、俺は父さんみたいな発明家になるんだから!」


「お隣の真凛まりんちゃんなんて、10才で能力を発現して『ファーストチルドレン』なんて呼ばれて世界一有名な女の子になったっていうのに」


「だからいいんだって! そもそも魔法使いになったら全寮制の箱根魔法学園はまがくにいかなきゃなんねえんだろ? それよりもここで父さんの仕事手伝いながら経験つんだほうがいいんだよ!」


「おまえももうすぐ15才になるしな、こりゃ魔法使いは無理か。 んっ!? おいそこ組み合わせ間違ってるぞ。 さっきからどうした? 今日はミスが多いな」


「あれ? ほんとだ。 悪いな父さん。 なんか今日は集中力が鈍いんだよな」


 かいあきらの額に手を当てる。


「おまえ・・・熱があるぞ、かなり高そうだ。今日はもういいから上に行って熱を計ってこい。そんで今日はもう寝ろ。母さんにちゃんと言えよ」


「わかったよ」


「馬鹿は風邪ひかないって言うしな、お前は馬鹿じゃなかったんだな」


「うるせぇ!」



 〜〜〜3日後〜〜〜


  

「すっかり熱もひいたなあきら


「熱が出るってけっこう辛いんだな、やっとわかったよ」


「お前は髪の色もそのままだし、やっぱり魔法使いにはなれなかったみたいだな」


「それがな、父さん。 なんか変なんだよ」


「心配するな、もとからだ」


「そうじゃねーよ! そうじゃなくてだな、何かこうイメージがわいてくるんだよ。 自分に何ができるかというか、自分の力の可能性というか・・・」


「なんだ、もうすぐ中学生は終わりだというのに、もう1年、中二をやり直すのか?」


「だから違うって! 真面目に聞いてくれよ!」


「わかったわかった、それって魔法使いの初期症状じゃないのか?」


「えっ!? そうなの?」


「そうらしいぞ、4年前はけっこうニュースでそう言ってたし、水上さんがそう言ってた。」


海人かいとおじさんが?」


「ああ、水上さんは『BOX』の長官だからな」


「あれ?海人かいとおじさんって箱根魔法学園はまがくの外部理事じゃなかったっけ?」


「そっちは兼務だ。本業はBOX庁長官だぞ。ああ見えてかなりのお偉いさんなんだぞ」


「『bionic』(生体工学)•『ordeal』(厳しい試練)•『Xvirus』(エックスウイルス)』でB•O•Xだっけ?」


「さすがにそれぐらいは知ってるか。 初期症状の話真凛まりんちゃんから聞いたことないのか?」


真凛まりんは魔法使いの話あまりしたがらなかったからな。 詳しく聞いたことがないよ。 4年前からは箱根魔法学園はまがくの初等部に転校しちゃったしな」


「そうか、まぁいい。 元気なら明日BOX庁に行って詳しく調べてもらうぞ。 本当に魔法使いになってたら今までの傾向から結構詳しく自分の系統を教えてもらえるらしいからな」



 〜〜〜翌日〜〜〜


 

 BOX庁能力鑑定課にて


 一通りの能力検査を終えたあきらかいのもとへ、女性職員が結果を告げにやって来た。

 

「おめでとうございます♪ 新発田 明しばた あきら様は能力が確認されたため、魔法使いとして登録されました」


「おおっ! 俺すげぇ!」


「やったなあきら!」


あきら様の能力の説明を致します。 まず系統は『無属性』。 能力は『魔法開発』だと思われます」  


「『魔法開発』? はっきりわからないんですか?」


「今回あきら様が初の能力となりますので、詳しい事はまだ判明できていません。」


「まぁ良いじゃないか、明。 能力は自分達でも色々と確かめてみれば。 それに『魔法開発』なんてお前向きじゃないか、地味だけどな」


「地味って言うな! でもそうだな。 ある意味、謎が残っている方が無限の可能性を感じる!」


「つきましては4月からは、国立箱根魔法学園はこねまほうがくえんの高等部へ入学していただきます。 全寮制となっておりまして、学費と寮費は国が負担致します。 そちらで存分に能力の扱い方や、魔法使いとしての一般常識を身につけていただきます」


「良かったな、常識を教えてくれるってよ」


「俺は常識人だっつーの!」


「最後になりますが、学園に入学する前の能力の使用は極力お控えください。 もし万が一使用して他者に損害を与えた場合は・・・」


「場合は?」


「全額自己負担となってしまいます」


「おおっ! こえーな!」



 新発田家地下ラボシバラボにて



「おい明。 良かったな、魔法使いになれて。 おめでとう」


「ありがとう父さん。 なれなくてもいいと思ってたけど、実際になれたらなれたで嬉しいな」


「それにしても『魔法開発』魔法か。 正直うらやましいぞ。 研究者にとったら一番良い魔法なんじゃないか? 夢が広がるな。 地味だけど」


「地味って言うな! どんな魔法が開発できるのか、俺も今から楽しみだ」


「BOXでもらってきた、学校案内のパンフレットとこの非売品の『魔法リスト』に載っていない魔法の開発から始めたらいいんじゃないか?」


「そうだな。 でもまずは、鑑定魔法から始めたいんだ。 相手の力がわかったほうが危険が減るだろ? 真凛まりんが言ってたんだけど、箱根魔法学園はまがくにはヤバい奴もいっぱいいるんだってよ」


「まぁ、それはお前が好きにすればいいさ。 その後はどうするんだ? 『魔法開発』の名前の響きからしたら何でも出来そうな気もするけど、便利な生産系を目指すのか? それとも最強系を目指すのか?」


「どっちもに決まってるだろ。 俺も男だ、最強の魔法の開発なんてロマンがひろがる!」


「ならここはやはり、時空間魔法じゃないか? 時魔法はまだ誰も能力発現してないみたいだぞ。 ディ○様みたいに時間を止めて『無駄無駄無駄〜!』って俺がやりたい!」


「完全に親父の趣味じゃねえか! でも良いな時空間魔法。 誰もいないなら開発しがいがある。 そうだな、鑑定魔法の次はロマンを求めて『アイテムボックス』の魔法でも開発してみるか」


  


 

 

 

 

 


 

 

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