23 一生安全

「 異世界人のイシ様。この度は本当にありがとうございました。


本来はこの世界の人々が受け止めなければならない全てをあなたが引き受けて下さいました。


悲しい子供を見て心を傷めていた者達にとっては、きっと勇者様よりあなたの方が神様に見えているでしょうね。 」



「 えっ?別に俺、大したことしてませんよ。


毎日洗濯したり料理したりしてただけですし……。 」



正直俺にとって今回の異世界召喚とやらは、保育園の職場体験的なモノだと思っている。


ちょっと岩にぶつかったのは痛すぎたが、まぁ、これも地球では即死していたと考えればいい体験をしたと思う。



” 九死に一生を得た! ” で取材されるレベルかも!?



それ系のドキュメンタリー番組で、 ” はい、まるで世界が変わった様な感覚でした。異世界だけに。 ” とカメラに向かって喋る自分が思い浮かび、キラキラと目を輝かせていると、シンさんはやっぱり困った様に笑った。



「 あんまり ” 普通 ” ではなかったと思いますよ……?


まぁ……本人が気にならないというなら良いですが……。 



とりあえず早く元気になって下さいね。


勇者様曰く ” イシと一緒じゃないと旅なんて出ない ” ────だそうですから。 」



「 えっ?!そ、そうですか……。


ヒカリ君、俺の料理を凄く気に入ってくれたから……。


これは腕によりを掛けて沢山煮込むしかありませんね! 」



ゴッ!と燃えながら、シンさんの回復魔法を受けようと思った、その時────ガンッ!!!と大きな音を立てて扉が開かれた。



ビクッ!!とシンさんと共に体を震わせ、音がした方に視線を向けると、そこには不機嫌全開!!の勇者様の姿が。



「 ────ねぇ、何でそんなに遅いの?


……早くしてよ。


それにイシ、随分嬉しそうだけど、何がそんなに嬉しいの?


そいつと話しているから?


お話好きなら俺と話せばいいのに、何でそうしないの? 」



べらべらと早口で紡がれる言葉達にシンさんは固まり、俺は驚く。



しまった〜!これは仲間外れ感が出てしまったぞ〜?



「 ごめん、ごめん。


ちょっとせっかくだからとお話に夢中に耽け込んじゃったんだ。


別にヒカリ君を仲間はずれにしていたわけじゃないからね。


一緒にお話ししよう。 」



「 …………ふ〜ん?……そう。


じゃあ早く終わらせてそこのあんたは消えて。


イシを早く治せ。 」



中学生あたりで突発的に出る ” 消えろ!このクソババア! ” 的な発言に流石にコラッ!したのだが、ヒカリ君はツンッ!としながら、ベッド脇にドカッと座り、俺の手を握る。



「 イシの身体は凄く弱いんだね。


こんなに弱くてどうやって生きてきたの?



あぁ良かった。今まで死ななくて……。


これからは大丈夫。


一生怪我一つもしなくなるからさ。 」



「 いやいや、おじさんをちょっと舐め過ぎじゃないかな〜?


そもそも俺の世界にはモンスターなんかいないからさ、俺が普通レベルなんだよ。 」



そりゃ〜動物よりも遥かに強いモンスターが蔓延るこの世界。


そこに生きる逞しき人々からしたら、地球人の弱いこと弱いこと!


多分今の時点で俺はこの世界最弱男だと断言できる。



納得するように首を縦に振っていると、ヒカリ君は口角をスッと上に上げて微笑んだ。



「 そう……。でもこれからはモンスターだらけの世界で生きてかなきゃいけないから、俺の側を離れられないね。


イシは見たことない景色を沢山見たいんだよね?


最初はどこに行こうか。


どこでも連れてってあげるよ。どこがいい? 」



固まっていたシンさんの肩がビクッ────!と大きく跳ねた様だが、反対側にいるヒカリ君を見ていた俺はそれには気づかない。



「 おお〜!いいねいいね!ありがとう!


でも、俺、多分何処見ても感動するよ。


だってこの世界初めて来たからさ。


またヒカリ君達がモンスターを討伐してくれてる間にマイペースに色々見るよ。


だから早く体治ってくれないかな〜。楽しみだ。 」



「 そっか。イシが楽しいなら良いよ。


俺、またカボチャの煮物食べたい。


あと角煮も。


フカフカの布団も干してよ。今度は地べたで寝ないで一緒に寝よう。 」



ニコニコと嬉しそうにおねだりしてくるヒカリ君は何とも可愛い。


しかも今まで焚き火の側の地べたに寝かせられていたというのに、テントの中で寝てもいいとのお許しまで出た!



これは前より快適な旅ができそうだぞ〜?



ウキウキしながらワイワ〜イ!と喜ぶ俺に、震える手でシンさんが回復魔法をかけ始めてくれた。




そして一週間後!


完全回復を果たした俺は、朝日に向かって、うう〜ん!と大きく伸びをした。



「 貴重な体験とは言え、ベッドに寝たきりはあんまり楽しくなかったな……。


やっぱり足腰を鍛えて寝たきり老後はできるだけ回避したい。 」



「 ……何ブツブツキモい事言ってんのよ……。 」


俺の呟きを近くにいたアイリーンがキャッチし即座にツッコミを入れてきたが、何だかキレがない。



多分その理由は────。



チラッと隣に視線を向けると、肩がべっとりつくくらいの距離にいるヒカリ君。


そんな憧れの勇者様が近くにいるため、アイリーン達は借りてきた猫ちゃんモードに突入しているようだ。


どうせ直ぐにヒカリ君が離れたら元に戻るだろうが、期間限定おすましさんになった四人を見て少しだけいい気分!


ちょっと情けないが、フッフッフッ〜と笑ってやった。



「 イシ、嬉しそうだね。


────じゃあ行こうか。 」



周りに関心がないのは前と同じ。


でも、それが更に酷くなったというか……。



ヒカリ君には後ろでジト〜ッと俺を睨むアイリンーン達も、気まずそうにしている王様やシンさん達一部の神官、貴族達も、更にはギリギリと唇を噛み締めて怒っている残り一部の貴族や神官長達の姿も一切見えてない様だ。


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