第66話 アルバイト始めます
驚愕の事実に思考停止する俺の前に座るナインはオムライスを食べ終えてスプーンを置いた。
「前にも言ったが、お前と初めて会ったとき『かなりイケてる』と思ったし、『すげぇ可愛い娘だな』って思った。さらに、お前が男だと知ったときは羨ましいと思った」
「羨ましい?」
「だってよ、可愛いアイテムを装備できるのは可愛いヤツの特権なんだぜ? お前は生まれつき、その特権を持っているんだ。俺にはないものだ」
「そんな風に考えたことはなかったな……。でもあんたのその強面っていうか、いかついキャラだって羨む人間はいるんじゃないのか?」
「そうかもな、人ってのはないものねだりする生き物だからな。とにかく、これは個人的な意見だが、せっかく可愛いのにもったいないと思ってよ。無理やり女装させられているならやる必要はない。けれど一度でも悪くないって思ったことがあるなら、たまに隠れて女の格好するくらいしてもいいんじゃないのか?」
「……うん。なんかよく分からないけど、なんとなく分かったよ。要は向き合ってみろってことだろ?」
オレの言葉にナインは何も答えず静かに笑った。
「それにしても美味いな、あんたの作ったオムライス」
「だろ? 作り方教えてやろうか?」
「うん、また来てもいいか?」
「ああ、いつでも来い」
ナインは言った。いつも通りの口調で、これまでの会話をそっと胸に秘めるように。
ナインはそれなりの覚悟を持って自分の秘密を俺に打ち明けたのだ。
だからこの男の覚悟に免じてオレも本気で向き合ってみようと思う。自分と、氏家さんの気持ちに。
そして、俺のネコメイド喫茶でのアルバイトが始まったのだった。
______________
ここで第五章は終わります。
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