01-02 殺されても許しちゃう!

「勇者が魔族を滅ぼしに来たと報告を受けてな。一般魔に何かあっては困ると思い、勇者一行が森を抜けて魔族たちが暮らす町に一歩でも入ったら強制的にこの魔王の間に転移するよう仕掛けをしておいたのだ。しかし、取り越し苦労だったようだな。リカとその友人なら安心だ。歓迎する」


 ジー君こと、魔王こと、ジラウザ・デュドヴァンは魔王の間の奥に置かれた玉座に優雅に腰かけて微笑んだ。

 頭部からは雄牛のような黒い角が二本生え、黒くつややかな髪は長く、瞳は赤く、左目は眼帯で隠れている。漆黒のマントに隠れてはいるが背は高く、ガッシリとした体躯たいくをしている。


「一般魔?」


「私たち人族なら一般人。魔族なあちらさんなら一般魔という言い方になるのでしょう」


「なるほど!」


「ちょっと考えたらわかるでしょう、筋肉バカ。頭を使え」


 玉座が置かれている場所よりも一段低いところでコソコソと言い合っているのは勇者パーティの二人。薄茶色の髪に焦げ茶色の瞳と人族では良くいる見た目の二人だ。


 一方は戦士のオリー・ポーウェリー。

 戦士らしく鍛え上げられた肉体の持ち主で、視界の悪い場所でよくオークに間違えられて攻撃されたり悲鳴を上げられたりして、みんなが寝静まったあとに一人涙している。


 一方は魔法使いのバラハ・ブンナル。

 紺色のローブをまとった細身の青年だ。オリーとは同郷で幼い頃は実の兄のように慕っていたが、現在は絶賛遅めの反抗期中で事あるごとにオリーのバカさ加減をバカにしている。

 ただし、バラハが特別に頭がいいというわけではない。魔法使いだけど、特別に頭がいいというわけではない。


 そして――。


「情報の混乱があって少々、手荒な歓迎になってしまったがどうか許してほしい。リカやリカの友人である君たちを害するつもりは少しもなかったのだ」


「許す! 許すよ、ジー君! だから、謝らないで、ジー君!」


 申し訳なさそうにうなだれるジーを見て食い気味に首を横に振ったのがリカこと、勇者こと、リカルド・ウィンバリー。


 銀色の髪、金色の瞳のすらりと細身の優男風の青年だ。その穏やかな微笑みと柔らかな物腰から老若男女問わずモテるし、崇拝者も多い。

 いつも腰に差しているのは女神アルマリアから与えられた神剣だ。持ち主同様にすらりと細身の純白の剣で、勇者と共にずっと旅をしてきた相棒だけれど今は魔王城のどんよりとした色の床に無残にもおっぽり出されている。


 そして、そして――。


「ジー君がしたことならどんなことでも……例え、殺されても許しちゃう!」


「それは盲目が過ぎませんか、勇者様!?」


 ニッコニコの笑顔でろくでもないたとえを出すリカに真っ青な顔でツッコミを入れたのは勇者パーティの最後の一人にして最年少の青年。白魔道士のラレン・ベンデルだ。

 金色の髪に青い瞳、整った容姿は絵本から飛び出した王子様のよう……というか、本当に王子だったりする。アルマリア神聖帝国現国王の三人いる息子のうちの末の子、第三王子だ。

 王族で世間知らず、しかも、過激な勇者崇拝者なことからいつもは非常識担当のトラブルメーカーだけれど――。


「だって、ジー君がやること、ジー君が言うことだから」


「相手は魔王ですよ? 人類を滅ぼす魔王ですよ!? わかってますか、勇者様!!?」


「人族を滅ぼすって言われても許しちゃう」


「その曇り切った目は全然わかってませんね、勇者様!」


「むしろ、協力しちゃう!」


「って、勇者様! 勇者様ぁぁぁあああーーー!!!」


 いつもは常識人担当のリカのテンションがジーを前に完全崩壊したことにより、現在、勇者パーティのツッコミ担当を担っている。

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