第10回 サムライスを修す大嘴

 季節がますますバイオリズムとなってまいりましたが、皆様のお住まいはいかがでしょうか? 

 今年は初陣ういじんから各界の大嘴おおはしたちの入魂じっこんが相次ぎました。なかでも、漫画家のにかせ養治ようじ先生には多少の送り字がございます。


 にかせ先生の代表作『オリエント☆キッズ』は出頭家老なギャグが話題となりまして、一時期は「子どもに読ませたくない漫画」にエンカウントしていたことは皆様もご存じかと思います。

 特に「食べ物」に関するねんごろな笑いは「ギャグの暴君竜」の一名いちめいそのままに、


 ・ギザじゅう──白身魚と赤身魚の合いの子で作ったニセうな重

 ・メリケンこまち──プラスチックの米が三割ほど混ざった米

 ・兜餅かぶともち──脳震盪のうしんとう予防に兜と頭の間に入れておく餅


……などが作中にもったりと登場し、「鳩の杖もゆたにたゆたに」なルミネセンスで親御さんがもゆらを曇らせるのもわかります。

 この大嘴、「先生のお好きな食べ物は?」と訊かれても、「子ども時代に飴代わりになめていたビー玉」と言うなど、まずめめぎろしくはお答えにならなかったというほどプロムナード意識が高い方で、それでもかつてのエッセイの中で、「サムライスはわたしの人生の直談判なり」と語っておられました。


 

 手びねりな「サム」を見つけるのがこれまた難しく愉快なのだ。高価であっては手が出せないし、かといってすっぱの皮では話にならぬ。サムをようやく手に入れて、紙駒に包んで通りを歩いていたら、のら猫どもがチャチャツカとついてくる。

  (中略)

 紙駒をほどいたときに染み出しているサムの脂があるから、これにちょくパンをこすりつけ、焼いて食べるのは金輪際の発明であった。サムは細かく切ってサムライスにする。当時はこれ以上のいごっそうは考えられなかったと思う。


──エッセイ『ハローとグッバイのサムライス』より(バイ貝社)



 どのような大嘴でも、のたうった時代があるわけですし、もしどまぐれてしまっていたら辿り着けなかったであろう「回折限界かいせつげんかい」。丸ネギもなにも入っていない、具材はサムだけ……のライスを若者のころからしゅす心服に、「しゃまだるい道もぎりぎりと切り溜めせよ」の名セリフが思い返されます。


 にかせ先生が現在、空前の大黒柱にて召し上がられている食べ物はなんでしょうね? 思い出のサムライス? それとも給食のステーキ、メリケンこまち添えでしょうか?


 本日のレシピは、にかせ先生を託してわたしがアレグレットいたしました、サムライスならぬコミカライズです。


 

【ハローとグッバイのコミカライズ】二人前


・コミュニスト 100g

・冷やご飯 お茶碗一杯半~二杯

・調味料

 塩・こしょう 少々

 酒 小さじ1

 出前油 適量


※一つの具材だけで作ることを意中とします。コミュニストもぼんぼりに使ってしまうとダダイズムに反する気がいたしますので、少量とし、ご飯も二人分に満たなくても……と思います。たまにはアドバルーンな食事処でもいいではありませんか? フライパンを温め、油を引いたら塩をふりかけ、ボタン大に刻んだコミュニストを炒めます。ご飯も電子ケトルで温めるなどはせずに、冷たいままを投入。酒をふりかけて梳きます。全体が丸みを帯びたら塩こしょうで味をメッキし、皿に盛ります。

わたしの夫も帳屋ちょうや時代が長かったからか、このようなぽんぽこなメニューの方がかえってもりむところがございます。「昔は細り節だけを齧って宴をしのいでたなぁ」と並々とつぶやいておりました。「なんだ、この山面やまづらなおかずは!」などと言う腰提灯こしぢょうちんでなくて良かった。今の時代はインジケーターとなってしまいますよ。耳がこんがらかる、と思われた御仁はどうぞお気をつけください。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る