魔戦車に乗るb 渋滞…… .
「むむむ?」
ズシシッ……
だが
「ぎゃああーーーやめてくれーーーー」
(おやあ、中から断末魔の叫び声が聞こえますね……)
車内では、もはやこれ以上圧迫を受ければ人体が入り込むスペースが無くなり、目も当てられない悲惨な状況になる……まさにその寸前であった。
―兵士はなるべく殺さないで―
砂緒の頭の中に突然雪乃フルエレの声が響いた。
「うっ戦闘中に邪念が……無視しましょうか、しかし今度フルエレに再会した時に殺したかどうかしつこく聞かれるでしょうか?」
彼はぴたっと重量増加を止めた。途端に冷静になって気付くと、もはや車両は前後への動きを止めていた。中ではギリギリのスペースで残り二名の乗員が息を潜めていた。
「この戦車はもはや死にました。次に移りましょうか」
そのままピョンっとひしゃげた砲塔から飛び降りると、両側に待機して魔砲で砂緒を狙う残りの魔戦車の片割れに走って行った。
「うわーーー!」
魔戦車隊隊長の悲惨な末路とひしゃげた砲塔を目撃していた両側の車両は、同じ様に恐慌状態になり後退したりジグザグ走行をしたりして、謎の少年砂緒を避けようとした。
「何だ? 何が起こっている??」
困惑しているのは鉄壁の魔戦車隊六両のずっと後ろから進撃していた、重い鎧をまとい長魔銃や長い槍を装備した歩兵隊だった。自分達の血路を開いてくれると期待していた魔戦車隊がおかしな動きを始め、後ろからの隊列が徐々に渋滞し始めるという異様な状況になりつつあった。
さらにその後ろには遠距離攻撃を続ける魔導士部隊が控えているのに、妙な渋滞の中いったい前進すれば良いのか後退すれば良いのか、ニナルティナ軍の中央主力部隊の士気はダダ下がり気味であった。
「よいしょっ」
ようやく二両目の魔戦車に取り付く事に成功した砂緒は、ビュンビュン魔法や矢が飛び交う中を、乗っかった彼を振り落とそうとジグザグに走り回る魔戦車砲塔上で腕を組み直立不動になって辺りを眺めた。
「むぅ」
シュパパパパパパ
周囲の魔戦車からの再び激し攻撃が、砂緒の頬を風の様に撫ぜて行く。
「仕方あるまいゴーレムとやらがいまいち良く分からぬが、このまま子泣きジジイ作戦で行くか!」
知識が多少老けてはいるが一応外見が少年の砂緒は、子泣きジジイと言うよりか傍から見ると自動お掃除ロボットの上にちょこんと乗っかる子猫の様でもあった。
シュタッ!
言ってすかさず砂緒は片手を着いてしゃがみ、超重量を掛け始めた。
ギシギシギシギシ……
ーリュフミュラン軍の陣砦。
「大変だっ信じられねえ事が起こってる!」
フルエレ含めその場に居た全員が声の主を見る。
「あー何だ何だ?」
衣図ライグは飛び込んで来た物見の男を急いで招き寄せた。
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