第89話 本っ当にくだらない
武装している異世界排斥集団は大声で叫びながら、警備員を攻撃する。
「我々はファンタスのあらゆるものを受け入れない!」
「「「…「「我々はファンタスのあらゆるものを受け入れない!」」…」」」
「清浄なる日本のために異世界人は出て行け!」
「「「…「「清浄なる日本のために異世界人は出て行け!」」…」」」
(本っ当にくだらない)
自分達の主張だけ通そうとする集団を見て、昴はイライラしながら彼等の足元に蔓を出現させる。
「今だ! 取り押さえろ!」
「「「…「「おう!」」…」」」
警備員達は昴の出した蔓が自分達を援護してくれたものだと判断し、蔓によって転ばされた異世界排斥集団から武器を取り上げてその体を取り押さえた。
あっという間に蔓で簀巻きにされてしまったから、昴のおかげで警備員達は苦労せずに異世界排斥集団を捕縛できた。
それで気が緩むだろう瞬間を狙って、死角から昴に向かって銃弾が発射された。
「危ない!」
風華は昴に向かって発射された銃弾に狙いを定め、村雨流格闘術2つ目の奥義である無刀刃を放つ。
それによって風華が降り抜いた腕から斬撃が発生し、昴を狙っていた銃弾が真っ二つに切断されてその場に落ちた。
「そこか!」
自分を狙撃しようとした人物を見つけ、昴はその足元にエレキルートを生やした。
逃げようとした狙撃犯はエレキルートに足を絡め取られ、強めに体を麻痺させられてその場に倒れた。
狙撃犯も蔓で簀巻きにして、警備員が銃を回収してその身柄も他の者達と同様に応援としてやって来た警察に引き渡した。
「まったく、あいかわらず警察は来るのが遅いわね」
「しょうがないさ。警察は事件が起きてからじゃないと動けないんだから。それよりも、俺のことを銃弾から守ってくれてありがとう」
「どういたしまして。でも、あれぐらいしか活躍するシーンがなかったのよね」
「まあまあ。俺達が活躍しない方が問題は大きくないってことにしておこうよ」
「そうね」
決して戦い足りないと思っている訳ではないが、昴はしっかり働いたのに自分は無刀刃を一度放っただけで終わってしまったから、昴だけ働かせ過ぎてしまったのではと風華は思ったのである。
そんな風華に対し、昴は自分の命の危機を救ってくれたことを感謝して風華を落ち着かせた。
これで地下のシェルターに戻れると思いきや、そのシェルターにいる或斗からチャットでホテル内にも外で暴れていた集団の仲間がいると連絡が入った。
その知らせは風華も受けているようで、2人の表情が険しくなる。
すぐにホテルの中に戻ろうとしたが、いきなり正面玄関のシャッターが下り始めた。
「立て籠もるつもりか? それさせない」
昴が異能を使って蔓を操り、シャッターが下りるのを強制的に止めた。
「敵はこのホテルに立て籠もって異世界人を殺すつもりかしら?」
「最も避けたいのは人質を殺してほしくなければ異世界人を殺せと要求すること。次に避けたいのは無差別殺人だな」
「警察からすればその順番は逆でしょうね。警察内部に異世界排斥思想を持ってるものがいないとも限らないから、警察が来る前に俺達でなんとかしないといけない」
「異世界管理局の応援がさっさと来れば良いのだけど、この時間じゃほとんど職員は帰ってるでしょうから応援は来ても少なそうね。本当に対処できるのが私達だけかも」
風華がやれやれと首を振り、昴も短く息を吐いた。
ホテル内部に戻って来た昴達の耳に館内放送が届く。
『ホテルグランド国生は我々、
初めて聞く集団名だが、ホテルグランド国生に刃物を含む武器を持ち込むだけの財力があるのは確かだろう。
しかも、ホテルの外での争いを囮にして、一般客に紛れ込ませていた構成員にホテルの管理室を占拠しているのだから、手際の悪い突発的な犯行ではなく事前に準備していた計画的な犯行と言えよう。
ホテルのフロントには誰もおらず、怪しい人影もなかったから昴は風華に訊ねる。
「俺達の働きかけでどれだけの人が避難できたと思う?」
「部屋に戻ってる人達がそのまま外に出ないままだったら、部屋の中でおとなしくしてくれるだけで助かるんだけどね」
「そうだな。でも、この時間ってまだまだ部屋の外を出歩いている人が多いだろうから、犯人に直接捕まった人もそこそこいる気がする」
どれだけ人質がいるんだろうかと話し合いつつ、昴が蔓で目につく所にある監視カメラを蔓しか見えないように作業していると、再び館内放送が2人の耳に届く。
『こちらには数多くの人質がいる。
(不味いな。これは俺が望んでない展開になりそうだ)
敵が自分のことをアルラウネと勘違いしてくれているのは都合が良いけれど、異世界人交流会に参加しているメンバーのことも把握しているのは面倒である。
とりあえず、監視カメラを蔓で覆いながら昴達はフロント奥にある事務室に入った。
事務室には誰もいなかったが、ホテルスタッフが使えるカードキーを見つけたので昴達はそれを拝借した。
スタッフ用のカードキーがあれば、施錠されている部屋や施設に入れるからあるのとないのでは大きく違う。
もしもこのカードキーがない場合、部屋のドアや施設のシャッターを壊してその中に入らなければならないこともあり得る。
そうなれば、必要に迫られてとはいえホテルグランド国生の一部を壊してしまうことになる訳だから、修繕費用が発生することになる。
10月に入って異世界管理局の予算が増えたからといって、それが無駄遣いして良いことには繋がらない。
したがって、穏便に移動できる手段を確保するのは大事なのだ。
事務室にも館内放送の設備や監視カメラの映像を確認できるスペースはあったが、立て籠もり犯はこの場にはいなかった。
事務室から出て来た昴と風華は、そのまま1階のレストランに向かう。
ところが、レストランはシャッターが下りていてこのままでは中に入れない。
(早速、カードキーの出番だな)
風華は敵がどのタイミングで出て来ても良いように構えており、昴も自分の身を異能で守れるようにしながらカードキーでレストランのシャッターを開ける。
シャッターを開けた瞬間、厨房から包丁を拝借したらしい敵の1人が昴に向かって突撃して来た。
「清浄なる日本のために異世界人は出て行け!」
「やらせないわ」
風華が拳砲を放てば、包丁を突き出して突っ込んで来た敵は仰向けにひっくり返って気絶した。
気絶したからといって油断することなく、昴はその者の身ぐるみを剥いでから蔓で簀巻きにした。
剥ぎ取った物の中には
レストランには人質にされていた客が複数いたが、風華が怪しげな動きをした女性を拳砲で気絶させた。
「武器を構えようとした時点で敵だってバレバレ」
人質に敵を紛れ込ませるのは定石だから、風華は元々敵が1人だとは思っていなかった。
それゆえ、怪しいと思った女性が動き出した時には無力化に成功し、残ったレストランの客達やシェフ達に安堵の表情が戻った。
風華の睨み通り、持ち物を確認したら先程と同じ手帳が出て来たため、この女性も
この女性を蔓で拘束したところで、昴は人質だった人達に声をかける。
「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。現在、フロント前の正面玄関から外に出られるようにしてあります。外の構成員は全て無力化して警備員に引き渡しました。手前の方から騒がずゆっくりと脱出して下さい」
昴の指示に従い、レストランにいた人質全員がホテルの外に脱出した。
ホテルの外には警察と異世界管理局からも応援が来ており、ホテルから出て来た人質の安全を確保した。
1階から敵がいなくなったところで、昴達はユキ達がいる地下シェルターの様子を見に行くことにした。
それ次第で今後の状況が変わるため、敵の奇襲を警戒しながら2人は地下に移動した。
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