第13話

「・・・ふむ」


 俺は珈琲の香りを嗅ぎながら新聞紙を広げ、蓄音機から響くジャズに耳を傾けながら文字に視線を走らせる。


「マスター。今日の朝食は如何しましょう?」

「トーストを2枚とマーガリンが良いかな。トーストはキチンとトースターを使って焼いてくれ」

「畏まりました」


 アーティファクトのサラが一礼して去ると俺は蓄音機から流れるジャズに合わせて鼻歌を歌いつつ、サラが入れてくれた珈琲を飲む。

 目も覚める苦味とのど越し。やはり、朝の珈琲は美味だ。


 そんな事を考えているとデスクの黒電話が鳴り響き、俺はその受話器を取る。


「はい。此方、八織探偵事務所です」

『仕事だ、八織』

「へいへい。来る頃だと思いましたよっと」


 俺はニヤリと笑みを浮かべ、『魔界電力節電デー』とか『魔王様の復活祭!開かれる!』とか書かれた見出しの一角に撮影された鎧の戦士の載せられた写真と見出しに目を通す。


「いま、話題の新聞の人物──この方を連れて来れば良いんですよね?」

『そう言う事だ。勿論、丁重に扱う事を忘れるなよ?』

「はいよっと」


 俺は電話を切ると新聞紙をデスクに置いて、サラの持って来たトーストにマーガリンを塗りたくる。鼻歌混じりにトーストを口にする俺にサラは何か言いたそうだが、一枚目を食べ終わるまでは待ってくれるようだ。

 相変わらず、出来たパートナーだ。


「ん~・・・美味い」

「報告は聞いておりますが、急がなくて宜しいのですか?」

「急いだからって何か変わる訳でもないっしょ。それにトーストの一枚も食べてないといざって時に力が出ないからなっと」


 俺はそう言うと写真の人物を見ながら二枚目を頬張る。


「しっかし、まあ、流石にネコってのは偽名かなんかか?

 あの方の名前と言い、なんか共通性とかでもあるのかね?」


 ───


 ──


 ─


「ふぇっくしょん!」


 なんか誰かが噂しているのか、メカニカルファクターの筈の私から、くしゃみが出た。


 はて?いまのくしゃみはなんだったんだろう?


 ───


 ──


 ─


「それじゃあ、ちょっくら行ってくるわ。留守番を頼む」


 俺はバイクに跨がり、エンジンを噴かせ、此方に一礼するサラに敬礼して出発する。


 ───


 ──


 ─


「う~ん。風邪でも引いたかな?」


 そんな事はないとは知っているが、くしゃみした事が気になって、そんな事をぼやきながら街のギルドへと向かおうとすると妙に厳つい男達が私を待ち構えていた。


「・・・あの、何か?」

「最近、羽振りの良い生活している奴がいるって聞いたが、あんたで間違いないか?」

「羽振りの良い生活かは分かりませんが、ギルドで稼がせては頂いてますね」

「だったらよ・・・税金は納めているんだよな?」

「ぜ、税金?」


 ファンタジーでは聞き慣れない言葉に思わず、聞き返してしまった。

 次の瞬間、スミレちゃんの悲鳴が聞こえ、宿へ向かおうとして男達に阻まれる。


 私はそんな男達の頭上を跳躍して越え、スミレちゃんの元へと向かう。

 スミレちゃんの髪を掴んで強引に引っ張る男の姿を見て、普段は温厚な私も怒りでモノアイが熱くなりそうになる。


 私は無言でスミレちゃんに乱暴をする男を殴り飛ばしてスミレちゃんを抱き抱えながら、ターンしてスミレちゃんの事を見据える。

 スミレちゃんは一瞬、なにが起こったか解らなかったようだが、私の顔を見て、涙で顔をくしゃくしゃにしながら抱き着いてくる。


「うわ~ん!ネコちゃ~ん!」

「もう大丈夫・・・この人達は私がなんとかするから」


 私はスミレちゃんの背中を優しく叩きながら、赤く輝くモノアイで男達に顔を上げる。


「そちらにも理由があるのでしょう──とは言え、スミレちゃんみたいな子に手を上げたのは流石に頂けませんね」


 私はそう言うとスミレちゃんをそっと後ろに隠し、クレイモアで地を払って線を描いてからザクッと地面にクレイモアを突き刺す。


「その線を越えた瞬間、敵対行為と見なします。よく考えてから行動する事をオススメしますよ」


 私がそう忠告したのも無視して踏み越えて来た男の存在があったので私はその腕を切り落とす。


「言葉が理解出来なかったですか?──いま、私は大変に怒っています。単なる脅しだと思っているのなら、これで本気だと理解して頂けたでしょうか?」


 その言葉でようやく男達が怯む。


「税金制度があったのが知らなかったのは此方の不手際かも知れませんが、その為にスミレちゃんにも手を上げると言うのなら私も容赦しませんよ?」


 とても静かな怒りを込めながら私は彼等にそう告げると改めて彼等の出方を窺う。

 税金の為に強硬手段に出る輩には流石にロクなのがいないのだろう。そうなってしまうまで、この街に長居し過ぎてしまったのかも知れない。

 私はジッと動かず、拮抗状態の体勢で彼等の出方を待つ。


 早朝から宿屋周辺がこの騒ぎでひっきりなしだったのは言うまでもない。

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