02-04 まだお別れじゃないぞ。
「そうか、リカは魔王城に向かうつもりなのか」
一夜明け、朝食を取りながらリカが話した内容に、オリーは笑顔でうなずきながらスープを一気に飲み干した。昨日の夕飯と同じイノシシの干し肉スープって言うかお湯で戻したイノシシの干し肉とそのゆで汁って言うか的なスープだ。
「折角、ジー君と再会できたわけだし、ジー君もまた遊びに来ていいと言ってくれたし。魔王城にいるジー君のところにいつでも遊びに行けるところに部屋を借りて暮らせないかなと思って」
「魔族の村で暮らすつもりですか!?」
すっとんきょうな声で聞き返すラレンにリカはのんきな顔で笑いながら保存用のかたいパンをスープに
「僕は魔族と人族のハーフだし、現魔王のジー君も魔族と人族のハーフだ。そんなに不思議なことでも突拍子のないことでもないと思うよ」
「魔族と人族のハーフだから
肩をすくめて苦笑いしながらパンをかじるバラハにリカはやっぱりのんきな顔で微笑んだ。
「ジー君が魔王である以上、魔王を倒すつもりはないし、ジー君が望まないなら魔族も倒さないし、ジー君が望むなら神剣も叩き折る」
「勇者様ぁぁぁあああーーー!!!」
「いや、神剣は叩き折らなくていいだろ、リカ」
「驚くほど神剣の扱いが軽いですね。一応、女神様から授けられた剣なんですよね、それ」
悲鳴をあげて青ざめるラレンと大真面目な顔で
「そういうわけでみんなとはここでお別れだ」
リカは寂し気な微笑みを浮かべてそう言った。
気まずい沈黙がその場を支配したのは、ほんの一瞬のこと。
「いいや、まだお別れじゃないぞ、リカ。俺とバラハも魔王城に向かうつもりだからな!」
「甘いですよ、リカ。この筋肉バカとそう簡単に縁を切れるなんて思わない方がいいです」
オリーはニカッと歯を見せて笑い、バラハはビシッ! とオリーを指さした。
「……って、筋肉バカ!?」
「親にとって子供はいくつになっても子供と言わんばかりにいつまでも付きまとってきますよ、このオリー母ちゃんは。気を付けてください」
「付きまとうって……バラハ、言い方! 言い方に気を付けて! オカーサン、傷付いちゃうから!」
いつものようにワーワーギャーギャーと騒ぎ出すオリーとバラハをリカは目を丸くして見つめた。
かと思うと――。
「何のために魔王城へ?」
「とか言いながら神剣を抜くな。構えるな、リカ」
神剣を手に取り
「魔王を……ジー君を倒すのをまだあきらめてないっていうこと?」
「リカ……魔王のことになると秒で正気を失いますね、あなた。……それで、ラレンはどうするつもりですか?」
リカとオリーの様子をため息混じりに
「バラハ。なあ、バラハ。話題を変えるのはリカが納得して、剣を鞘に納めてからでいいんじゃないか?」
バラハに放置され、リカににじり寄られながらオリーは引きつった笑みを浮かべた。
「リカへの説明と説得は魔王城に向かう道すがらすればいいでしょう」
「ジー君に……ジー君に剣を向けるつもりっていうこと!?」
「神剣を向けられたまま!? っていうかリカ、頬に先っぽが当たってるから! 神剣の先っぽが当たってるから!」
「それで? ラレンはどうしますか?」
「僕は……今すぐに帰りたい……」
バラハに話を振られたラレンは明後日の方向を見つめながらつぶやいた。
だって、目の前ではオリーが降参のポーズでじりじりと後ずさっているのだ。憧れの勇者様なリカは倒すべきはずの魔王のことでまたもや正気を失って仲間に剣を向けているのだ。
「帰りたい、けど……!」
気が遠くなりそうになりながら、それでもラレンはぎゅっと拳をにぎりしめて魂の叫びを発した。
「僕一人じゃ帰れない! だって、白魔導士は回復職て戦う術がないから! 僕一人でいくつもの森やらなんやらを抜けて王都まで帰るなんてできないから!」
「はい、ラレンの同行も決定ー。さっさと片付けて魔王城に向けて出発しましょう」
パン! と叩いてテキパキと野宿で広げたあれこれの撤収を始めるバラハにオリーは悲鳴をあげた。
「まずは……まずはリカを止めてくれ!」
「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けようとするのなら僕は全力でジー君を守るし、全力でジー君を傷付けようとする者たちを排除するーーー!」
「狂戦士化してるリカを止めてくれーーー!」
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