第8話 民主主義の奥義

登場人物 


 七海 中学二年生、女装すると美少女に変身

 委員長 七海のクラスの委員長、メガネ

 山田 クズ




 オレはライオンの檻に投げ込まれた気分だ。


 教壇に立つクラス委員長は静かに窓の外に視線を向ける。


「ああ、みんなハッキリと口にしなかったがな……。だが、罰ゲームで初めて女装したお前を観たときに思ったはずだ。如何にもって感じの安っぽいコスプレ用のセーラー服だけど、まあ、これはこれでアリ寄りのアリアリだな、と」


「ワリと直球ストライクじゃねーかッ!?」


「だから山田たちだけを責めないでほしい。彼らは俺たちのためにわざと汚れ役をやってくれていたのだ」


 そう言って委員長は頭を下げた。

 クラスの連中が一斉に、うんうんと頷く。


「いやいや、良いこと言ってる風だけどやってることはクソだからな」


「そうは言ってくれるなよ七海、元をたどればすべてはこの異性と隔絶された男子校という閉鎖された環境がいけないのだ」

 委員長は握りしめた自らの拳を悔し気に睨み付けた。


「それは一理あるかもしれないけど……」


 この一言がマズかった。

 水を得た魚のように委員長のメガネの奥の瞳が輝く。


「そうか、分かってくれるか七海。ここはクラスのために一肌ぬいで、いや、着てはもらえないだろうか?」委員長がしたりと言う。


「なに上手いこと言ったみたいなツラしてるんだよ、嫌だよ」


 オレはハッキリと拒否するが、委員長はそう易々とあきらめる男ではない。


「週一がダメなら隔週……、いいや、月一でもいい。お前が女装してくれるのならば俺はお前のために校則を変えて『女装する日』を制定する覚悟だってある」


「キモいことを男らしく言うな」


「とにかく、ここで決を採る」

「なにッ!?」

「週一のLHRの時間は全員女装に賛成の者は挙手を!!」


 このままでは押し問答になると踏んだ委員長は、民主主義の奥義『多数決』を発動しやがった。




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