21 いい体験をした
それから結局俺は一ヶ月もそのベッド生活を余儀なくされてしまい、神官のシンさんに毎日の様に回復魔法を掛けて貰う事に……。
どうもシンさん曰く俺は魔力0の影響か回復魔法が効きづらく、あと少し遅かったら確実に死んでいただろうとの事。
それにヒェッ!とい悲鳴を上げながら、ひたすらベッドで寝ていると、なんとアイリーン達までお見舞いに来てくれたので御礼を────告げる前に大説教したよ。
洒落にならないイタズラに、コラッ!した。
すると、アイリーン達はその時はしおらしい感じで帰っていったが・・部屋を出る直前「 次は──……。 」等と言ってニヤッと笑っていたから、多分反省してないと思われる。
アイツら……。
全然変わらなさそうな四人にため息しか出ないが、変わりすぎてため息が出てしまう困った君が実は隣にいる。
圧倒的な美しさとパワーを持ち、誰もがひれ伏すスーパーヒーロー
ズバリ世界を救いし勇者様!……のヒカリ君だ。
ヒカリ君はあれからまるでカルガモの赤ちゃんの様に俺にひっついて離れなくなってしまった。
ベッドに寝ている時は勿論の事、トイレに行く時までヨチヨチついてきて個室にまで入って来ようとした時は流石にやんわりと止めたが、それでも姿が見えないと────
「 イシ。 」
「 イシ。 」
「 イシ、いる? 」
「 ねぇ、ねぇ……イシ、イシ………… 」
……と、何かの呪文の様にひたすらドアを叩き、喋り続ける。
名前を呼びながらトイレのドアを叩く……そんな事するの学校の怪談くらいじゃない??
女子トイレのお化け呼ぶヤツ……。
ちょっと怖いから辞めて欲しいと思いつつ、仕方がないので「 はいは〜い。 」「 入ってま〜す。 」「 イシおじさんはトイレ使用中でぇ〜す。 」と返事を律儀に返している。
そしてまた部屋に戻る俺の後にヨチヨチとヒカリ君はついてきて、部屋に戻ると────そのまま俺が寝転がったベッドの傍らに座り、またずっと俺を見て過ごす。
……退屈じゃない?
別に害はないから放っておいているが一応気を使ってそう問うと、逆に不思議そうな顔で見返されてしまう。
別に暇じゃないならいいけど……モンスター討伐行かなくていいのかな?
フッとそう思ったが……今まで働きっぱなしというブラック企業真っ青案件だった様なので、有給消化と思えば足りないくらいか!と思い直し、ニッコリ。
そのままニヤニヤとしていると、ヒカリ君は不意に俺のおでこあたりをペタッ……と触り、そのまま髪の毛やほっぺ、鼻や顎も同様に触る。
そして最後に口をアヒルの口になる様に摘み、クニクニと揉んで遊びだしてしまった。
何が楽しいのか知らないが、ヒカリ君はとにかくこうやって何かを確かめる様に触ってくる様になった。
これも何だか本人が楽しそうなので放っておいてはいるのだが、なんだかこの手付きデジャブ感あるな〜とボンヤリ思っていて、つい最近ハッ!と思い出したのだ。
肉の査定……。
前に見たテレビで、肉の品質などを調べるためにペタペタとお肉の固まりを触っていた映像が出てきた事があった。
俺はその霜降りの美しさに目が釘付け!
いつかあんな素晴らしいお肉をお腹いっぱい食べてみたいと願いながら、それをモニモニと触る職人さん達の手の動きと、即座にランク分けされる肉に拍手を送る。
それがまさか自分がその霜降り肉の方の体験をしてしまうとは……。
人生はまさにサイクロン!
流石は異世界!
楽しくなってきて、へへへ〜と笑うと、その口の動きが楽しかったのか、ヒカリ君は口を更に激しくモニモニモ二〜!!と揉んでくる。
はい、こちらの唇は活きが良いですからね〜。
簡単には査定されませんよ〜?
そのまま揉んでくる手を避けるため、右へ左へと唇をウニウニ動かして遊んでやっていると……突然コンコンという扉を叩く音が聞こえた。
「 ふぁ〜い。 」
ヒカリ君は俺の唇に夢中なため俺が返事を返すと、入っていたのは神官のシンさん。
現在彼は暇さえあれば俺に回復魔法を掛けに来てくれている、俺の主治医的な存在だ。
シンさんは勇者ヒカリ君を大きく避けてベッドの反対側に回ると、ベッドの横にストンッと座りこみ、俺を覗き込んだ。
「 だいぶ良くなりましたね。
これならそろそろ日常生活くらいには戻れそうですよ。 」
「 ほんとですか?
それはそれは、シンさんには本当にお世話になりまして〜。 」
ベッドに横たわったままペコ〜と頭を動かして御礼を告げると、そのせいで唇から手が外れてしまったヒカリ君の機嫌は急降下!
ジロッ……!!とシンさんを睨むと、睨まれたシンさんは汗をダラダラ掻きながらスッ……と視線を大きく外す。
「 ヒカリ君、ヒカリ君。ちょっとこれから真剣に回復魔法を掛けて貰うから、少しだけ部屋の外に出ていてくれないかな?
俺、死ぬほど集中しないと回復魔法が効かないらしいから。 」
「 …………。 」
ヒカリ君からは更に不機嫌全開オーラが漂ったが、俺の怪我をしている身体を見回し、非常に嫌そうな様子で部屋を出ていった。
そこでシンさんが大きく息を吐き出し、ヘナヘナ〜と力なくベッドの上に上半身を落とす。
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